諏訪直美とは
諏訪直美
プロフィールは非公開である。彼の監督する作品は、小説が原作であることが多い。その小説の世界観を忠実に再現することで評価が高い。また独特のカメラワークから、見る人が見ればどのような作品であっても彼が監督したということが分かる。
大学に戻り、課題をしている合間に息抜きがてら彼のことを調べてみたが、作品に関する情報は上がってくるが彼個人の情報はほとんど手に入らない。
本当に彼は諏訪直美だったのだろうか。
眼鏡を外して眉間を揉む。どうやら少し疲れているらしい。
彼が本当に諏訪直美だったとして、それが美結の仕事にどれだけの影響があるのか。将来は女優になりたいと言っている美結にとってこれはチャンスである。私はほとんど美結の仕事のことは知らないが、人気モデルの出演する作品として諏訪直美の名はとても良いものであることは分かる。
「どーしたもんかなー」
大学の喫煙所である校門の脇で煙を吐き出す。ニコチン依存であるが、妊娠でもしないかぎり止める気はない。
「あれ?夕夏ちゃんじゃん。帰ったと思ってた」
「冨永センセ、午前ぶりです」
冨永先生は、鬼畜ゼミとして有名な経済学部の先生である。課題が鬼畜ではあるが、講義は分かりやすく普段は学生に優しいためMな女子たちの憧れを一手に引き受けている。
私が一般教養で経済の授業を受講した時も鬼畜な課題に泣かされたが、その分お誉めの言葉をたまわった。今では喫煙仲間として仲良くしていただいている。
「センセ、諏訪直美って知ってますか?」
「ああ、映画監督の?俺あいつ嫌い」
狐に似た容姿で腹に一物抱えてそうな人であるが、好き嫌いははっきりしている人である。
「まあ、恋愛ものメインですもんねー…」
この先生が恋愛ものの映画を観てる場面を想像すると何だか笑えてくる。
「や、そうじゃなくて。昔の自主制作の頃は結構好きだったんだが今ではただの売れ線の映画しか撮ってねえし、あいつ」
「そうだったんですか?」
ざっとしか見ていなかったが自主制作について触れられた情報はほとんどなかった気がする。人気少女コミック映画化で観客動員数いくらだのそういった情報がメインだった。
二本目のタバコに手を出しながら、私は尋ねる。
「どんな映画だったんですか?」
「…あー、痛ましいっていうか、なんていうか観た方が早いわ。今度貸してやる」
「持ってるんですか?」
ほとんど情報の上がってこない自主制作映画のDVDを…
「俺の兄貴が諏訪直美の同級生で結構仲良かったらしい」
「へー…って先生いくつでしたっけ?」
「34。ちなみに兄貴は38」
は?今日会った諏訪直美はどう見ても20代後半30はいってないんじゃないかなあという容姿であったが。
「それとな。あいつ、男だぞ?」
先生はとっておきの情報のように言ったが、私はおざなりな返事しか出来なかった。