急転直下
いいことばかりは続かないというやつである。しかし夏が始まってから色々な出来事に遭遇してきたが既にいいことばかりではなかったのだ。もう少し浮かれていたかったというのが正直なところである。
それは、じわじわと私の日常を侵食し始めた。
学部生がほとんどいない夏休みの大学であるが、それなりに人目はある。その視線がなぜか私に突き刺さる。好奇の眼差し。一体、何が起きたのか。その答えを持ってきてくれたのは、香代の彼氏であるところの光輝くんであった。彼はうちの大学の経済学部の院生である。
「すっごい、言いづらいし、俺、香代みたいになんつーの、こううまく口が回るたちじゃないんだけど、さ」
「うん。とりあえず、言って」
大学の自販機の前で呼び止められたわけである。友達の彼氏であるが、あまり話したことのない私に用があるとは何なのか。
彼は、一枚の紙を差し出した。そこには、うちの大学の某サイトのスレッドが印刷されていた。
「俺は、香代からあんたの話聞いてるし、こんなやつじゃないって知ってるけど、多分、夏休み開けたら、大変になるんじゃ…」
「うん。ありがとう」
息を吐く。なるほど。犯人にも心当たりがちらほらあるが、こう来たか。
「光輝くんは、優しいね」
きょとんとした顔をする彼は、整った顔はしていないが小動物のようで可愛らしい。
「香代に言わせたくなかったんでしょ」
香代が彼を選んだ理由がよく分かる。
「や、でも、俺にできることって、あんたが悪いやつじゃないって知り合いに言うくらいだし」
「それでも、充分、優しい人だよ」
私は微笑む。まだ大丈夫。私はまだまだ大丈夫なのだ。
「とりあえず、香代には黙ってて。心配するだろうし」
これお礼。私が差し出した缶コーヒーを彼が受け取ったのを確認すると私はその場を立ち去った。
建物の外に出る。
暑苦しい外気に目眩がする。
「よし、うちに帰ろう」
今日の予定は放棄だ。