心配
「そっか。泣けたんだね夕夏」
よかった、と香代が微笑む。
連れてこられた学内の食堂で、合コンの話は省略したが冨永先生の部屋に泊まったことなどを香代に報告した。それはまとまりのないポツリポツリとした話し方であったが、香代は最後まで聞いてくれた。
「ずっと心配だったんだ。夕夏、カウンセリングのスーパーバイザーとかでも泣かないでしょ?ゼミ生全員一度どころか二度は泣かされてるのに、夕夏だけ、泣いたことがなかったから」
そんな心配をかけていたことに、私は気付いていなかった。
「で、どうなの?好きなの?冨永先生のこと」
「よく、分からないや。だって冨永センセがそもそも私のこと好きかもよく分からないし」
「いや、あれは絶対好きだって。学部生の頃からずっとだし。あからさまに夕夏だけ特別扱いだったし、視線がもう女を見る目だし」
なんだそのセクハラ目線は。
「だいたい、賭けになってるんだからね。二人がいつ付き合うか」
「ちょっと待て。それ、元締め誰よ」
「平良教授」
先程、にこやかに香代と私を見送った老教授である。
「ちなみに平良教授は冨永先生はヘタレだからまだまだ先でしょうって卒業付近に賭けてるんだけど、私はこの夏に賭けてるんだから早く何とかしなさい!!」
「あんたの都合かよ!!」
だいたい、私自身、ずっとどこかで冨永先生の気持ちには気付いていた。そして、知らないふりをしてきた。怖かった。いつか好きじゃなくなられることが。私が彼を好きになってしまって失うことが。
「恋なんてワケわからないものよ。私だって光輝となんで付き合ってるのか分からないし。なんでここまで続いてるのかももっと分からないし」
香代には高校生の頃から付き合っている彼氏がいる。
「それはユング心理学的には」
「そういう御託はいいのよ!!」
「いや、臨床心理士の目指してるんでしょうが、あんたも」
「ああもう、理屈じゃないってことよ」
香代はきれいに笑った。それはどこか母親のようだった。
「うまくいくといいね」
そして、私もそれを願った。
願って、しまった。




