美しすぎる妹
私、村山夕夏の妹である村山美結は超絶美人である。中学生の頃にスカウトされ、高校生の今ではモデルとして活躍している。卒業後は芸能界に入り、女優として活躍したいのだと稽古にも通いながら期待で胸を膨らませている。
一方、私は平凡な容姿である。ブスとまではいかないが地味と言われることは多い。私立の大学院生であり専攻は心理学。将来は臨床心理士になる予定である。臨床心理士として公務員になれたらラッキーだと思っていたが恐ろしくその枠が狭いことを知ったのは大学1回生の夏。それでも心理職に憧れがあり、その憧れを無惨にも踏み潰されながらも今日がある。
中学生の頃、私は学校のカウンセラーの方にお世話になっていた。いじめにあっていたわけでも、虐待を受けていたわけでもないが、美しすぎる妹を持つ地味な姉としては多感な年頃には悩むものである。その先生に憧れてしまったのが運のつきである。
「おねーちゃーん!!」
大学に向かう朝8時、妹から電話があった。
「どしたの、美結」
低血圧の私の声は低い。
「今日の午後に撮影があるの忘れてたー」
可愛い顔にどじっ子属性である。というか、末っ子は困ったら誰かが何とかしてくれるという謎の信念でも持っているのだろうか。
「で?」
「学校に迎えに来て現場まで送ってください」
ため息を殺しながら、今日のタイムテーブルを組み直す。行けないことはない。なんのかんの私も妹に甘い姉である。
時間を確認して電話を切る。家を出て、愛車に跨がる。高校卒業後に取った中型二輪の免許は何かと妹にこきつかわれる要因となっている気もするが。
今日も快晴。気温は真夏日となるらしい。7月初旬のその日、全てが始まった。