モンスター化
「いや、だからもともと日本人だったんだよ」
「嘘をつくな! ――いや、でも考えてみればそんな感じがありそうな」
考えてみれば僕のステータスプレートは日本語だった。
翻訳っていうスキルが発動していたっていう可能性もあるが。
でも、僕のステータスプレートなのに僕が読めない言語だったらどうするんだ。
翻訳がないと読めないよな。
そう考えたら魔王が日本語を読んでたという可能性が出て来るのか。
そうだとしてもそう思いにくいな。
魔王の見た目全く日本人じゃないからな。
まじまじと魔王を見てみる。
目に優しい緑色の髪型に、それに合わせた綺麗な緑色の目、バランスの良い整った顔つきをしている。
黙っていれば、ただのイケメンにしか見えないだろう。
体つきは、服で分かりにくいが引き締まったいい体をしていると思う。
これじゃ体つきは、日本人と判断する材料にはならないな。
尻尾とかそういうのがあったら分かるんだけどな。
とりあえず顔つきだけを見て判断しても全く日本人に見えない。
「ん? どうした」
「日本人には見えないな、特に髪色とか目の色とか」
「ああ、これはな染めたんだよ」
染めただと……異世界にそんな技術なんかあったのか。
にしても、染めた割には綺麗な色をしているな。
というか、目って染められるのか? カラコンの方が信じられるな。
何故染めたんだろうか。
「なんで染めたの?」
「そりゃあな、元の黒髪黒目じゃ勇者だとすぐバレるからな。この世界には黒髪黒目の奴は異世界人しかいないから染めたんだよ」
「へー、でもそれだと魔王って元勇者みたいだな」
「そうだけど」
「いやいや、もうマジか」
「あんまり、驚かないんだな」
「もともと日本人ってところから、なんとなくそうかなーって思ってたからな。でも何で魔王になってるの?」
「まあ、いろいろあったんだよ」
「ふうん」
あ、この流れはあんまり詮索しない方がいい流れだ。
それにこの流れだと成りたくて成ったという分けではないのだろう。
魔王とただ名乗っているだけの魔王という線も薄いな。
勇者で通してた方が周囲の反応も良いだろうしな。
本当の魔王というのには、なんか条件があったりするのだろう。
興味あるけど、知られたくないよな。やめとくか。
「そういえば、魔王でも勇者召喚出来るし、この世界って誰でも召喚出来るの?」
「ああ、勇者を召喚するためのかなりレアなアイテムを持っていて膨大なMPさえ持ってれば誰でも出来る」
「つまり、一部の人しか無理なんだね」
「そういうことだな」
それだったら僕でもそのうち勇者召喚出来そうだな。
膨大なMPか……いったいどのくらい必要なのだろうか。
魔王は一気に魔王召喚したぽかったし、そんなに……いや、魔王が凄いのだろう。
「まあ、そんなことは別にどうでもいい。今はナオのモンスター化が気になる! 早く行こうぜ!」
「そうだな」
「はい、転移っと」
うおっ、転移とかそんなのあるのか。便利だな。
絶対使えるようになろう。
――――――――――
「うおっ、酔った気持ち悪い」
「大丈夫かナオ? お前酔いやすい体質だったんだな」
そういえば、初めて転移した時も気持ち悪くなってた気がする。
僕って、転移向いてないのかもしれない。
覚えるのやめようかな。
「まあ、初めは皆そんな感じだけどな。だから、安心しろ! 何回も転移をしてればそのうちなれる!」
「マジか!」
よし、やっぱ覚えよう絶対便利だろうし。
それにしてもここ凄いな。
かなり広い。
前と後ろに大きな扉があって、円形になっている。
直径百メートルは軽く超えてそうな大きさだ。
観客席と思われる席がたくさんあって、ちらほら人が座っている。
まるで、コロシアムとかが行われるコロセウムみたいだ。
「凄いだろこのコロセウム俺が作ったんだぜ! あれ、コロセウムって知ってるよな」
「コロセウムかい!」
「お、おう。ゴホンッ、まあ、ここだったらどんなモンスターになっても大丈夫だろう。とりあえず一回なってみろ」
「どうやって?」
「モンスター化って言ったら、モンスターになりますか? っていうステータスみたいなのが出てきて、はいといいえが表示されるんだよ。はいを選択したらなれる」
「分かった」
本当にゲームみたいな設定だな。
とりあえず一回やってみるか。
えっと。
「モ、モンスター化」
うわ、凄い恥ずかしいなこれ。
元の世界だったら、変人にしか見えないレベルだよ。
目の前に薄くて四角いものが出て来た。
本当にステータスプレートみたいだ。
これに、「はい」ってやるんだよな。
――――――――――
うわw中二みたいw、え、何? モンスターになるの?
お願いします 頼みます
――――――――――
ん? 何だこれ。
何か凄い馬鹿にされてる上に拒否権が無い。
叩き割りたい衝動に駆られるが衝動に任したらやばい気がする。
もしも、割れなかったら絶対メンタルが傷つくし、さらに馬鹿にされそうだ。
しょうがない、「お願いします」を押すか。
何故敬語しかないんだと思いながら「お願いします」を押した。
うっ、……体がうずく。
何か体中を何かが這いずり回ってる感じだ。
ズキズキと体中が痛い。
えっ、なにこれやばい何かに呑まれそうだ。
意識が朦朧としてくる。
「あががっ、くっ、魔王! これ大丈夫なのか」
「そりゃあな、体の形が変わろうとしているからな。意識をしっかり保っとけよ」
「うぐっ、なっ何で?」
「言って無かったけ、失敗したらモンスターになっちゃうんだよ、自我の無いただのモンスターに」
「聞いてねーわ!」
「お、そうだったけ? まあ、安心しろ失敗したら俺がちゃんと殺してやるから」
「安心できねー! 絶対恨んでやるからな! うっ、うわー!」
やばい、もう本当にやばい。
自我の無いモンスターは本当に嫌だ!
だって、僕っていう人格が死ぬってことじゃん。
体中に電流が流れた気がする。
「うっ、うわ、があああああ――――」