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現実  作者: あいうえお
召喚編
2/21

逃げ回る逃避者

「まだ最後の勇者来ねーな」


 昔、あまりにも存在するモンスターが強く人が寄り付かなくなったことから死地と呼ばれた場所がある。

 そして、その中心地にちゃっかり城を構えた魔王のせいで更に人が寄り付かなくなったためデスグラウンドと呼ばれる場所になった。


 その城の一角、魔王の部屋で魔王がそう呟いた。

 しかし、答える者はいない。

 何故なら、魔王しかいないからである。


「あれから、一週間は普通に過ぎたよな……何故まだこないんだ。もしかして、失敗したのか……しかし、同じ方法で召喚した他の奴らは三日以内に来たのに……よほど大物なのか、そうじゃないのか……」


 誰もいない事が分かっているはずのに魔王は尚、一人で喋り続けた。


「失敗してて、他の所で勇者を召喚されていたら困るんだよなぁ。勇者って魔王殺しに来るし……戦うの面倒だしで」


 このように魔王は、ただ戦うのが面倒だという理由で勇者を召喚し、ついでに、あわよくば戦力にしてやろうという不純な動機で召喚しているのかもしれない。

 

 余談だが、勇者の召喚には、勇者の欠片というものが必要である。

 勇者の欠片は、高レベルのモンスターを倒したらかなり低い確率でドロップしたり、ダンジョンの宝箱からかなり低い確率で出て来たりする。


 ちなみに魔王は定期的にいろいろな国から勇者の欠片を強奪している。

 強奪が円滑に進むように、部下達とじっくりと話し合い、強奪するためのプランをいくつも作っては検討して白紙に戻し、作っては検討して白紙に戻しを繰り返しプランを作っている。

 そうして出来たプランだけには留まらず、プランAプランBと作っていき、五個ぐらい出来てから実行するという感じにかなり慎重に行っていた。

 しかし、最終的に魔王が一人で突撃したら、だいたい上手く行く。


「早く勇者来ねーかな。ここまで焦らされたら流石に凄い奴が来るのかな……楽しみだなー!」


 何故、独り言でここまで盛り上がるのか?

 きっと従者がいたら心配されるレベルの病気だろう。



「――様! 魔王様! やっと最後の勇者様が来ましたよ!」


 魔王が独り言をペラペラ喋っていたら、魔王の従者の一人が扉を勢いよく開け入って来た。

 魔王は、一瞬独り言を聞かれていないか心配になったが、従者の話が理解出来た瞬間勢いよく立ち上がり威厳を身に纏った。


「本当か! 今すぐ勇者を俺の下に連れて来い!」


 そして、さっきの醜態を取り繕う、魔王が思うにカッコよさげな成分を含めた一言を放った。


「分かりました!」


 従者は、ブツブツと何かを唱えたと思うと、叫んだ。


「魔王様の命令だ! 皆、勇者を捕らえて魔王様の下に連れて来い!」


 拡声に関する魔法でも使ったのだろう。

 その叫びは城内中に響き渡った。

 それに伴い城内のいたる所で、従者達の答える声が響く。


「では魔王様、私も行って来ます」

「任せたぞ!」


「フフッ、どんな奴なのか楽しみだ」

 

 従者のいなくなった魔王の部屋では、魔王の楽し気な声が不吉に響く。



――――――――――



「よく来たな勇者よ!我は魔王――――うーん、古いし、テンプレか? 何かもっとこう――」


 ギィィィィ――


「ヒイッ!」


 魔王がいつ勇者が来るかワクワクしている時、魔王の部屋のドアが勢いよく開いた。

 勇者に言うカッコいいセリフを考えていた魔王は、いきなり扉が開き結構ビビった。

 そして、そんな事を知る由もない従者が入って来る。


「貴様、ノックをしろ!」

「すいません魔王様! だけど緊急事態なんです勇者様が――」

「何! 捕まえたか!」

「いえ、凄く逃げ回り全然捕まりません! 私達の包囲網をするする潜り抜けて行きます!」

「なんだと、それは本当か! ――俺の従者達の包囲を抜けて行くなんてどんな奴なんだ」

「はい、そこで少し手荒に扱ってもいいかのご相談を」

「……少しならいいだろう」

「ありがとうございます! では、皆に伝えてもう一度行って来ます!」


 従者は再びブツブツと何かを唱えたかと思うと叫ぶ。


「魔王様からお許しが出た! 少しなら手荒に扱っていいと!」


 そして、従者は部屋を出て行った。

 魔王は静かに目を閉じ黙考する。


「やべー威厳たもてたかな。ビビったー」


 そう魔王は静かに呟いた。



――――――――――



「ようこそ、勇者。ここであったが――うぅーん、何かもっとこう、威厳が溢れてかっこいい感じの一言が無いのか? ……それにしてもまだ捕まらないのか」


 またもや、魔王は一人でブツブツ呟いていた。

 従者に見られたら、威厳も何もなくなってしまうような独り言、魔王はバレていないと思っているが、実はもう従者にはバレていたりする。


 従者は皆良い奴だったので、見て見ぬ振り、聞いて聞かぬ振りをしていた。

 勿論、魔王はそれに全く気付いてない。

 そして従者達は、そんな魔王を親心にも似た暖かい眼差しを向けていた。


 ギィィィィ――――バタンッ!


 再び扉が開く音がした。


「ヒィィッッ――――だから、ノックしろよ!」

「あ、すいません」

「ん?」


 魔王は不思議に思い考える。

 ――あれ、こいつ誰だっけ。おかしいな、俺の城にこんな奴居たっけか――

 魔王がそう思える見たことのない奴が部屋に入って来た。

 服装がここらじゃ見られないもので、グラサンをかけている。

 

「どうしたんですか?」


 見たことのない男が魔王にそう語りかけて来た。


「いや、失礼を承知で聞くけど、お前誰だっけ?」

「貴方こそ誰ですか? 人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが筋では?」

「お、おっと失礼。俺は、この城の主でここらの魔王をやっている。名は――」

「魔王だと!? ここにも電波がいたのか……」


 男は酷く困惑した様子だった。

 そして、こちらを向いている体を方向転換し、扉のある方向に凄い勢いで走り出した。

 どうやら、逃げるつもりらしい。


 ――この反応、あの見た目……あいつ勇者だな――

 魔王はやっとそう理解した。

 魔王は考えるやいなや肉薄する。


「消えた――うわっ!」


 男は偶然振り返ったらしく、いきなり消えて、いきなり目の前に現れた魔王に驚いた。

 魔王はその隙を見逃さず手を広げ、開いた手を絞める。

 うっかり、殺さないよう慎重に拘束した。

 魔王を電波だと思い逃げ出した男はこの時、走馬灯を見ていた。


「勇者確保!」

 

 逃避者は魔王に捕まった。

 


 

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