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現実  作者: あいうえお
ダンジョン編
10/21

誰も聞いてないと思った時はだいたい誰かが聞いている

 今いる四階層をウロウロしていたら分かった事がある。


 僕を大怪我させる事が出来た(大部分は自分のせい)犬っぽいモンスターは人形の武器による一振りであっさり死ぬレベルのモンスターだった。

 というか、僕に突っ込んで来た所を一か八かで蹴ってみたら普通に倒せた。

 つまり、犬っぽいモンスターは本当に足が速かっただけなのだ。

 そのことが分かったので、あとはもう無双した。

 あっちから突っ込んで来るので足で対応して倒し、時々失敗し爆発するという繰り返し作業を行った。


 もう何匹倒しただろうか? 少なくても五十は倒したはずだ。

 犬っぽいモンスターは群れで行動している確率が高く、だいたい三~五で現れた。初めに倒した一匹で行動しているのは本当に稀だった。


 初めに倒した犬と言えば、当たられて爆発する前に大半の爆発物を投げたのだがその投げた場所にぽっかりと深い穴が出来た。

 面白がってその穴の深さがどこまで行くのか試した。

 爆発物を作っては投げ、作っては投げと遊んでいたら、次の層に貫通してしまった。


「ダンジョンに穴開いたな……まあ確かに、遊んでる最中に貫通させてやるっていう目標がいつのまにか出来ちゃって歯止めがきかなくなった気はしたけど、まさか本当に貫通するとは……どうするのが良いと思う、人形?」

「新シイ階段ガ出来タトデモ思えば良イノデハ?」

「確かに!」


 貫通した以上これはもう穴では無い。

 階段だ。

 そして各階層に階段があるのは別におかしな事では無い。

 例えそれが二つ目で、作った人がそんなのありかよ! と言っても知った事では無い。

 作らせたそっちが悪い。

 こっちはただ自分のスキルを使っていたら貫通しちゃっただけだ。

 悪気なんか全く無かった。

 ただちょっと貫通させてみたかったという子供心が暴走しただけだ。

 バレても笑って許してくれるだろう。


 そう言えば、五層ってどうなっているんだ?

 まさか、また同じモンスターとかじゃ無いよな。

 覗いてみるか。


 僕は穴に顔を入れて覗いてみる。

 人形が気を利かせて落ちないように体を押さえてくれた。

 本当に優しい人形だな。


 ここからちょうど真下に大きなモンスターがいるな。

 犬っぽいモンスターをそのまま二倍したような見た目だ。

 あの大きさで足が速かったら流石に痛いだろう。

 そして、大きなモンスターの正面方行には扉があった。

 そう言えば扉ってこのダンジョンでは初めて見たな。

 階層の端には松明が等間隔で置いてあってあの扉から入ったらあの大きなモンスターがまるでボスモンスターに見えるのだろう。

 ……あれボスモンスターだな。


 僕は体を起こし、今度は人形に覗かせた。

 一応、落ちないように体を押さえといた。


「人形、あのモンスターってボスモンスターに見えるか?」

「見エマスネ」


 やっぱりか……ここからだったら楽に倒せそうだな。

 貫通させて正解だった。


 僕は犬っぽいモンスターをかなり倒したため大量にある爆発物を一つ手にとり、大きなモンスターに当たるように穴から落とした。 


「ギャウ!?」


 どうやらちゃんと当たったようだ。

 爆発音がしてモンスターの情けない一言が漏れる。


 可哀想なモンスターだ。

 この穴さえ無ければあのモンスターは上から来る意味の分からない攻撃なんて来なかっただろう。

 しかも爆発する攻撃だから更に酷い。

 安全のためにやっている自分が下種に思えるよ。

 

 僕はさらに爆発物を手にとり移動される前に、一気に落としていく。


 ボン! ボン! ボン! ボン! ――――。 


「ギャウ! ガウ!? ……」


 何十発か落とすと、やがてモンスターはピクリとも動かなくなった。

 恐らく死んだのだろう。


 呆気ないボスモンスターだった。

 僕達が来さえしなければ正々堂々の勝負が出来ただろうに。


「よし! 死体がダンジョンに回収される前に降りるぞ人形」

「ハイ、魔石ハ貰ッテ良インデスヨネ?」

「もちろんだ! ……そしたら、一応僕より先に行って魔石を回収しといた方が良いと思う」

「分カリマシタ」


 人形はそう言うと穴から次の層に降り、死体から魔石を回収した。

 そして、さっきの会話から僕の伝えたい事が分かったのか、端の方に移動した。


 僕は人形が移動し終わった事を確認すると次の層に行くために穴から落ちる。


 高い所から落ちた時は五点着地だ。

 確か五点着地は足の先で着地したあとに、体を丸めて転がりながら脛の外側、尻――って考えてる場合じゃな――


「人形! 階段を上って僕に会いに――」


 チュドーン!!

 


――――――――――



 気が付くと外にいた。

 流石に死んだという事だろう。


 初めてのダンジョン内での死因が着地ミスって……何か嫌だな。

 誰も知らないだろうしノーカウントにしておこう。

 僕は死んでない。


 人形はちゃんと一人で戻って来れるのだろうか?

 強いモンスターはいなかったから階段を上って来てくれれば戻って来れるとは思うんだけど。もしかしたら……っていうのが頭をよぎる。

 迎えに行った方がいいよな。


「やっぱり死んだかナオ。ここに来て正解だったな」

「……あれ魔王。何でいるの?」


 人形を迎えに行こうとして立ち上がったら誰かに声をかけられた。

 声のした方向を見ると魔王がいた。


「そりゃあ、約束の時間になったからな」

「……約束?」


 僕は基本的に約束は忘れるタイプの人間だ。

 そんな僕が約束を覚えているわけが無い。


「やっぱり忘れていたか。ほら夜になったら入口で待ってろって言ったじゃん」

「そう言えばそんな約束した感じがする」


 完璧に忘れていた。

 しかも思い出せない。

 が、そう思われたく無かったので嘘をついた。

 

「ま、だいたいの召喚した勇者もナオと同じようにこの約束を忘れるんだけどな。で、ここに現れる」

「何か嫌だなそれ……そう言えばダンジョンに人いなかったけど何で?」


 ほらな。やっぱり、僕以外にも忘れている奴がいると思ったよ。

 異世界に来て、しかもダンジョンに行くっていうのに覚えていられるわけが無い。

 まあ、僕はそんなにダンジョン楽しみじゃ無かったけどな。

 何回も死にそうになって忘れただけだと思うな、単純に忘れただけでは無いと信じたい。


 あともう触れられたく無いので話を変える事にした。

 

「ああ、それはな、まずこのダンジョンに入る人が少ないのと、勇者は強くなるのが早いからナオがいた低層に留まる理由が無いからだよ」

「へー、そういうことか。あと、何故低層にいたと断言出来る?」

「俺がこのダンジョン作った奴と友達だって言っただろ」

「そうだな」


 はい、これも完璧に覚えてません。

 なんだ僕疲れてるのか? こんなにも忘れやすい体質だったけ?

 興味ある事だったら覚えていられるのだが。

 

「で、そいつは暇つぶしで勇者が何をしているのかを見るのが好きなんだよ」

「ふーん……という事は、もしかして……?」


 もしかして見られていたのか? 僕がダンジョンに穴開けた事も?

 そしたらやばいぞ……

 いやでもそんな馬鹿な! カメラとかそういうのが何も無かったぞ。

 だから見られるわけが……異世界だしそういう魔法があるのか?


「もちろんバレてるぞ。ナオが穴開けた事と、それを利用して五層のボスを倒した事も、着地ミスして爆発で死んだ事も」

「……マジか! でも何でバレてるの?」

「そういう魔法があるんだよ」


 くそ異世界め!

 もしも逆鱗に触れていてケチョンケチョンにされたら覚えとけよ!

 ぶっ殺してやるからな!

 

「心配しているようだが、爆笑してただけだぞ」

「え、そうなの!?」


 そうだよな、あんないい加減なダンジョン作る奴だし器が大きいだろう。

 きっとチャラい奴か馬鹿かのどっちかだろう。


「でも何か、ゴブリンが出て来る所が三階層分もある事を気にしてたぞ。お前何か言ったのか?」

「え……何も言ってないよ?」


 かなり言った気がする。

 ゴブリンかよ! って二回は言った気がする。

 気にしてたのか……。

 じゃあゴブリンしか出て来ないのをどうにかすれば良かったのに。

 三階層に出て来た微妙に太い棒きれを持ったゴブリンはマジでむかついた。


「って言ったら絶対狼狽えるって言ってた。ちなみに普通にバレてるからな」

「何だよっ! マジうぜえな、そいつ」

「俺もそう思う。まあ、なんだ、ダンジョンではあまり喋らない方が良いと思う」

「そうする」

 

 もうこれから絶対ダンジョンでは喋らない。

 人形との他愛無い会話とダンジョンの悪口以外絶対喋らない。


「まあ、それは置いといて帰るぞ。ナオの部屋作っといたから」

「え、マジで! 嬉しいわ。ありがとう!」

 

 部屋か……前の世界で一番好きな所だったな。

 部屋=拠点だし、大事にしよう。

 

「ああ、別にいいって気にすんな。じゃあ、転――」

「ちょっと待って!」

「ん? どうした?」

「人形がまだダンジョンの中にいるんだよ」

「人形? 何だそれ?」

「びっくり箱ってスキルで一日に一体出せる人形だよ」

「へー、便利なスキルだな。まるで――」

「ご主人様ー!」


 魔王の言葉は誰かの言葉とかぶり聞こえなかった。

 かわりにかぶせた方の言葉が聞こえた。


 この声は聞いた事がある。

 人形の声だ。 

 でも、人形の言葉はこんなに聞き取りやすくは無かったはずだ。


 僕は声のした方を見た。

 人形だった。

 人形がこっちに走って来ていた。


 でも何かおかしい。

 一緒にダンジョンを攻略していた人形は、木で出来た骨組みに白い粘土みたいな物をくっつけただけの簡素な作りだった。

 でもこの走って来ている人形は、骨組みが見えなく心なしか人間の肌色に見える粘土みたいな物をくっつけて出来ている。そして体の上に簡素な布を被っていた。顔の造形も人形っぽさが少し抜けて人間に見えなくも無い。


 つまりこの人形は僕の人形に見えない。 

 しかし、その人形は僕の前まで走って来て止まり喋った。


「ご主人様大丈夫ですか?」

「え、僕の人形?」

「ハイ、私はご主人様の人形です」

「はい?」

「ハイ」

 

 ハイ!?





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