最終話【真犯人】
最後の完全試合のチャンスを凡ミスで台無しにした一塁手・佐々木。彼への復讐を成し遂げたベテラン投手の鴻上だったのだが、彼はある日、チームメイトの勝野のブログを読んで驚愕することになった。
勝野は鴻上が投げていたとき、ショートを守っていた遊撃手である。なんと彼が三塁手・田神の守備について、知られざる真実をブログで暴露していたのだ。
新宿サラマンダ―ズのレギュラー三塁手・田神━━彼はもともとピッチャー出身であり、ただ普通にファーストに送球するのはおもしろくないという理由で、なんと毎回かすかに変化球による送球をおこなっていたのだという。
このことはチーム内でも知っているのは勝野、田神、佐々木、それから監督の4人だけであり、当然佐々木は監督に『田神のへんな送球をやめさせてください』と懇願したという。しかし田神は不動の4番でチームの顔。監督としても田神の機嫌を損ねたくなかったらしく、しぶしぶ変化球による送球を許していたのだという。
『そういえば!』と鴻上は思い出していた。佐々木は以前にも田神からの送球をよくキャッチミスしていたと。当時は佐々木に対して『なにへまやってんだか』とため息をつくだけだったのだが、佐々木のエラーを誘発していたのは三塁手の田神だったことが明らかになった。
つまり、鴻上の完全試合を台無しにした真犯人は、三塁手の田神だったというわけなのである!
この衝撃の事実にたどり着いた鴻上は狂ったような絶叫の声をあげた。真に憎むべきは相手は田神だったというのに、しかたなく田神のわがままに付き合っていた佐々木の人生を台無しにしてしまった。もう取り返しがつかない。
ならばやることはきまっている━━鴻上は田神への殺意をかためた。
が━━勝野のブログをよく読んでみると、田神は先日病死したのだという……。
数日後、自宅で首を吊って死んでいた鴻上が発見された……。【終わり】