第2話【怨念】
実は鴻上はこれまでの野球人生で、完全試合のチャンスを2回経験しており、そのいずれもありえない理由でものにすることができなかった。
1回目は高校時代の甲子園。完全試合目前だったのだが、第3次世界大戦が勃発して無効試合になってしまった。
2回目は6大学野球。東大相手に完全試合目前だったのだが、火星人が地球を襲撃してきてやはり無効試合になってしまった。
そして待ちに待った3回目のチャンスだったのだが、またしても鴻上は完全試合を成し遂げることができなかった。
それも3回目は1、2回目とは明らかに異なり、『その理由じゃしかたねーな』で済ますことができるものではなかった。一塁手の佐々木がなんでもない送球をキャッチミスしてしまったのである。
鴻上は思いきりへこみ続けた。しかも年は37歳。年齢的に完全試合のチャンスは今回が最後と思われる。それを味方の凡ミスで台無しにされてしまったのだ。これでへこむな、落ち込むなというのは無理な相談だろう。
しばらく鬱状態になっていた鴻上の胸に、最後の完全試合のチャンスを台無しにした佐々木への怨念の炎が燃え上がり出していた。