第1話【凡ミス】
そこは夜の東京ドーム。プロ野球、新宿サラマンダ―ズvs博多ギガンティスによる試合がおこなわれていた。
そんな東京ドーム内は異様な緊張感と高揚感に支配されていた。
9回裏、2アウト、ランナーなし。3対0で新宿サラマンダ―ズが勝利を目前にしていたのだ。
が、理由はそれだけではない。サラマンダ―ズのマウンドに立っているのは37歳のベテラン投手、鴻上。なんと彼はこの日、ただの1本もヒットを許していず、ただのひとつの死四球も許していなかった。つまり夢の【完全試合】を目前にしていたのである。
深く息を吐き、心臓の鼓動をいったん静める鴻上。そして彼は渾身のストレートを投げる。
博多ギガンティスのバッターはバットに当てるのがやっとのぼてぼてサードゴロ。それをサラマンダ―ズの三塁手・田神が捕球してファーストに送球。誰もが鴻上の完全試合達成を信じて疑わなかったそのとき、事件は起きた。
パスッ━━という感じで、一塁手の佐々木がキャッチミスをおかしてしまったのである!
結果、鴻上はノーヒットノーランは達成したものの、完全試合には手が届かなかった。
試合終了後のヒーローインタヴュー━━。
「いやー、鴻上選手、夢の完全試合まであと一歩だったんですが……」
そういうインタヴュアーに、鴻上はポーカーフェイスでとうとうとこういった。
「エラーをした佐々木くんを一生恨み続けたいと思います」
そのブラックジョークに東京ドームが爆笑に包まれる。が、鴻上はもう一言こうつけくわえた。
「いや、マジで」
鴻上のその言葉にインタヴュアーはやや笑顔を曇らせ、『は?はぁ、そうですか』といった。