96 動く
お待たせしました。
あっと思った時はもう終わっていた。でも、私もずるいから心の中ではきっとそうなる事を期待していたんだろうなって思う。手を汚す仕事は結局マリエルが請け負う。私じゃ耐えられないという判断なんだろうし、実際その通りだ。だから私は色々飲み込んで只お礼を言う事しかできない。
「言うだけではなくても返して頂けますよ?」
そういう方面でいいなら喜んでお返しします!
「受けて立つ!」
「いいですね。楽しみにしています」
ジルとリコルは近所のおばさんみたいに手を口に当て「まぁまぁ奥さん」なんて言いながらニヤついている。
うん、実に平和だ。
「それでですね、私は考えました!実はこっそりシロフォンぽいもの、マリンバっぽいもの、グロッケンぽいものを作らせていま~す。はーい、皆さんパチパチ~」
まばらに拍手が起こる。まばらすぎ。もういっそ叩かないでもらった方が良かったよ。
「そして、陣がある場所で演奏させま~す!」
あ。マリエルの顔が引き攣っている。それに気付いたジルとリコルまで口元が歪み頬がヒクヒクと動いている。
「何なんですの!はっきり言ってもうとっとと終わらせてしまいたいですわ!」
「そうだよ。早く浄化してぱぱっときれいすっきり、次の国へ行こうよ!」
「カミーユの事、……悔しいことに大好きですけど、こういう唐突過ぎるところは嫌いですわ!」
「っていうか、構いすぎ。何?もしかして情が移っちゃったわけ?」
「浮気ですの?見損ないましたわ。お人好しなだけかと思っていましたのに」
……おい!私の評価暴落なんですけど。一体どうしてそこまで!
「…カミーユ。もうすぐ終わるという所で始めにも戻るという指示が出た双六の様です。納得いきませんよ」
そうだよねぇ。
というかこれは単純に私の説明不足だね。
「誤解させてごめんね」
私は説明に入る。
「予定は変わらないよ。ハッキリ言って私も早く終わらせたいもの。ただせっかく書き残してくれる人がいるわけだから、そうする様に、そう成る様にしておきたいのよ。
聖なる場所に祀り上げられるのもいいんだけど、足掛かり的なこととしてね。
私達がそこの場所を整える必要もなければ、そこで演奏をする必要もない。楽器制作はお願いしたし、その後のことだって最後の場所を浄化したらお告げっぽい感じで言うだけ言ってこの国は終わりにするよ」
あからさまに三人がホッとした。
うん、私、なんて信用ないのでしょう。シクシク。
私達がしたとか居た証明とかそんなのは正直どうだっていい。隠れてするくらいだから名前とか残ったら迷惑なくらいなわけだし。
でも…。
「けどね、音楽だけは残したいんだ。別に青雲の志みたいにしたいわけじゃないの。明るく楽しい、しかも多少の浄化力があり、運がよければちっちゃな光が灯るわけで、この国の靄ってすぐ蓄積しそうだし、そういうの防ぐのにもいいし。オカリナだけだと得手不得手で消滅の可能性も高いしさ」
残る可能性と発展の可能性と幅を持たす事を考えたら一つじゃ足りないんだよね。
それでも無駄になる可能性が低くないのも悲しいところだけど。国民性みたいだし、仕方ないかなって思う。
「心も豊かさとゆとりができるといいですが、この国がこれから迎える治世の揺らぎをどのように乗り切るか…」
「そこはね、もう、現地人に任せる!それでいいと思う」
みんな何か言いたそう。
「演奏もお告げ的な何かにするか、消えて演奏するとかにしようと思っているし」
ああ~、リコルの口がパクパクしている。
「で、そのまま消えちゃってもいいかな、なんて思っていたりするし?」
いや、だからさ、本当に私、もうこの国いいやって思っているからさ。実際これでもやり過ぎだったって十分理解したし。知れば知るほどサービス悪くなるのも納得の状態なわけだし。
「っつーか、それならそれでやっぱり早くちゃんと言って欲しいんだけど!それにやっぱり演奏するんじゃん!ころころ変わり過ぎ!!」
「ですね。リコルに賛成です。俺達もそういうつもりで動きますので、大きな変更無き様お願いしますね」
…あ、さすがにちょっとイラッてされちゃったかな。思い付きだしね。気紛れでごめんね。
「そうそう、悪い知らせが一つあるんだけど」
「何!?」
リコルが噛みつくようにすぐに聞き返してきた。
「なんか、多分、悪魔、逃げた、かも?」
滅せればいいのは分かっているんだけどさ。
「あれだけ派手に動いていたのです。当然の結果でしょう。隠れたり計画の実行よりも我が身を優先することは全く不可解ではありません」
「むしろあれだけ派手に一気に動いてまだ抵抗してきたら悪魔のレベルまで行っていませんわ」
「散々面倒臭いって言っていたからそういうつもりだったのかと思っていたよ、僕は」
私の知的レベル凄く下がっていない?あまりにも考える事を放棄して気のまま過ぎたみたいだね。
「神子の始末を考えたくなかったのでしょう。だから無意識に避けようと考えが右往左往していたんですよ」
マリエルが私をそっと抱き寄せてくれた。
私の目から涙がどんどん流れる。目を開けようとするがまつ毛同士が涙でくっついているみたいだ。重い。
本当は随分苦しかったんだなぁ、私。
そういうのに気付いてくれるのはやっぱりマリエル。
「下手ですわ」
「我慢なんかするからだよ」
「マリエルがもっと上手く発散させればよかったのですわ」
「ジル、それは違うって。カミーユ自身が気付いていなかったみたいだもん」
「ああ~。ですわね」
「俺にさせたと思っているからでしょう」
「それはさ、誰がやったって、カミーユが自ら手を下したって残る物じゃん。だから我慢なんかしないで早くそうやって出しちゃえばよかったんだよ」
私はマリエルの中でうんうんと頷く事しかできない。
誰かがしなくちゃいけなかった。
折角してくれた。
私がやることは彼女を地球あの世へ還すことだ。
ここへ呼ばれたのはチート能力を得た子でもなければ、神様のミスでお詫びの人生を得た子でもない。幸せ
になろうと必死に生きる事すら否定された子も多かったはずだ。
次を迎えられる様に私が浄化する!
◇◆◇
『馬鹿ですの?』
『信じられない!』
『擁護できません』
『いやいや、それより早く結界で姿変えて!』
俺でさえ咄嗟に動けなかった。
リコルの指示で俺は慌てて結界を張る。
カミーユがやらかした!!
カミーユの気合が…まさかまさかまさか…。
俺でさえあり得ないほど言葉遣いが悪くなる。
あのバカ女、気合を入れ過ぎて部屋の入口以外を開け、最後の場所の上空に飛び出した!!
俺に抱き着いたまま、片手をシュッと動かしたと同時にジルとリコルの服を掴み、俺の方へ倒れ込んだ。
その先がその上空。しかも無意識。出したカミーユも驚く有様。
その気合は神気を溢れさせ一体を浄化していく。
成仏できていないもの、多分悪魔が目立たない様に逃げる為に切り離した残された害悪、利用された者に憑くものがあの世に戻っていく。
地上の人間には見えていないだろうが、渦を巻き、竜巻の様に動いて巻き込みいっしょくたになってどんどん上がっていく。
ハッキリ言ってカミーユが言っていた楽器の演奏なんて、もうタイミングが無い。
失くしたのはカミーユなんだから文句は言わないだろう。
楽器の指南は諦めて楽譜を置いてくるだけにしなさい。
そんな中、どす黒いなんてもんじゃない、中々浄化しない物体が渦の中に見えた。
『カミーユ、離れて仕上げに掛かって下さい』
『任せて!』
若干突っ込みたくなったのをグッと抑えてその物体へ向かう。
三人で見付けられないでいた陣についての書だ。どうやって隠されていたのか…。
カミーユの神気の渦の中にあるというのに触れたら皮膚が痛い。幸い傷むほどではなかったが、不快感が起こる。早く始末しよう。
一枚ずつ千切って渦に投げ込むとすぐに消滅していく。
「ん?」
見つからなかった訳だ。
人の手に渡っていたわけではなく、陣の始点と終点になるここに陣の中に組み込まれ隠されていたようだ。
作った悪魔もこの国の人間が信用ならず、継がせるという手段をとらずに、自動的に、魂の質量が揃い神子が壊れ殺されたら次が召喚されるという風にしたという事が分かった。
あんまりなやり様に眉間に皺が入る。
そんな時、声が届いた。
『ありがとう』
俺はその声に返さない。神子を正気に戻した最初の人はカミーユだ。まずはカミーユに言うべきだ。
無視する俺に続ける。
『お母さんとお父さんに会える。解放してくれてありがとう。美男子に会えて嬉しい。彼女にもお礼を伝えて』
カミーユに感謝は受け取りましょう。
『伝えます』
神子が苦笑したように感じた。
魂の消耗が少ないからすぐに生まれ直せるでしょう。今度はずっと地球で過ごせるのだから頑張りなさい。
そう思いながら神子が還っていくのを見送った。
カミーユも見ていたようで俺とは違い笑顔だ。
『ジル、リコル。カミーユが終わったら仕上げに聖水を土壌に浸み込ませます』
『『了解』』
…聖水の大雨で反省なさい。
カミーユの面倒臭いじゃないが、この国に嫌気がさしていた俺の適当さと八つ当たりで多少の被害が出たが、この国の浄化が概ね無事終わった。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。




