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95 負う

二話連投の二話目です。

カミーユの関心が完全に神子から反れた。やるなら今。


「ジル、リコル、行ってきますのでお願いします」

「悪い」

「ごめんなさい」


二人の表情が曇る。謝ってもらう必要はない。


「俺が最適でしょう」


それだけ言ってそこから消えた。






もうすぐこの国から出立だ。仕上げの日は近い。


最期くらい彼女の妄想に応えてあげようか。

彼女が会いたいのは日本人の男か、両親か、架空の人物か、芸能人か、この国の男か。とはいっても、知らないから考えても俺の記憶にある日本人の芸能人でも纏うか。時代遅れの芸能人しか思いつかないから却下か。後で考えよう。




訪れた先は神子の場所。

基本的にはジルに任せていたが、別に一度も訪れた事がないわけじゃない。


カミーユのやらかしで中はまだほぼ澄んだままだ。ここが悪意や瘴気で充満していたとは思えないほどの清々しさを見せている。

呆然としている神子。仕えは甲斐甲斐しく話しかけ細やかに世話をしていた。魂が抜けたかのような時もあり、しっかりとした意志と意識を持っているときもある。

カミーユは気が付かなかったようだが、生きながら魂が消耗しているのを見れた。召喚で付与される能力には神子自身の魂も使われているのか?


もしかして俺達は考え違いをしているのでは?


随分長い年月の間、召喚が行われているのかと思っていたけどそうではないのでは?

あの国もこの国もそうだったではないか。

教えた事は意外にも器用にこなしていた。

短い期間でそれなりに修得した。

何度も大陸の隆起や沈没、火山の噴火などの大きな災害に見舞われようとも一定の水準まで戻している。

進まないが大きな退化もない。

能力そのものは低くないはずだった。そのはずだ。


で、あろうとも、今現在、自発的に発展しようという気概がないのならば、やはり少しづつ衰退していくのだろう。だが、能力値の査定に上方修正が必要かもしれない。


それはさて置き、仕えが下がった隙に動く。見せる姿は、カミーユの手持ちの画像から拝借だ。


「こんにちは。今日もいい天気ですね」


俺は日本でありきたりだった言葉を神子に掛けた。

虚ろだった目に光が戻る。正気か現実逃避か。どちらでもいい。


「こんにちは。初めまして?」


…日本人であることに驚きをも見せるかと思ったがか、冷静な反応だ。


「いつもご利用ありがとうございます、コンビニの店員です。思い出してもらえましたか?」


乗るか?


「あ、ああ~!いつものお兄さん。奇遇ですね、こんなところで会うなんて」

「これから何処へ?」

「何処?」

「ええ」


思案顔。彼女の精神に合わせてあげましょう。このくらいしかできないけど、神子は何処を選ぶ?


「家に帰る、の。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい」


涙が浮かんでいる。これが唯一の機会であることを感じ取っているのだろう。


「叶えてくれるの?願っていいの?」

「ええ」


心の底から願いたまえ。さあ何処を願う?これが最終確認。


「お父さんとお母さんの所へ帰りたい」


それに応えよう。

自発的に。やはり、最期に直接は俺も遠慮したい。決して気分のいいものではないから。知ったらカミーユが傷付くから。


「でしたら、これを飲んで下さい。俺達が連れて行きます」

「わぁ、懐かしい」


手渡したのは茶色の瓶に入ったちょっと元気が出る飲み物。そこに心臓を停止させる薬品をまぜてある。気分転換に飲むこれが部屋から何本無くなろうともカミーユも気付かない。

一度開封してあるのでそれをごまかす為に蓋を外して渡す。


迷うことなく、口に含み喉から流す。

どさりと崩れ落ちた。安らかな顔だ。これで神子も還れる。

心がギリギリだった彼女は還ることを受け入れた。

万が一蘇生されるとまずいので銀糸を切る。これでもうこの肉体に魂は戻れない。


終わってみれば、俺だけが立ち会い、、選択は神子にさせ、薬の服用という上出来の結果になった。それでもカミーユは怒るだろう。


俺は別にコンビニの店員になったわけではない。その様な暗示もかけていない。俺の姿が過去の日常を思い出させたのだろう。頑張るのも空元気も異世界で上手くやれた自分を演じるのも何もかも捨て、望んだのが両親の元へ帰ること。

神子の両親が存命しているとは思えない。還ればきっと神子の望み通り両親がすぐにとんできて会うことが出来るだろう。次は今と比べたら普通の一生を終える事が出来るといい。


俺はその場を離れた。



◇◆◇


積もる紙。


「おじさん、これ作れる?」


長さが違う棒が並んでいる…何かが描かれている。


「あ、違った。これ作れる人、紹介して」


嬢ちゃん、また始めるのか。心結様って感じじゃないなぁ。


「詳しく話してくれや」

「あ、戻った。そのままでいいよ」

「…レイ様もいないし、今の嬢ちゃんには神々しさがないからな」

「そっか」


話を聞いた感じだと鍛冶屋と大工でいいのか。


「うちの素材じゃ出来ないか?」

「う~ん、出来ると思うけど、これ叩いて音を出すから割れやすいかも。だから、マレット柔らかくしてね」


これもあれか?目で聞いてみる。


「いい音やいい音楽にはそういう効果があるんだよ。おじさん、覚えておいて。あ、遠いけど海の向こうの国に誰か行かせてみてよ。向こうは五家がしっかりしていたから色々教えてきたんだ。青雲の志っていう名前で音楽活動もしていたの。機会があったら聞いてみて」

「…おう」


よく分からないが忘れないうちに記録しておく。国名も聞き出し書いておく。

さらっと言ったけど、これは大事を仰せつかったのではないかとひやりとする。

航海技術ってどんなもんなんだ?自分には貿易関係の事なんざさっぱりだ。

いつかの時代に掛けるとかそんなんでいいのかね。

生きている内に行けたら面白いと思わないでもないが、今はそれどころじゃない。


「ね、おじさん、紹介してくれると嬉しいな」


息抜きも必要か。


「よし、行くか、嬢ちゃん」


腰を上げる。


「所で、それを広めるのはこの国への課題かい?」

「ううん、そんなことないよ。私が音楽好きなだけ。色々な楽器で合わせて演奏するのって楽しいよ。いい曲やいい演奏は心を満たす一助になるしね」

「そうかい」


これから音楽をする雰囲気なんて散ってしまうだろうに、それでもやれってことなのか?

何処か後ろめたく生きてきた者だらけの国だ。無理やり正当化をし続ける者と変わる事を望む者で争うことになるのだろう。

でも、もうすぐ全ての召喚陣がなくなる。

同じではいられない。

戦争なんかが起きなければいいが、どうなるか予想できない。

それでも、一時代が終わる。

この地を守る者の末裔の一人として正確に残さなければならない。


「おじさん、行こう?」

「ああ」


また新しい一歩を踏まされた。



 

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