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91 霧散3

霧散2・霧散3の二話を投稿しております。

『マリエル、今回は建物は保存しよう』

『分かりました』


心結さん達の念話を特別に開通して貰えている。本当に聞かせては駄目なこと以外全てを見聞きさせてくれるらしい。但し、こちらからは受け付けない設定にしてあるそうだ。邪魔になるから仕方ない。思考が駄々洩れする恐れがあるなんて、なんて恐ろしいことだろう。


『ジルとリコルはもし資料があるなら回収よろしく』

『それ済んでいるから大丈夫だよ』

『リコルとマリエルが回収してくださいましたわ』

『さすが!』

『褒めて貰って悪いけど、ここには何も無かったんだけどね』


念話で話しながら行動は止まない。


『あ~、カミーユ。陣の描かれている建物は浄化した後に破壊した方がいい…よな?マリエル』


私達を両脇に抱えているをマリエル様は眉一つ動かさずに答える。


『ええ。あそこは破壊してしまう方がいいでしょう。見ればそうせざるを得ないですね』

『…ああ、うん。想像ついた。分かった、そうするね』


さっぱり分からない事がもどかしい。

父さんは眉根にしわを寄せ小さく唸った。

声が洩れた事でマリエル様が父さんの方に顔を向けたのが見えた。






目が回る。吐き気がする。しかし、戻すほどではない。目を閉じ横になりたいが、望んで連れてきてもらった以上、弱音も吐けないし見届けなければならない。

いっそのこと、気でも失ってしまえば楽なのにそうできない事を少しばかり恨めしく思う。逆にこの程度で済んでいる事に感謝しなければならないのだが、気分が悪すぎて、最悪だ。


『二人共吐かないでくださいね。もしここでその様な事をしたら捨てていきます』


絶対吐かない。ここに置いて行かれたら生きて帰る事が出来ないかもという考えがよぎる。


『ジル、リコル!聖水で洗浄するから手伝って』

『『はい!』』


心結さんが聖水の巨大な玉を複数出す。


『多すぎですわ』

『それじゃ全部流されるから』


その様子に唾を飲み込む。こんなの人が出来る事じゃない。

心結さんは簡単に玉を半分消した。


『カミーユ、小雨程度になさい。後で神気で一気に還すのですから』

『う~ん、でも、今、ざっぱ~んって陣を洗い流しちゃってもいいんじゃない?』

『もう忘れたんですか?あそこは…』

『あ。そうだった』


気になるけど自分から尋ねることは出来ない。物理的にもであるが。


『視線がうるさいですね』


話しかけられたのが自分であることに驚く。


『骨などがそのままなのですよ』


話では生贄ではなく贄であったはずだ。魂だけが使われると。


『驚く事ではないでしょう。今、手が空いているので、分かるように説明しますが、陣は人の血液で描かれています。動けない物を運ぶより動いてもらった方が楽でしょう?』


それって。


『まだ銀糸で繋がっているうちに死体を運ぶ部屋と死にそうになっている人が行く部屋があるのです』


でも。


『死亡後丸二日経過したと確認されたものは部屋の外へ動ける誰かが運んでいたようですが、自ら入る部屋はご丁寧にも入ったら出る事が出来ない様に魂を縛られるなんていう恐ろしい仕組みになっていたようですよ』


そんな事って。


『俺達は結界で守りながら入る事ができるのです。今は腐臭を消したり贄以外で亡くなった小動物の霊の浄化や生きている間に分離してしまった悪霊の浄化です。まだ生きている人の中でも軽い霊障で死にそうだと思っている人などはこれで体調が良くなるでしょうね。ここから脱出するのかどうかは本人任せになりますが』


何なんだよここ!全てがおかしいだろ!!

でも、彼等が向かい合っている世界はこういう世界なのか。

これが神子から享受していたツケなのか。

いずれ父さんも私も来るところだった。


逃げ出す人は居ないのか?居ないわけが無かった。

国を挙げてのことだ。知っていても口を噤むのが受け取る者の当たり前。


心結さん達の言っていた言葉の意味が、新しい事実を一つ、また一つと見て行く度に自分に落とし込まれていく。父さんも厳しい顔で見続けている。

何て重い事実なのだろう。現実は厳しすぎる。

役割を引き継いでいる事が恨めしい。

自分達の世代の時に現れたのは何故だ。

ああ、辛い。

鼻の奥がキンと痛む。


『マリエル、終わったからあの建物だけ乾燥させてくれるかな』

『わかりました』

『あそこは燃やすことにする』

『そうですね』


燃やす?延焼の恐れは?

その程度の事、彼等なら考えるか。でもなぜ燃やす?わざわざそんな風にする理由が分からない。

父さんなら何か知っているのだろうか。

人が死んだらどうなるのか。

知識では腐乱し骨になると知っている。獣や小動物の朽ちる姿は見た事があるし、料理用の肉にだって骨はついている。

ああ、こんな想像したらご飯が食べられなくなる。


『病気を防ぐのです。火葬という方法もあるのです』


…もしかして、私の心の声は筒抜け?私だけでなく父さんの声も筒抜けとか?

例えそうでもそうでなくても、もういい。今更だ。

聞こえているのかもしれないなら心の中で言っておこう。

マリエル様、私の事馬鹿な奴だって思っているだろうけど、どうか父さんと私を五体満足で忘れずに連れ帰って下さい。心結さんも私が幸せにしたいと思うのも冗談ではないのでよろしくお願いします。


『卑屈ですわ』

『作業しているんだから笑わせないでよ』

『マリエル!さすがにこれは酷い!っていうか、ブラッドリー私の気持ち無視しないでよね。色々無理だから。マリエル一筋だから!身も心もマリエル一色だから!なんて言っている間に出来たよ。

マリエルは一旦二人を下ろして、こっちお願い。リコルとマリエルは…マリエル瓦礫あるって言ったよね居、投げて』


言葉だけでは分からない事と分かった事。

私の声は聞かれていた。

しかし、その衝撃は大きな音と振動で吹っ飛んだ。


窓が割れた。屋根が吹っ飛んだ。壁が外側へ崩れた。

一体何事だ。いや、何事も何も、見たままだ。何故なんて聞くまでもない。

光る岩?石?違う、さっき言っていた瓦礫だ。が、光る線を描きながら建物へ飛んで行っていた。危険な方向に向かう破片をジル様だと思う…が目に見えない速さで処理していく。


振動は外からだけでなく、自分でも起こしていた。腕が、足が、体が震えている。抑えようと何とか体を動かし両腕をさするが関節が錆び付いたかのように上手くいかない。歯まで鳴り出す始末だ。


崩れた隙間から白い砂と骨、人だったモノが見えてしまった。

父さんが私の様子に気付き手ぬぐいを外してくれた。いよいよせり上がってくる。縛っていたのも解放してくれた。

体の向きを変えて、吐き出した。

酸っぱい匂いと気持ち悪さで心結さん達がやってる周りの事なんかもう全く気にする事が出来ないでいた。父さんは擦ってくれているのだろう。ほんのり背中が温かいような気がする。でもありがとうの一言をいう気力も無くなっている。息が上がる。ゼエゼエ荒い呼吸音にヒュウヒュウという音が混じっている。それも私か。


「気持ち悪い。うがいしたい」


水が出てくるはずなんてない。あ、マリエル様に捨てていかれるかな。吐き戻してしまったし。どうすっかなぁ。私、凄く格好悪いな。私、か。今更、みんなみたいにオレとは言いにくいな。でも、今のオレならオレの方がしっくりくるな。


「はい、お水、。うがい終わったら言って」

「心結さん」


うがいするだけで軽くなる。ああ、ただの水じゃないんだ。


「大奮発だよ。聖水飲んで続き頑張ろう!」


飲んでいる間にマリエル様がオレの周りや衣服、顔をきれいにしてくれた。

その意外な優しさにどうしたらいいのか分からなくなってしまった。



いつもお読み下さりありがとうございます。

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