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89 霧散

◇◆◇


「知っておくべき事よ」


言い渡されたその言葉は、急な坂道をやっと登り切ったと一息ついたら気を失わされ、掴まる所のない場所のない台車に乗せられ、失った気が戻ったら息も出来ないような速さで登った坂を下っていた……………そんな経験をさせられたと錯覚させられたかの様な出来事であった。


私の名はブラッドリー。

これは、この世界に、この星に住む者が負うべき責任を放置した結果として記録に残す事にする。


「何一人で自分の世界に浸ってるんだ!現実を見ろ!」

「父さん!ちゃんと見てるって。全てが現実だって受け入れているから!」


物凄い秘密の暴露だ。

でも、言ったって誰も信じないだろう。


「見捨てられたと思ったんだがな」

「うん」


そう思う。実際そうだっただろう。でも、心結さん達は何故か何の役にも立たない私達を同行させた。何故なんて考えたって本当の理由は分からない。

ただ、自分の考えだけであるならば出た答えはある。


この事を記し残していく事を望まれたのではないか。

消えた記憶。正しく伝わらなかった事象。考える事を放棄した顛末。在る所。還るべき場所。真理。目指すは何か。この世の仕組み。魂の在り方。

見える物が全てではない。しかし見える物が全て。何故そうなったか。



◇◆◇


「期待はしていないんだけどね」

「邪魔でしかないじゃん」

「そうですわ」


マリエルだけは賛成も反対も示さない。

ささやかな温情だとでも思ってしまっただろうか。


「そうですね」


と無表情で話し始めたのはマリエル。

マリエルに決定権があるわけではないが、マリエルが賛成してくれるとそれだけでジルとリコルはマリエルが言うならいいかと傾いてくれるだろうから。私への信用よりマリエルの方が上なのは仕方ないと思うけどさ。


「見て、それを実際体験して、彼等がどう感じるか。何を考えるか、そして成そうとするか。本当に知る…その結果どう動くのか」

「試すというの?」

「そうとも言えるでしょうか」


でもきっと分かっているんだろうな。


「どう作用するかなんてカミーユにはどうでもいい事なのでしょう?」

「うん」


だってもう、そう割り切ったから。ただ、これから起こることをただの現実で起こった事だと見てもらえればいいだけだから。

気が向いたら残せばいい。辛かったら気を失えばいい。気持ち悪かったら吐き戻せばいい。怖かったら震えていればいい。本能のまま泣いたり喚いたりしたっていい。

信じる事も受け入れることもできなくてその記憶を封印したっていい。

結局この世界の方向を決めるのはこの世界の人達だから。





そう決めたはいいけれど、四人だけとは違う準備にげんなりしてきている。


「瞬間移動って一緒にできる?」

「僕無理」

「わたしも出来ませんわ」

「私もなんだけど、マリエルはどう?」

「したくありません」


出来るんだ。ですよね!


「カミーユこそ部屋にれますの?」

「いやいや、精神的にも物理的にも無理!」


となると。


「ちょっと家でも作って空間収納に入れて持ち運ぶとかするしかないわけか」

「面倒ですわね」

「あ~、ログハウス調べた事あるからそこからコピーで出せるかも?」

「そういうことが出来るなら前も作らなくて良かったのではないですか?」

「あ。でもほら、現代日本のだし、ちょっと違うとかあるかもだし」


ジト目で見られるけど、マリエルの温度が特に低い。奴らを運ぶのが嫌なんだろうなぁ。したくないって言ったけど、きっとするからちょっと不機嫌なんだろうな。ごめんね、マリエル。




結果からいうと、ログハウスは取り出せなかった。取り出し口から出せなかったのもあるが、部屋の中にあんな大きなものを出すスペースを作れなかったのである。

部屋の拡大は無制限だと思っていたから、正直、驚きと衝撃を隠せない。そうなると、空間収納も無制限ではないのかもしれない。そうなのかそうでないのかは結論を出せないが、そう思っておいた方がいざという時に慌てなくていいだろう。

ということで、出したのはテント。お手洗いは…仮説トイレを設置で移動の度に置いていこう。再収納は嫌だ。飲食物は私の部屋からの提供でいいし、睡眠は寝袋でいいよね。テントも寝袋も使い終わったら彼等にあげちゃうつもりでいるし。真似て作ってみたら売れるんじゃない?


準備万端とはいい難いけどイケそうな気がするし、うん、これで行ってみよう!




「う~ん、やっぱり私達以外には上手く作用しない事、多いのね」


二人を結界で隠したり、存在感を無くそうと思ったけど出来ないでいた。二人の顔が青くなっていく。


「俺達の存在が目立たなくなって良いのではないですか?」

「僕もそう思う」

「何かあった時に彼等が矢面に立ってくれるはずですわ」

「そういうことでいいよね?」


私は二人が首を横にぶんぶん振るのを無視して結論付ける。使える現地人、せっかくだから使い倒そう!


「倒れるまで使ったらかえって手がかかりますので加減してください」

「そうだね」


二人の顔が色を無くしていくけど気にしない。

私達四人を前に最初二人は恐縮していた。

でも、ブラッドリーはマリエルに敵わないのに若干の敵対心でも抱いていたようで、丁寧な言葉を選びながらも尖った対応だった。当然マリエルはそんな事は微塵も気にしない。

いや、気にしないけど、後々の事考えると従順にしておきたいと思ったのか、移動をわざわざ上空からの瞬間移動を選んだ。

見た目ただの細マッチョの美男子が片手で成人男性を両脇に抱え建物が小さく見える程の上空まで上がったのだ。強がっていた二人は悲鳴と抗議の声を上げる。さすがに暴れるのは危険だと思うのかしなかったが、無視するマリエルに対して言葉が汚くなってくると…。


「うるさいですね。手を離しますよ」


ピタリと動きが停止した。そして、瞬間移動をすると現実を受け止めきれなくなったようで気を失った。

仕方ないので、施設から離れた所にテントを出し、二人を放り込んだ。

一番贄が集まっている所だ。

調査して分かったのは、彼等が守っていた地域の施設が最も贄が少なかった。一番時間に猶予がある。だから後回しである。


おじさんとブラッドリーは何かを期待していたのかもしれない。

それは同行させると決めた話を最初に持ちかけた時の表情が明るくなったから。

とは言ってもそれは長くは続かない。じきに温度の差に気が付いたから。

その時は私だけだったから、温度差に気が付いてもまだ舐めていたのかなって思える。それも仕方ないとも思うから責める気なんか起きない。

その時は私達に畏怖の感情を抱きつつも、私への仄かな恋情もちらりと覗かせていた。

だから実際に会った時、マリエルを怒らせるような馬鹿をしたんだろう。




気を失った二人を置いて作戦を確認する。

間違いなく力技。まるで脳筋。うん、でもいいよね。これもまた私達らしいし。


「俺は今回はハズレクジばかりですね」

「ごめんね、マリエル。私がこの人達を連れて行くなんて言ったから」

「カミーユのそんな小さな願い位でへそを曲げたりしませんから。それに、この人達に俺達の夫婦のピアスを教わったのでしょう?」

「うん」

「カミーユはピアスよりもやはりリングの方が嬉しいでしょう?」

「うん」


どうしたって日本での形の方がしっくりくるし、心が喜ぶ。ピアスの交換もいいけど、私達のピアスは力も溜めているからおしゃれ用のアクセサリーっていう感じもしない、なんかこう実用的な物っていう感覚も拭えないのだ。

私達がこんな話をしているうちに二人の目が開いた。部屋からテントの中を見えるようにしたので様子は分かる。見えるようにしたけど見るのはマリエルとリコルだけどね。


さて、ああ、トイレだけじゃなく、シャワー室も出してあげなきゃね。

当然ブラッドリーとおじさんは驚きの声をあげた。その後の食事でまた驚き、寝袋を見て漸く受け止め、私達が部屋に入る所をみて、また気を失った。




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