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88 知っていた

ここまでくると、愛おしさも呆れも信じられない発言も全てそういうものだと受け入れている自分がいる。俺は自身で考えていたよりもずっと懐深く大らかであったようだ。こういう新しい自分を発見できたことに、それを気付かせてくれたカミーユに心から感謝を捧げよう。


「ということでね!」


何がということでなのか詳しく聞かせて欲しいものだが、聞いたら聞いたで思わず頭を抱えたくなるような気もする。なのに、どうしてこんなにも求めて止まないのだろう。カミーユへの愛の器は広く深くなるばかりで溢れて嫌になる事無く一滴でも溢すのが惜しい。

俺一人の受け皿ではなく、カミーユと二人で作る器だからなのだろうか。交わる愛は常に身も心も満たす。矛盾も何もかもが俺の中で結局「愛」という存在なのだと受け止める。


「マリエルはお願いしていた他の楽器って出来た?」


ああ。…そんなの頼まれていたか。すっかり忘れていたが俺が困ることは無い。


「時間稼ぎの為にためだったでしょう?俺が分かっていないとでも?」

「うっ」

「無くても大丈夫でしょう?そもそも隠れて活動し、俺に嘘をついていたんですから、俺を責めたりしませんよね?」

「うん…」


でも。音楽が好きなカミーユだから、実際あったらいいなと思ったのも口から出まかせだったわけでもないだろうし、楽器…何を作ると言ったのだったか。俺としたことが瘴気に宛てられすぎて記憶力が落ちていたようだ。


「ちょっと待ってくださいませ」


固まっていたジルとリコルがかどう稼働を始めたようだが、遅いと突っ込んだ方がいいのか?


「何普通に進めちゃっているの。僕、マリエルのそのやり過ごしに驚きなんだけど」

「今までの活動の…」

「「全否定!」」

「ですわ!」

「地道な活動の無意味さを語られた気がするんだけど!」

「力技が最も失敗が無いと言われましたわ!」

「マリエル、何で否定しないわけ?僕達の苦労って何だったの?」


二人共必死すぎる。笑いはしないけど、どうしてそう思う?


「えっ?二人共何言っているの?全然無意味じゃないよ?」

「カミーユ。そうですわよね」


その安堵。まだ早いに決まっている。


「そうだよ。少なくとも、色々試みたことは無意味じゃないよ」

「そっか。僕達の心配しすぎだったみたい」


リコルも安心するんだ。へぇ。


「するだけ無駄が多い!考えるだけ無駄!本能のままにが一番成功率が高いって分かったんだもん」


二人共白くなったか。賢くなった事はいい事だ。


「とはいっても、何の情報もないっていうのも失敗の元だけどね!」


カミーユの爽やかさが憎らしく見えなければいいけど。


「結局皆、私の勘を頼りにしているじゃない?頼られるって、すっごい仲間って感じがして嬉しいね!」


感情の乱高下が起こっているんだろう。振り回されるのも楽しいでしょう?


「さて。ではどの様に進めていくつもりですか?」


ここからが本番。この国はどの位残るのか。天災よりカミーユの人災、ジンはジンでも神の字を当てた神災とでも表現する方が適切かもしれない。


「あとね、これはどうしたらいいかなってって悩むんだけど」


その悩みには俺達も頭を悩ます事になる。





頭を突き合わせても答えが見つからない。いや、一つこれでいけるだろうと考えられる事がある。でも、それは人が生きているという目的を考えてしまうと躊躇う。

でも。

俺だけでなく三人もその答えに行きついているはず。


「…無理だと思うけど、悪魔の召喚陣を改良して送り返すとか…」

「言葉の通り、無理ですわ」

「あ~、例えば、どうにかして連絡とって、どうにかして特例として認めて貰って、時空旅行の許可をとって送るとかは?……うん、無理だって分かっているけどね!」

「そう思うなら言わないでくださいませ」


はぁ。


「ジルはあれもこれも駄目だしするばっかじゃん。使えそうな方法を提案してみなよ」

「できるならしていますわ」

「「「はぁ」」」


俺もまた心の中で溜息を重ねる。

皆、言いたくないのだ。分かっている。分かっている。

でも、ここはやはり俺が言うのが良いのだろう。

そう覚悟を決めて髪をかき上げた。


「やっぱりさ、これしか思いつかないなぁ」


声を出したのはカミーユ。泣きそうな力の抜けた笑みを浮かべている。


「魂だけなら還せるんだもん」


ああ、機会を逃した。少しの躊躇いがカミーユに言わせる時間を与えてしまった。


「ここで寿命を全うするか、死んで魂だけでも地球に戻るか選んでもらうしかないよね?」


沈黙が痛い。その選択ではここに残した魂には次への生まれ変わりの機会が消滅する。それだけでなく、恐ろしいほど長い時間をかけて魂を消耗させていき無に帰される。きっとそれはどんなに言葉で説明を尽くしてもその重さは真には伝わらないであろう。その長さが想像できるわけがない。

そして、彼等が選んだことだと言っても悔いるに違いないのだ。

だったら…。


「その選択は必要ですか?いいえ、その選択もよいでしょう。しかし、俺達の選択としてもう一つあるでしょう?」

「それは…」


リコルが続けようとして言葉を飲み込む。

ジルが見開いた目で俺を見て目を逸らす。

カミーユが悲しそうに、泣きそうな顔で俺を見る。


「問答無用で亡くなってもらい、向こうに帰す。薬で眠らせるなどして、知らぬ間に終わらせてしまう。その罪と罰は俺達が負うのですから、気に病むこともないでしょう?」


きっと俺だって笑えていない。三人の表情を見れば、言わせた事を悲しんでくれている。

俺はそれだけで報われたと感じる位には愛情深いのだという事を忘れないで欲しい。


「うん。そうだね。この国の神子みたいに精神を保てない状態だったら特に聞くだけ無駄かもしれないしね」

「ま、こっちでいい思い出だらけで帰りたくないって人が居たらその時はその時でいいじゃん?」

「ここ神子はもう強制送還ですわ」


揃って大きく頷く。


「さぁ、今度こそ、本気で始めますよ」

「僕、元々本気だったけどね!」

「どこまでも異世界人任せの人の為には結果だけで十分ですわ」

「じゃあ、私も、もう隠さず聖気解放神気解放しちゃっていいよね?」

「「「まだ早い!!」」」

「あ、そう?」


俺達を勢いづかせた事を悔やむがいい。


「マリエルのその笑顔、キラキラ具合がなんか怖いよ?」


ああ、俺は…。


「思っていたよりも随分溜めていたんだねぇ。発散できる嬉しさと苛立ちがその顔なんだね」


カミーユ、頬がピクピクしていて美しさが落ちているけど気付いているのだろうか。


「僕、忘れてた」

「わたしも」

「マリエルも私と同類だったね」


ええ。


「そうですよ」


俺は今できる、俺が最も美しいと思う笑顔をを三人に向けた。






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