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87 論

誰かの足元から布がこすれる音がした。

私は浅くなっていた呼吸に気付き大きく吐いて吸う。マリエルの掌から自分の手を引き抜き、深呼吸を続けながら胸を撫でて平静を取り戻す努力を続けた。

静かに待たれる中、聖水をコップに流し入れ、一杯分を飲み込んだ。


「お待たせ」


あ。


「その前に、ごめん、足が痺れた。私達も椅子に座らせてください」

「ぷっ」


リコルが吹き出した。ジルが足を崩し涙を浮かべながら四つん這いになり動けなくなっている。私もジル同様酷い有様だ。


「触らないで!!」

「話をするんでしょう?早く戻してしまいましょう」

「うぎゃあぁあああああぁあああぁあぁぁああああ~~~~!!!」


私の声が響く中、構うことなくマリエルは私の足をさすり続ける。

横目でジルを見ると涙がぽたりぽたりと落ちていくのが見える。

私が耐え切れなくなってべたりと倒れ込むとリコルがひゃひゃひゃと笑う声が聞こえてきた。リコルはジルの足を触っているのだろう。

ムカつくけど、楽しくも思えた。






改めて。


「まず陣について」


私はマリエルを見る。これは確認だ。


「魔法陣じゃなくて方陣、魔方陣だった」

「ええ。でも、今冷静に思い返せば、という感じですが。…カミーユは覚えていると思いますが俺はあのような状態でしたから。……ほぼ間違いなく方陣だと思いますが、あの国の召喚エネルギーは生贄でした。それを考えると、魔法陣という表現で問題無いと思います。どちらでも構わないでしょう」


まずそこ。


「これだけ遅れている世界だよ?これってこっちのあの世の知識じゃ無理だよね?」

「そうですわね」


そう、だから。


「悪魔の中に、地球あの世の科学部研究班の上位の者がいると思う」


思うと言ったがこれは断定してよいのではないか。

三人も同様に思っているのだろう、苦さを隠さない。


「時空旅行の応用だと思う」


そう。これも多分、間違っていない。


「ジルとリコルが来る前、マリエルと私は大浄化したの。その時、還った感覚があった」

「え?」


驚きの声を漏らしたのはマリエルだ。意外だったのかもしれない。


「俺には感じ取れませんでした。今の還ったは地球あの世へですよね?」

「うん。聖光使った時だよ」


本当にあの時は余裕が無かった。逸る気持ちのままに行動していた。落ち着こう、冷静にと何度も思ったけどそうできてはいなかった。それもこれも、こうやって時間が経ってそう振り返る事が出来ているからだ。時間が経って初めて、だ。


「それって、ねぇ。僕の記憶だと時空旅行の応用っていうけどさぁ、流れや空間がどこかしらで繋がっていないとできないはずなんじゃ…」

「そうですわよね」

「それってつまり」


私は頷く。


「そのままでしょ。異世界と地球のあの世かこの世かのどこかが繋がってしまったのでしょうね。私はそう考えたよ」


そう、だから。


「私なら、その繋がった場所を見つけて閉じようとするかな」

「僕だって」

「わたしも元を正そうとしますわ」


マリエルと目が合う。


「召喚の原理…。もし、あちらが原因に気付いて即刻対応したならば…俺達はどうなるのでしょうね」


それが私の不安。


「どうしようか考えちゃうよね。気付いた時、不安で不安で。ま、リーヤ課長は思い当たって私達を回収してくれると信じたいところなんだけどね」

「上、ですね」

「うん」


それも私達じゃまだ到達できない程高みの方々の階。階が違うっていうより、もう界が違うっていう程に差がある上の階。そこが絶対情報規制していたでしょう?

つまり不干渉を破ってまで応えたのはこちらにも原因があるから。でもそこは本当の神々のお役目ってことで、一番の面倒事はそっちが担当すべきことで。だから放置でいいとして。

上の階層はそこはそれで、それなりにしなければならない事があるんでしょうけど、もっとこう滑らかに片付くようにしようよ。いや、ホントにね、私達の階では携われない事を請け負っているって知ってはいるんだけどね、今回は私達だって魂懸けてやってるんだもの。もっと後方支援と正しい情報が欲しかったよ。


「というわけで、異世界で夢を叶えよう!YO!なんていう目標を掲げていてよいものかどうしたものか。こんなだからリーヤと連絡取れたらなぁって、ね」

「本当にそうですね」

「カミーユはどうにかできませんの?」

「いや、出来るなら聞かないって。っていうか、そういう、二人はどうなの?」


私からしてみれば後から来た二人の方がそういう準備できていそうなんだけど。


「…無理」

「ですわ」


力なく首を横に振られてしまう。


「でも、カミーユは単に不安に思うだけで、危機を感じているわけではないのでしょう?」

「うん」


そうなのだ。考えると凄く不安で、私達はこの世界から戻る事が出来なくなるのではないかという怖さが襲ってくるのだが…。


「そうですわね。カミーユの本能の部分である勘がそう言っているわけではないのですよね?」

「うん」


そっか。


「それなら、そういう恐れは可能性としてあるとしても今すぐに対策をしなければならないことではありませんね」

「最悪私が…そうすればみんな揃ってすぐ帰還だしね」


自分でっていうのも三人にお願いするのも、他人にっていうのも全部嫌だから自然にっていうのが希望だけどね!

私の考えを読み取ったのだろう。三人共きれいな顔を歪めて私を見ていた。


「それは緊急の時です。本当に手が無い時の最終手段ですからね、カミーユ」

「うん」


一先ず私の不安は払拭された。


「なんだかなぁ…。いっつも余裕持って行動しているつもりなのに、結局慌ただしくなっちゃうんだろう」

「「「え?」」」


いやいや、何で三人共驚いているのかな?しかも固まっているみたいだし。

そりゃ切羽詰まっていないけど、そんなに時間あるわけじゃないんでしょ?サクサク進める予定だけど、力技でいくとき以外は何か起こっているような気がするんだけど気のせいだったかな。

下調べは上手くいかずにやり直しだったし、二人とはちょっとした諍いがあったし、守護サマ関係もブラッドリーは荒れちゃったし、神子も暴走しちゃったし。

どれもこれも上手くいってないんだよね。

…隠れていた問題が急浮上しただけだともいえるんだけど。


「私達はごちゃごちゃ根回ししてこっそりやっちゃうより、どごぉ~ん、ぱぱ~って、やる事を主体にする方がいいのかもね」


ねぇ、何で無表情で私を見ているのかな?




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