86 昇
お父さん、お母さん、先立つ娘をお許しください…。
「そういうくっだらない三文芝居、僕、好きじゃないなぁ」
口に出していないのに。今絶対、念話だって使っていないのに!何故かリコルに通じてしまったようだ。確かに悪ふざけが過ぎたと思うけど。
「僕、怒っているんだけど」
「ハイ」
冷めた空気。私を凍えさせる視線。呆れを隠さない男性陣。
小さくなる私達。
何で私達が悪い事になっているのかなぁ。
「状況が悪化しますからその百面相やめてくださいませ」
「ハイ」
正座じゃなく椅子に座らせてもらえているからまだいいのかなぁ。なんて思ったのだけど。…心の悪ふざけが思ったより過ぎたのね。
リコルの目が怖いままです。
隣りのジルを見るとジルの顔が引き攣っている。元が可愛い顔でもその顔はちょっとって位ピクピクしていて残念だ。
私はジルの服をクイクイッと引っ張る。
私は空気を読んだ。私は日本人だ。
椅子から降りて正座した。ジルも続いた。
私達は反省の意を示した。
……………全然、ホントに、全く、納得いかないけどね!!
私とジルに疑いを抱いたマリエルとリコルは、私達が自ら告げてくれる事を期待して静観することに決めていたそうだ。とはいっても、マリエルがそう決めたわけではないだろう。きっと知っていて、その上で私の好きな様にさせていたに違いないから。早く言ってくれないかなぁとかは思っていたとは思うけど。
きっともう少しの間、こういう風に運ぶ予定は無かったんだと思う。でも、私がやらかしたから接触するころにしたんだろう。
私が思い出していた事を知ったリコルとの私の部屋での再会は感動もちょっとはあったけど、それを維持することは出来ず、あっという間に彼等の流れにとってかわられてしまった。
お説教…というよりは、感情をぶつけてくるだけという感じだろうか。
そうするのは勿論リコルだ。
何故か私への親愛の情について熱く語られたのは何故だろう。私に響いてこないのは、私に向けて話していたが、本当に伝えたかったのはジルだったからだろうか。
私にとっては改めて語られなくても伝わっていた事であったので、痴話喧嘩なら私を巻き込まないでくれと思わずにはいられなかったわけだが。
温い空気をパン!とマリエルが手を叩いてその場を作り直す。
「さて、ここからはお仕事モードに切り替えて下さい」
どこか緩かった雰囲気はマリエルによって引き締められた。私達の意識も上がる。
「さて、ここからが本番です。といいたいところですが、すでに始まってしまいました。予定外ですが、想定内です。ですが、カミーユ。この先は情報を共有しますよ。なので、先程は暈すことを許しましたが、今度は全て報告してくださいね」
「ハイ」
覚悟はしていたけど、隠した事が多くて言いたくないなぁ。ジルにも言っていない事あるし。
「その前に、俺達の方を先に出しましょう」
既に知っている事もあったが知らない事も多かった。
泣ける。
そのお粗末さに、感情が凍りそうになる。
そんな私を抱き寄せてくれたのはマリエルだ。
「俺達のしている事って何なのでしょうね」
「僕達が身を粉にして務める必要ってあるのかな」
「馬鹿バカしくなってきますわね」
「うん、そうだね」
顔色が悪くなっても動いてくれたマリエルとリコル。心を痛めながら一緒に動いてくれたジル。持ってる力は弱かったし知識の継承も出来ていなかったけど出来る事を全うしようとしていたブラッドリーとおじさん。思い込みと見ぬふりを捨てた神子に仕える者達。
尽くしたのはほんの少し。
被害者の神子に強さを求めてはいけないのは分かっているけど、囲われるのではなく、目を開いて欲しかった。でもこれは高望みだって分かっているから責めているのではなく愚痴のようなもの。寧ろ狂ってしまわなかったことを褒めるべきなのだろう。彼女が頑張ったから次の召喚を引き延ばせている。これは称えて良い事だ。犠牲者が減ったのだから。
「時間があまり残されていません」
「うん、分かっている」
私が今躊躇する理由。
「リーヤと連絡とれたらいいんだけど」
ここまで時間をかけた。急がなかったから思い出せた経験。あの時私の聖気と神気で浄化された魂。地球の魂はどこへ消えた?今思い出してみれば確かに浄化して還ったのだ。その感覚は慣れたものだから間違わない。
どこへ?私達の力は作用したのだ。絶対に。そして自らの疑問、どこへは間違いなく地球あの世へのはずだ。
「私達はどうやって地球あの世へ還したのだろう。どうして地球あの世へ還すことができたのだろう。どうして転移と召喚が可能だったのだろう」
私の疑問はとても大切なことなのではないか。マリエルの私を抱く腕に力がこもった。
「今回の浄化で詳細を調べましょう。もしかしたら俺達がここで任務を果たすより重要な事があるかもしれません」
もしかして、と不安が湧き上がった。
それは、私の中で閃きなのかもと不安がさらに増す考えだと反転を繰り返す。
「ちょっとヤバい事が過ぎったの」
私一人、震えが起こる。そうだったら怖い。でも、本当だったら地球に帰らなくちゃ。
「どうして召喚なんてことが出来ているんだろうって考えたことあるよね?」
「ええ、それは勿論」
「あっちでもそれについては考えられているはずですわ」
「そこ大事だもんね」
だんだん落ち着きを取り戻すけど、緊張から手が冷たくなっていく。
マリエルがぴったり寄り添って震える私をさすってくれる。私の緊張が移ってしまったのか、さすってくれている手と反対の私の手と重ねてくれた掌が湿り気を帯びてきた。
四人がまた集まった。
時間を掛けただけの情報も集まった。
この世界に大切な物は少ないままだ。
もっと増えると思ったけど、思いの外増え方が少ない。
執着や拘りが余り起きないせいかもしれない。
リーヤは楽しめって言ってくれたし、私も異世界っていう所で特別な力があって、小説の主人公みたいにもっと楽しめると思っていたけど、ここはそんなに優しい世界じゃなかったみたいだ。
せっかく上がった意識が下がるかもしれない。
世界がどうなっているかいるか分からないけど、この世界に及ぼす被害をまるっと無視して力技で任務を遂行して、早く地球あの世に帰る方がいいのかもしれない。
私に三人からの視線が集まる。
私は不安を隠さず顔を上げた。
ああ、誰か、そんなの考えすぎだと言って笑って。




