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84 綻び

また、だ。

神子が不安定になった。カミーユに知らせるべきなのは分かる。でも、不安定になった理由も確定できているからこそカミーユに伝えるのを躊躇ってしまう。

オカリナを流行らせたのも地球の曲を使ったのも、ただカミーユが好きな曲だからという理由だけではない。好みだけでいったらもっと好きな曲もあるし、アニメソングだらけになったっていいはず。でもそれが日本で有名な曲ばかりであったり音楽の授業で習うような曲、そして童謡に複数の国歌が選ばれているとなれば神子の耳に届かせたいという厚意だ。


「親切が仇になったなんて言いにくいですわ」


綻んだのは内側から。浄化の効果より強い苦境と理不尽さで神子の心が暗く沈んでいく。神子の淀みに応える様に仕える者の表情も曇り、自然に出来上がっていた結界が役目を果たせなくなった。


大して時間を置くことなく、再び外から悪意の接触が始まった。


最初は癒しになったオカリナもそれを使った演奏も神子を苛立たせるだけの物と化した。楽譜は破られ捨てられた。そっと拾われ繋ぎ合わされ丁寧に復元されたが使われる日はくるのだろうか。わたしの胸も痛む。早く報告をと思っている内に、わたしの周りでも起きている変化を見落としていた。




予兆はあったのだろうがわたしはそれも見落とした。


「あああああああ…………!」


神子が蹲り声を上げた。厭いながらも、楽譜は捨ててもオカリナは飾られていたのに。仄かに出る聖なる気はそれでもまだ多少の癒しになっていたと思っていたのに、荒々しくそれを掴んで投げつけた。それも人に向けて。

ぶつけられた男は額から血を流しながら笑う。


「ついに、目覚めたな、神子!」


わたしのせいだ。


「何が聴こえる、神子!どこまで聴こえる!望まれている事は何だ!教えろ!誰が敵だ!!」


狂ったように笑う男。

叫ぶ神子。

男の姿が引き寄せられた悪霊に覆われ元の姿形が私には見えなくなる。

気持ち悪さでその場に居る事がきつくなる。もう、私じゃ無理だ。


『助けて!お願い』


カミーユに向けて念話を送る。しかし、わたしが今ここを去るのは無責任だ。

カミーユ早く。そう祈るばかり。気持ち悪さと渦巻く悪意。それだけじゃない負の感情の数々がわたしを苦しめる。

神子の叫びと男の笑う声が空気だけでなくまるで地面すら揺らしているかのような感覚に立っていられない。

そんな中、空間に切れ目が入る。わたしはそこから出た細腕に掴まれ引っ張り入れられた。無意識に止めていた呼吸の反動で清浄な空気を肺いっぱいに吸い込みむせてしまう。生理的に浮かんだ涙をぐいと拭い顔を上げると、緩くウェーブがある長い髪が光を反射させているのかキラキラしているのが見えた。


「やばいね。失敗しちゃった。もういいよね、面倒臭いからやっちゃおう」


カミーユが両手で拳銃を構えるかの様に手を組んで人差し指を出す。その指先に神気を集める。


『それちょっと集めすぎですわ』

『でも緊急!』

『ええ~?!』


それを部屋から人差し指だけ出して神子の部屋へ放った。そこに遠慮も迷いもない。なんて潔く清々しい。


「嘘でしょ。反則ですわ」


その凄さが気になり、わたしも少しだけ開けて先程までいたその場所を見た。

カミーユが撃ち出した神気の塊は何故か白と金の二色が合わさり、ぐるぐると部屋の中をしっちゃかめっちゃかに荒らすと、それでも足りぬとでもいうようにドアと窓から細かく分かれ色々な方向へぶっ飛んでいった。


「何ですの。台風ですわ」

「やりすぎちゃったかな。テヘってやったら許してもらえると思う?」

「誰にですの?」


思わずジト目で見やる。


「別に誰の許しも必要ないですし、小言や厭味を言われても許されない事無いでしょう?怪我人だってでていないのですし」


わたしはそれより。


「カミーユ、ありがとうございました。助かりましたわ」

「ううん、私こそ浅慮だったね。思いやりがなかった。守護サマに文句言えないね」

「それとこれは別ですわ」

「そっかな」

「そうですわ」


それよりももっとそれより。


「色々バレるの、もう、時間の問題ですわ」

「だよね~。さようなら、こっそり楽しむ日々よ」


カミーユ、余裕を感じられる言葉ですけど分かっているのかしら?わたしは隠す事無く呆れを含ませた大きな溜息をついた。

そんなわたしをカミーユが憐れむ様に見てくる。わたしは顔に掛かった髪を払う。


「分かってないのジルだと思うよ」


何を指すのか分からないわたしは自分の部屋へ戻る事にする。


「ワオ。本当に分かってないんだ」


背中から聞こえたカミーユの声が少しばかりわたしを不安にさせたる。わたしは何を分かっていないのだろう。

…カミーユに言われるっていうのが、ホント無駄に不安を煽ってくる。引っかかって落ち着かない。






落ち着かない気持ちを収める事が出来ずにいたけど、やらかしたわたしはカミーユの部屋で膝を抱えて小さくなっていた。


「ジル、何やってるの~?…そのちっちゃくなっている姿、可愛いなぁ」

「わたしだってこうなる時があってもいいと思いますわ」

「うん、それは別にいいと思うよ」


安心してしまっていた。内緒が嬉しく楽しくて浮かれていたんだと思う。だからが見逃した。そして静観してしまった。読み間違えた。カミーユを責めるべきではない。


「言ってくれたら良かったのに。予想とは違ったけど、任務に支障ないからそんなに落ち込まなくていいよ」

「そのように言ってくれても落ち込まずにはいられませんわ」


大人げない態度をとっていたら唇を尖らせていた。

そういう問題じゃない。今は反省するしかない。


「最初は神子も良かったのですの。懐かしさを感じ、既知の文化は彼女に安心をもたらしましたわ。でも…」

「うん、分かるよ。私が自分で積極的に参加するわけにもいかなかったし、それはジルもそうだったよね」


わたし達が同郷である事や知っている事を知らせるわけにはいかない。日本に戻せるわけじゃない。

神子と違い、身体はこちら製になっているから同じ速さの時間に乗れない。神子だけが、人間なのに異質で異物。

この世界に他にも神子が居るということは彼女の耳にも情報として入っているかもしれない。いや、知らせたら合わせろと言われるだろうから伏せられているのかもしれない。誰も漏らさないなんて事が出来るとも思えないが。


「それよりも」


わたしはカミーユと目を合わせる。


「神子が聴こえるのバレちゃったね。政治利用するのかな」

「いや、多分それどころじゃないなのではないかしら?」


あの悪霊憑きは多分精神が壊れたと思う。もうできない国政には参加できない。あの状況からなら他の誰にも気づかれていないだろう。

わたしは神子に何をしてあげたらいいのだろう。


「カミーユ…」


思わず縋る様にカミーユを見る。優しく甘い、でも厳しい彼女がこの状態をどのように収めるのか。わたしでは彼女を救えない。


「ねえ」


わたしを見るカミーユの顔がら温かさが薄れた。

何だろう。少し怖いと思ってしまう。どうしてカミーユに対してそんな風に思うんだろう。

これがマリエル相手ならよくある事なのに。


ああ、これは間違いなく「カミーユ・カミュ」だ。

そして、「榊心結さかきみゆう」だ。


優しく甘く厳しい。二人共そうだった。その濃度が違うだけ。

改めて気付かされた神らしさ天使らしさ、そして人間らしさ。


リコルより先に再びカミーユに会えたけど、今この時漸く、カミーユをカミーユと心結が融合した人間だと認識させられた。

胸の中でカチリと合わさった音がした。

わたしの意識も今までより明度も彩度も上がった風に感じられる。


「私達は一緒に堕ちてはいけない。神子の魂は一緒に連れて還るよ。でも、今、現実を選んでいるのは神子本人。彼女自身が選んだ結果。それでもこの件に関して私達が裁かれるとしたら、それは私達があの世へ帰った時。だから、人として楽しむ事と特務課の仕事を続けよう?」


わたしはコクリと頷く。

ふと思った。

放った神気はどこまで浄化したんだろう?



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