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遅くなりました。

今年もよろしくお願い致します。

暴走こそはしなかったけど、また、だ。ブラッドリーの不安定さはまるで私の様。真面目過ぎるのだろう。


私だって遠い遠い昔はそうだった。本当の大昔の事はもう記憶にはないけれど、覚えている記憶の中で思い出す記憶の欠片がうっすらとそういう時もあったと残している。

今の私にも感情の乱高下があるのは否定できない。彼が安定した状態になるにはまだ100回くらいは生まれ変わらなければならないかもしれない。まぁ。それはいい。


うっかり、マリエル達と遭遇してしまいそうな日があった。気配を消していたからバレなかったけど。

…私が実はこっそり出来る事が増えていっているのは皆には内緒にしている。私自身、協力する事といざという時の為に隠しておくべき手がある方がよいと考えているからだ。



遭遇しそうになったその場所はおじさん達が代々作ってきた物が置かれている所だ。緩衝地帯の維持に置かれている数種類の置物。小さな祠の中に設置されている。


おじさんには芸術のセンスと物作りの才能はあると思う。力をこめられる事も作品を作る人間にとっては有利な才能の一つだ。ブラッドリーはこめる才能は秀でていると思うが、物作りは向いていないと思う。本人に自覚が無い様だが、物作りが好きではないのだろう。

好きなのならば、おじさんの後を継ぐなり、工房で一緒に仕事をしているはずなのだ。なのに彼は、合格を得てからは腕が鈍らない程度に作り、外へ仕事に出ている。

受け継いだ使命に誇りを持っているのは分かったが、彼のしたい事ではないのだろう。その自覚が無い事が最も驚くべきところなのだが。

だからこそあそこまで揺れるのだろう。奥底に沈んでいる夢と希望は無意識に閉じ込め沈められた。鍵も掛かっているかもしれない。仮定のその鍵だってどこにあるか分からない状態だろう。

おじさんは幸い、人の幸せを願える性質だし仕事と役目がセンスを生かせる状態だった。

しかしブラッドリーは医療関係や学校の先生でもやっていた方が良かったのではないかと思う。その次が、芸術でも音楽を奏でる方面。歌声は聴いた事無いから私と同じ様に歌うのがいいかは何とも言えないけど。


ブラッドリーは自分の力を正しく把握する必要がある。

活かし方は私が教える事が出来る。

まだ私に対して思うところはあるみたいだけど、私は華麗に流すしね。その想いが深く強いほど自身がしんどいだけなんだけど。



◇◆◇


これは何なの?


精神の疲れが抜けきらない僕達二人の耳に入ったのは聴いたことがある曲。


「これって、あの映画音楽だよね」

「ええ」

「あ。今始まった曲って、イケメンが歌って大ヒットした恋愛の歌だよね」

「ええ、そうですね」

「「……」」


言葉が出ない。

偵察をジルに任せきりだった僕等は久しぶりに自分の目で見ようと繰り出していた。ジルは神子の所だ。

そしたらこれだ。

疑う余地なしでカミーユがしたことだ。


「知ってたの?」

「まさか」

「だよね」


この状態から言える事の一つ。


「カミーユとジルは繋がっているね」

「ですね」


マリエルが顎に手を添え「ただ…」と続ける。


「これがカミーユとジルスによるものなのか、カミーユとジルによるものなのか」

「え?」


ちょ、は?えっ?ちょっと待ってよ。


「僕、意味、分かんないんだけど」


いや、分かってるよ。うん、分かってる。


「おそらく、カミーユとジル、でしょうけど」


うん、分かってるって。


「カミーユはまた音楽で浄化なんですね。彼女らしい。まぁ。この選曲ですし、そんなに隠す気も無かったあもしれませんね」


いや、でもさ、そうじゃなくて、何でそんなに冷静なの?ねぇ、マリエル。


「ということで、部屋へ…の前に、今、改めてお聞きしましょう」

「ちょっと、僕、今、大混乱中なんだけど!!」


もう、一体何を聞きたいのさ!!!この混乱を収める以外に大事なことって何?思いつかないよ!



◇◆◇


さて。まあ、いいだろう。カミーユのこのほんの少しずつの浄化のお蔭で弱体化が始まっているようだし。気に入らないのは俺には内緒ってことだけだから。

俺にくるまれていたいわけではないのはよ~っく知ってるし。そんな風に大人しいのもまたカミーユらしくないし。


さて。


では、俺はこの混乱に乗じて不安の払拭を。この状態で不意打ちなら隠せず本音を漏らすだろ?


「リコルはカミーユを愛していますか?」

「はぁ?当たり前でしょ」


そうか。しかも、当たり前だろうとブツブツ加えている。


「恋していますか?」

「ああん?恋人に恋して悪いの?」


リコルは「っつーかさ」と言い足りないようだ。では聞こう。


「で、何が聞きたいわけ?」

「え?」


通じてない、と。


「リコルはカミーユを愛しているし、恋している」

「ん?」


自分の周りの温度が下がっていくのを感じる。指を動かし肩も回す。足首も回し、ステップを踏み始める。シュッシュッとつま先で風を切ってみる。いい音だ。


「僕の恋人はジルだろ!!マリエルこえーよ!!」


その言葉に身体をほぐすのをやめる。…カミーユのまねをしてみよう。こてっと首を倒す。


「可愛くないから!寧ろ怖さ倍以上に増えているから!!」

「何故?」

「まだ続ける?無表情だし、目、笑ってないし、本当に怖いだけだから!!で、僕、何か気に障る事言ったかなあ?心当たり無いんだけど!!!」


リコルはぜえぜえ息を荒げ、がっくりとうなだれてしまった。


「愛しているのでしょう?」

「当たり前。ジルは僕にとってのカミーユみたいなものだって、マリエルなら知っているだろう?」


ああ、そう。そうか。そうか、そうかそうか。でも。


「カミーユの事も愛しているのでしょう?」

「当たり前だっていってんだろう?もう、しつこい。僕にしてはすっごく言葉遣い悪くなってるじゃん。もう何なの。いい加減にしてよ。いくらマリエルだって僕、本気で攻撃しちゃうよ。変な言いがかり?なのかな。ホント、よして」


さて。これは俺が何か勘違いしているのか?当たり前の様に愛があるのに俺のカミーユはリコルのジル。


「あのさぁ」


リコルが片手で髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ俺を見た。


「ばかばかしくて問うのも嫌なんだけど、聞くことにする」


乱れた髪を両手で整えてから口を開いた。


「まさかとは思うけど、僕がカミーユに恋愛感情を持っていると思っているのかな?」

「はい。そうではないかと疑っています。俺だけではないと思いますよ」

「信じられない。何で今頃そんな話になっているのさ」


膝をつきがっくり項垂れるリコル。もう駄目とへろへろと地べたへ伸びていった。

ああ、勘違いだったようだ。

でも、そう思わせるような発言をするからこうなったのだ。だから謝る事はしないでおこう。


「カミーユへの愛が無いわけないだろ。母や姉の様に慕う仲間で友なんだから。やめてよね」


なるほど。


「大体さぁ、カミーユとマリエルがセット扱いなわけじゃん。それが在るべき姿だと思っているのに恋愛って、ナイナイ。無いから。僕はジルがいいんだけど」


そこまで言われて、いつの間にかつかえが取れている事に気付く。


「……今までのはちょっとしたドッキリです。驚いたでしょう?」


そう言って静かに笑って見せた。


「嘘だよ、絶対本気だよ!」


リコルは怒ったままだが、俺の心は軽く放たれ、本当に軽くなった。



◇◆◇


仕えの中でも少し軽口をたたいてくれるようになった女性の一人が流行り始めたのだと教えてくれた。

やっと私の耳に直接届いたのだ。


「現物欲しいなぁ。手に入る?」

「勿論です」


誰かが心の中で歌っていたそれは懐かしい曲。

同郷の人に会いたい。流行なのならば、それはどこから来た?居るはず。どこに?

その人は自分の様に囲われず伸び伸び生きているのだろうか?連れ出してくれないだろうか。

至れり尽くせりでも、心が満たされない。


心でお話ししてくれる方は姿を見せてくれない。

得た幸せは更にを望む。

再び今を嘆く自分が現れる。

乱れると制御ができなくなり、また聴きたくない声が頭に入ってきてしまう。


「家に帰りたい」


身体が重く感じるのは声のせいか。

ああ、辛い。何でなのなろう。選ばないで欲しかった。

ああ、何故何故何故。


現実で無いと言って欲しい。

誰か、この世界から解放して。


誰かに届いて、この声。




いつもお読み下さりありがとうございます。

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