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78 誇りと義務

父さんが誑し込まれた。かもしれない。

私より若いだろう。ただ、若いといってもその明るさと生き生きと話す様がそのように見せているだけかもしれないが。

彼女は、私が留守にしている間に現れた。

美しいと思う。

明るく笑う中に時々見える戸惑い。

会える時間の短さ。

その耳に見える石は番が居る証。

それを少々残念に思う。私も誑し込まれたのかもしれない。


「嬢ちゃん、あんた旦那に内緒で来ているのかい?」

「旦那?」


彼女は不思議そうに首を傾けた。父さんは耳を指す。それでもきょとんとしている。旦那という言葉は私をチクリと刺す。やはり誑し込まれたのだろう。


「耳?」


私は自分の耳を見せる。ほら私の耳には何もないでしょう?と示して見せるが反応が薄い。なので言葉を添える。


「私は独身なので」

「?」


まだ首を傾けたままだ。私が首を傾けたい。


「えっと?」


彼女は知らない?何故?近隣諸国で知らぬものは居ないだろう。


「その耳。あなたは既婚者でしょう?」

「え?」


驚いたあと、顔を赤らめた。


「ううん、まだしてないよ。あ、えっと。私、この辺りの風習知らない事だらけなんだよね。これはおしゃれとお守りかな。私の故郷では結婚の証は薬指に指輪なの。でもそれも国によって左右違ったり、してもしなくてもいいものだから嵌めていない人も多いんだ」


彼女の言うまだの意味は?まだその様な相手は居ないのか、婚約者は居るということなのか。チクチクと心臓を刺されているのを感じる。

父さんがニヤリと嫌な笑顔を向けてくる。


「うちのブラッドリーなんかどうだい?」


彼女が残像で手が50本位に見える速さで手を左右に振る。


「ナイナイナイナイナイナイ!勿体ない!!」


そこまで激しく否定する仕草を表に出さない様に抑え、私は爽やかに見える笑顔で返す。


「そうですか?」

「そうです!」

「お買い得ですよ」

「きゃ~、マリエルに聞かれたら大変だわぁ、ふふ」


人名が出てきた。


「恋人ですか?」

「はい。っていうか、お互い唯一無二の存在っていうか。奪いに来たら刺しちゃうぞ♪っていうくらい譲れない大事な人です」

「……そうですか」

「……そいつはすげえな」

「へへ」


その顔と出た言葉の落差に心臓が縮む。


《間違いない。見つけました》

「え?」

《カミーユ様ですね》


守護様の言葉に彼女の顔つきが変わる。


心結みゆうさん?」


私は彼女の名前を呼んだ。彼女は私の奥に視線を合わせる。


「守護サマ?初めまして。地球あの世特務課、カミーユ・カミュです」


私と共に父さんも固まる。父さんの守護様も慌てる。


《ご挨拶が遅くなり申し訳ありません》


心結みゆうさんが声を守護様に話しかける。慣れている。その事に驚く。


「私達がリオイシャ国に入ってから、彼等に出会ってからもう数ヶ月経っていますけど。というか、相変わらずこの世界はお仕事しないのね」


脇に額に背中に汗が出てじっとりと肌を濡らしていく。父さんも気さくに話していた心結さんが守護様に敬われる存在だと気付き表情を硬くしている。

先程までのやり取りが嘘の様だ。

そして、心結さんの雰囲気の変化。

急速に乾く口の中を唾を飲み込み潤そうとするが上手くいかない。


「心結さん?」


掠れた声だが出た。


「まさか、おじさん達がそうだとは思わなかったわ。まあ、こうだから私達が呼ばれるんだよね。うん、分かってる。仕方ないよね」


呆れらたのは分かった。が、さすがに失礼だと思う。


「勝手に完結しないで欲しいね」


私の何を知っているというのだ。守護様が付いたという事は私には課せられた使命があるのだ。普通の生活を送りながらそれをこなす苦労を心結さんが知っているというのか。私の努力をそのように簡単に否定するような発言。

父と私が守り支えているものを知っているのか。


「あ~、うん。マリエルとジルとリコルにもまだ接触していないのね?」

《はい》

「そう」


私達親子はまるで居ない者の様に扱われている。

完全に視界から消えたのだろう。


「まだ会っていないなら内緒にしていて。それから、私が明日知った事を伝えるからおじさんもブラッドリーさんも覚悟してね」


笑顔に凄味が出ている。


「守護サマ?私から話すから余計な事吹きこまないでね?サボっていたツケの覚悟、守護サマも、ね?」

《承知》

「あ、私の話を信用してもらうために聖国と王国の話は先にしておいてね。この国の現状だけは何も話しちゃ駄目よ」

《承知》









「それは事実ですか」


聞かされた事は余りにも現実的ではなく信じられない事だった。

私には守護様が偽りを述べる必要がないことは理解している。

守護様は勿論、私と父さんよりも力があることも成した事も、我々の世界がそれほどの危機を迎えていることも、神子様の事実も全てが信じたくない事であった。


おそらく、守護様は話すなと言われた事も私達に話しただろう。そうでなければ本当に理解することが出来ないからだ。

成した事だけ話されたら空想の物語にしか思えない。


そもそも何故?


私達は何の為に?


守護様から教え導かれた事は役に立たなかった?


無駄な事だけをしてきたのか?


なら、私達は、私は不必要な存在?


与えられたこの力は?


力を尽くし、働き生きてきた。それは全て無駄だった?

そんなの嘘だ。

嘘のわけがない。


ああ、そうだ分かっている。

ピシリとヒビが入る音がする。


「ああ、ああ、ああ~」


何故?何故、何故!!


「ブラッドリー!」


父さん、父さん、父さん…!!


「後悔は無い。けど、理不尽だ……!」


ああ、獣が吠えている。近い。喉が激しく震えている。父さん、早く撃退しよう。守らなくては。

父さんに拘束されている?

私じゃなくて獣を狩ろう。私を抑える手を離すんだ。



◇◆◇


《カミーユ様!》


切羽詰まった声が届いた。


『何?』


マリエル達にバレたくないから接触しないで欲しいのに。


《ブラッドリーを助けて下さい》


……………は?いやいや、守護様、あなた達にその力あるでしょう?楽しようとしないでよ、もう。


《我らのせいです》


でしょうね。そっちの事情が分からないから守護様に任せたんだけど、だったら自分で話せば良かったなぁ。


『行きます』






ワオ。

渦巻いてますけど。

おじさん、もうちょっと頑張ってね。


聖糸で拘束。実際に本体は拘束できないけど。

悪霊ホイホイになってますよ~。


うん、興奮が治まらないね。先に動き止めちゃおうか。

聖気を指先に凝縮。パンっ!!

無いけど硝煙を吹き飛ばす様に指先をフッと吹く。決まった。


「おじさん、聖水飲ませるからしっかり支えて」

「おう」


私は手からコップに注ぎ彼の口に運ぶ。喉がきちんと聖水を飲み込む動作を確認。


「水筒があったはず。これに聖水入れたから目を覚ましたら半分飲ませて。おじさんも飲んでね。容器は明日回収するから絶対に無くさないでね」

「おう」


人騒がせね。


「おじさん。無駄なのも効果が薄いのもおじさん達のせいじゃないから。そこの所誤解のないように」


ホントに守護サマがヒドイ。


「ちょっと守護サマ。守護サマさぁ、あの世で守護サマ合宿でもしたら?」


ちゃんとイヤミに聞こえたかしら?

聖気で浄化する。この位にしておかないと三人の誰かに気付かれちゃうからから五家の子達がするのと変わらない位に抑えた。


「じゃあね。ゆっくり休ませてあげてね。考えが深みにはまってぐるぐるする前に来るから。午前中は空けておいてね」


明日は、忙しくなりそうだなぁ。




◇◆◇


やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい、超やばい。


聴いていた、が。が。が。


強すぎだろう。もう我らが手出ししない方が良いのでは?


《何を言っておる》

《彼等が本気を出せば我らだって危うい》

《その様な怠惰、堕ちるぞ》

《こちらは反省した。我らの子を育ててもらった》

《人間にはまだ望みを持ってくださっているようだが、正直我らに対しては…》


我らは始めの一歩も二歩も、もしかしたらすでに三歩も間違ったかもしれない。

ああ、神よ……!


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