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75 傍観者2

むくれているその姿もまた可愛い。

…俺の気持ちを酌んでくれればなお結構。

まぁいつの人生もどの人生も思った通りにだけなるなんてことは無い。それはあなたも分かっているのでしょう?


「いっつもいっつもいっつもいっつも!私が駄々こねているみたいに言うけど、マリエルが悪いと思うのよ。だって言ってる事が前と違うじゃない」


俺は敢えて目を逸らさずに言う。


「そうですね」


カミーユの頭から湯気が発ち始めそうだと思うのは俺だけだろうか。それは何故なのか少しは考えてくれているのだろうか。ただの俺の過保護という意見も完全否定はできないが。


「そう思うならもうちょっと私に対して申し訳なさそうにしても良いのではないの、か・し・ら?」


だがしかし、あまりそのようには思わない。が。


「そうかもしれませんね」


と少しはご機嫌伺いと。


「ムッキ~!!」


うん。こんな言葉で機嫌が上向く事なんてあるわけないか。

やっぱりこういう反応があるというのは揶揄いがいがあって楽しい。その目まぐるしく変わる表情。以前は四人だけのものだった。それが今は俺一人だけの物。いつまでもこのままではないと理解はしている。だからこそ、今この自分にだけ見せて貰えているという優越感がたまらない。


俺はなんて独占欲が強いのだろう。

手放せないのは何度生まれても変わらない。

正直少し病的ではないかと思わないでもないが、リコルもユリウスもリーヤもそれぞれ仲間や相棒に対してその気があると感じているのでそういう波長が俺達を結ぶ要因の一つなのかもしれない。


カミーユが怒っているのは俺がカミーユを留め置いているからだ。


したいことをさせるつもりでいたが、カミーユが始めると事が大きくなる事は経験から学んだ。それでも、ゲームの参加を止める事ができて胸をなでおろしていたら、やりたい事をやって人生を楽しんでいいって言ったじゃないかと抗議を受けた。


やりたい事をして欲しいというのは俺らの願いでもある。

でも、助産師になりたいとか医療事務をしてみたいとか刀を打ってみたいとかさすがにそれは止められても仕方ないって納得して欲しいところだ。

やりたい、ハイできます、ハイどうぞ、とはいかないんだから。


ここは幸か不幸か、刀鍛冶…というか対人戦闘用武器としての剣も刀も存在していない。そういう所は現代日本に近い。そして、医療方面はまださすがに同様には発達していない。でもこの国ならそういう方面に詳しい神子が来ていたならばもう少し発展していたのかもしれない。

が、カミーユだって学んだ経験があるのはアロマテラピーやリフレクソロジー、ハーブにマクロビオティック、あとはその時々に流行ったヨガやダンス、人体の知識なんて学校で習った生物と保健体育、専門学校で習った伝染病や公衆衛生学、生理解剖学なんかだろう。医療用には足りなさすぎる。

無いよりましっていうが、中途半端な分何も知らないより被害が拡大したり間違いや勘違いを広めそうな怖さと危うさがある。そういう危険は本当のこの地の人が負うべきなのだ。

だから出来たら民間療法的な感じで済む程度に収めて欲しい。


国に目をつけられたくない。


そもそも何故、演じる事を望んだ所から武器と医療に変わるのか、かなり深い所まで理解し合っているつもりでいたが、全くそんなことはなかったらしい。

頭が痛くなりそうだと眉間に手が伸びる。少し揉み解したら多少頭もすっきりしたように感じる。カミーユから『うわ、その仕草ちょっとカッコイイ』と聴こえてきてうっかり緩みそうになるのと呆れの両方が起こる。少しきつめに目をぎゅっと閉じ、それをやり過ごす。


俺は努めて笑顔を作る。


「ねぇ、カミーユ」

「…何」


内心黒いと思いながらも俺に見惚れるのをやめられないカミーユが上目遣いで俺を見る。


「もう演じることはよいのですか?」

「そんなことないけど」


少しばかりしょぼんとしているのは自分が無茶を言った自覚があるのだろう。


「もう歌うのは飽きましたか?」

「ううん。そんなことないよ。でも、欠けた何かが揃ってからがいいって、そういう風に訴えてくるもう一人が居るんだもん。それに経験も知識もないからこそやってみたいなって」


へにゃりと眉が下がるのが分かる。なんて俺らしくない表情だろう。でもそんな顔でさえカミーユが目をハートにして見つめてくる。

…リコルに会わせたくない。

俺が躊躇う理由の多くを占めるのがリコル。

今後を考えたら早めに会わせて置く方がいいのだろう。

しかし、あのリコルのカミーユを乞う目が…。


「そうですね」


考える時間が欲しい。…でも。………これは俺の我が儘か。

捨てるのが惜しい二人だけの時間。

これはもうカミーユを想っての愛ではない。俺自身だけを満足させたいが為のもの。

愛は愛でも自己愛か。

あ、そうだ。


「ねぇ、カミーユ。では、こういうのはどうですか?そう、例えば紙芝居、人形劇、一人芝居、歌は歌でも歌劇。制作なら、武器ではなくて楽器。音楽だって編曲やアレンジ違いを楽譜にするとか。それこそまだ未確認なので分かりませんが、この国に職業としてあるのか…吟遊詩人を目指してみるとかも面白そうだとは思いませんか?」


カミーユの目が輝く。上手くいったのだと確信する。


「うんっ!!やるっ!決めた!!!」


簡単に乗せられてくれてよかった。


「まず、」


え。まず?


「マリエルと一緒に楽譜に起こして」


あ~。


「楽器を作って!」


ああ。


「演奏したりしてもらったり」


失敗した。


「オペラ風?のお芝居するのなんてどう?」


あ~あ。選択肢を並べ過ぎた。

頬も口元も引きつりそうだ。

キラキラしているその瞳に陰りを落としたくない。

楽器の選択は俺がしよう。俺の知識の中に何があったかな。

量産しやすいのはどれだろう。


「そうですね。全部は難しいと思いますが、修正しながらやってみましょう」


まぁ、何とかなるだろう。


「うんっ!それでね」


まだあるのですか。


「完成したら神子の所で興行だよっ」


…神子への接触は必須ですか。


「ええ、頑張りましょう」


うん、頑張りましょう。


「あ、ねぇ。内偵?のお友達も一緒にできるかなぁ?マリエルが信用している人達なら多分私も大丈夫だと思うの。顔合わせ楽しみにしているね!」


俺はハイともイイエとも言葉は発さず緩く微笑んだ。

やはりカミーユのしたい事は事が大きくなりそうだと心の中でこっそり溜息をついた。



◇◆◇


流れは緩やかに。

カミーユが直接関与しなければこんなにも緩やかにしか事が動かないことに安心しながらわたしは見守る。


神子がリアル乙女ゲームを始めてから神子は非常に上手く国からの監視を排除していた。

心の声に答えている事にもさり気なくできたかどうかはわたしが判断することは難しいが、伝える事が出来た。

わたしの言葉を耳にしてからまるで少女の様にボッと真っ赤に染め上がったその姿にわたしの口元は緩んだ。自分の行いが奇行に映っているといたという自覚が出来たのであろう。

でも、これを機にわたしを探している。わたしを味方だと判断したのだろう。神子がどんなに困ることがあろうとも姿を晒すことはない。

わたしは彼女と友達になるつもりもない。

それを薄情だと冷たいと、マリエルもリコルも思うことも言ってくることもないに違いない。


まだ巷にカミーユの話は流れてこない。

ゆっくりでいい。

出来たらカミーユと楽しむのは全てが終わってからがいい。


遠からずカミーユと会わせられると言われてから月日は結構過ぎている。

覚えていなくても面と向かって会いたい。話したい。

リコルとマリエルの関係はどうなったのだろう。


リコルとも仕事の話が多く、二人でデートが出来ていないのがわたしの不満だ。






「リコル、そっちはどう?」


今日も青い顔をしたリコルが聖水をがぶ飲みしている。


「ん、ちょっと待って。僕、先に風呂入らせて」


穢れをつけてぐったりとして帰って来る。

最初は二人で神子の様子やゲームの場所と参加者をあちこち見ていたが、外野を知る為にリコルが攻略者やモブとして選ばれなかった人達の方のその後を追ってから二手に分れていた。



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