74 傍観者
わたしは何を見せられているのかしら?あんまりと言えばあんまりですわ。
ネコですから表情には出ていないでしょうけど。
誰か、いえ、そこの言い寄られているあなた。教えて差し上げたらいかがかしら?
あれが神子の好みのシナリオなのかしら?
…違うのでしょうね。
精一杯善意をもって神子の味方をしてみたとしても失敗にしか見えませんわ。
彼等、凄く引いているわ。わたしでも引くと思いますわ。
同性として哀れで、悲しく、呆れ、でも同情もありますわ。
心の声が聴こえるという、マリエル達の予想を裏付ける遣り取り。
…聴こえるというならそれは何なのですの?あり得ませんわ。
どうして彼等の発する声じゃなく心の声に対してお返事していますの?
会話が嚙み合っていない事に気付きなさい。
立場を変えてみれば分かるでしょう?神子よ、怖すぎですわ。
気持ち悪いと言われて当然ですわ。
誰もが離れていくに決まっているでしょう?
気がふれたとか精神疾患だと思われるくらいならまだましなのではなくて?
憑かれたとか魔女だとか言われたら殺されるかもしれませんわよ。
マリエルに結界を張ってもらい、凡庸で且つ存在感の薄いネコとして入り込んだ神子のゲームの舞台。
学生に戻りたいのか、舞台に丁度いいのか…でもせめて大学生になさいませんこと?
いくら若く見えても多分高校生の役はキビシイと思いますの。見ているのが辛いですわ。
異性である二人ならまた違って見る事ができるのかしら。
神子が選んだ男性達。マリエルやリコルの様な誰からも魅力的に見える姿よりも、やはりどこか日本人を思わせる容姿に惹かれるのは彼女の故郷へ帰りたいという心の奥底の願いなのかもしれませんわね。
今代の神子の成した事から、元々は彼女が真っ直ぐだったのだろうと推測できる。それがこのようにおかしな事を始める事体になるなんて。
これ以上おかしくならないで欲しい。
今なら同情という感情がある。
でも、もし、何年も続けばわたし達は見放してしまうかもしれない。
どうか気付いて。
今のあなたはあなたも周りも不幸だと。
凄く言いたい。
「にゃあ~~~~~~!」
『可愛い制服が台無しですわ、オバサン!』
「あら、可愛いネコちゃん。どこから入ったの?お姉さんがご飯あげるわよ」
ああ、鳴いたのは失敗でしたわ。わたしとしたことが。
せっかく、この姿なら心の声が届かないと知れて幸運でしたのに。
なんという事でしょう。マリエルにお願いした意味がなくなってしまいましたわ。本当にわたしとしたことが。
…今は逃げますわ。急げ、ですわ。
大慌てで部屋に戻り姿を戻す。それでやっと気を抜くことができた。
わたしは何をしているのかしら。神子のゲームは確かに笑劇、いえ、衝撃でしたわ。新手のホラーゲームと言ってもいいかもしれませんわ。知っていても怖いんですもの。知らない参加者は怯えて過ごすのでしょうね。
でも、わたしの心が不安定なのはリコルのせい。
リコルの反応。自覚があるのかしら。
考えると胸が痛む。
「わたしは傷ついているのね」
言葉を発してしまったら憶測が現実味を帯びる。そしてまた勝手に傷つく。
リコルに確かめてみればいい。
もし肯定されたって、時間はそれなりに掛かると思うけど元の仲間の関係に戻せると思う。
「でも」
リコルが自覚してしまったらリコルとマリエルの関係は冷えてしまうだろう。そうなればわたし達はバラバラになってしまう。
わたしの事を一番好きなのではないの?
信じたいけど、カミーユに切られたのはわたしも一緒。わたしが居るんだからそこまで落ち込まなくてもって思うわたしが薄情なのかしら。
わたしは、カミーユの弱さとわたし達の甘えとそれからくる無神経さがこのような結果を招いたのだと答えに割とすぐに至った。
そうであればわたしができる事なんて反省の後はやるべき事を成すだけでしょう?
わたしはそう気持ちを切り替えた。
カミーユの記憶が戻った時に謝る。同じ過ちを犯さない様に気を付ける。その為にわたし達は成長しなければならない。思い出してもらった時に前に立てない恥ずかしいジルでなんかありたくない。
わたしはわたしらしく在る。
それがジルであり、ウララであると思いますの。
だけどリコルの気持ちって。
リコルは本当はわたしじゃなくてカミーユがいいのかしら。
そんな風に考えたくない。
あんなに熱く激しく愛し合うのにそれが幻だったかもなんて考えたくない。
でもそのような疑いを持たせる態度のリコル。
気のせいだと思いたい。
なのに拭えない。
わたし一人なら弱った心がそう思わせただけだと振り払うことができる。
拭うことも払うこともできないのはマリエルまでがリコルを警戒し疑っているから。
こんな時ほど信じるべきなのに。どうして揺れて不安になってしまうのだろう。
わたしは今まで通りにリコルの愛情を信じ続ける事ができるのかしら?
「わたしはこんなに弱かったかしら?」
そういう所もある。否定はしない。実際今こんな有り様なのだから。
「でも、わたしはそれだけじゃありませんわ。わたしは誰の後ろも歩きたくありませんわ。時にはそうなる事があったとしても、わたしは並んで進むのですわ」
シャワー室へ足を向ける。
「今必要なのはきっと時間」
聖水シャワーのザァーっという音がわたしのぐずぐずを流していく。
「仕事に戻りましょうか。…マリエルに叱られますわね」
再び結界の処置を求めマリエルの所へ跳んだ。
今はゲームの流れを掴み見守る為に。
◇◆◇
ボクは後を追う。
乙女ゲームの選抜から漏れた多分幸運な人達。どこへ連れていかれるのだろう。
解散かと思ったらそうではなかったのだ。
連れられる人達にも戸惑いが見える。
マリエルの結界の効果で彼等の目に触れることは無い。
視覚強化で視る。相変わらずこの世界の人間は守護霊の目覚めが悪い上に何体か憑けている人ばかりだ。あのくらいならボクだって浄化できる。わざわざやってあげないけど。だってあれくらいなら本人次第で自力でできるのだから。
とはいえ、やっぱり神子は神子なんだと思った。
神子の力を得るにはそれなりの魂が必要だったということなのだろう。
カミーユ程ではないにしても、多くの経験を重ねた魂がこの世界に奪われ利用されたということだ。
一体幾つ召喚の陣があるのだろう。
できるだけ多くのではなく、ボクは全ての陣とそれについての知識を消してしまいたい。たった一国だけ見ただけでそう思わされるには十分だった。
本人には言えないが、両親のようであり兄姉の様な二人のうちの一人に拒まれた事は、ボクを酷く焦らせ不安にさせた。悲しくて寂しくて二人の愛と懐の大きさに気付き驚いた。
当たり前に与えられていたものの大きさに驚いた。
ボクがこんなに寄りかかるほど甘えていたことに驚いた。
ボクの愛するジルがボクより成熟していることに驚いた。
父の様に兄の様に思っているマリエルがボクを対オトコと認識したことに驚いた。
この驚きはきっとボクを成長させる。
ボクだって大事な物全て守ってみせる。
大分下に見ていた五家も本当は下になんか見ちゃいけなかったのかもしれない。あの頃のボクはきっと成長の機会を幾つも見逃してしまったのだろう。
でも、あの頃だってその時の精一杯だったと思う。
そんな事を考えながらボクは彼等の後をつけた。




