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73 揺れる

私達は頭を悩ませている。…違うかな。私だけかな。あ、悩ませているはちょっと違うかな?


「でも~、だって~」

「ごねたって可愛くありませんとは言いません、が。聞けません」

「どうしても?」


悩んでいるのは私だけか。…自分の希望を通すために。

いや、この状態がマリエルを悩ませている事は否定できない。私が引けばいいんだけどね。すっごく分かるんだけどさぁ…、さぁ、さぁ、さぁ~~~~~!


「だって、乙女心が疼くじゃない!」


ぎゅっと握った手で私の疼き具合を強調する。


「賛成できません」

「ヒロインは神子でいいとして、多分悪役は足りているから、安心安全の情報提供親友ポジションでしょう?」

「駄目です」


もうっ、分かってよっ。


「でも、マリエルは絶対参加しちゃダメなの!本気で惚れられちゃう!!」


誰であろうとマリエルに色目を使うなんて我慢できない、と思うの。


「姿は誤魔化しますよ、勿論」

「私だけでいいじゃない!!女はいつだって女優なのよ!っていうか、中身もいい男だと自覚して!!!」

「とても嬉しいです。それと、存じ上げていますよ、女優は男優ではありませんから」


う~、惚れた方が負けなのよね。


「私だってリアル乙女ゲームやろうなんてばかばかしいと思うけど、中心じゃないなら何て面白そうって思うのも仕方ないと思うの」

「俺は乙女じゃないのでその辺の共感は無理です。そもそもカミーユみたいな魅力的な女性が参加したら全ての男が虜になってしまうでしょう?」


…その褒め方って、ヤキモチでいいんだよね?え、もしかして、ただ単純に計画が破綻するとかそんな理由じゃないよね?マリエルならありそう。


「俺は確かに言いました。神子については調べるあてがあると。

そして調べた結果、その者達がそのまま潜入し見張ってくれるのが最良だと判断しました。その者達なら安全に過ごせるからです。だからといって、それがカミーユにも適応するかといえばそんなことはないのです。

しかも何ですか。カミーユのしたい事はそんな事なんですか?男だらけの所でチヤホヤして欲しいのですか?俺だけでは足りないというのですか?足りないのは心ですか?体ですか?

そういう事ではないと言いたくなったでしょう?

考えてください。

カミーユが望んでいるのは演じることなのでしょう?

そもそも、カミーユの好きな小説と違って乙女ゲームの原作が分からないのです。答えなんてないのです。しかも神子本人がヒロインでありながらサポートキャラだってこなせるでしょう?だって、そういう神子の力があるのだから。

おそらくその力が目覚めたからこそ乙女ゲームなんていう発想が生まれたんだと考えられます。

カミーユの参加したいはただの好奇心と野次馬。きっと、カミーユにそんなつもりがなくてもヒロイン役を奪い取ることになってしまうか悪役の位置になってしまうでしょう」


なんで決めつけるかなぁ。けど絶対そうならないと言い切れる根拠もないのよね。


「そんな顔をしても俺の考えは変わりません。いいですか?むしろカミーユは自分の心の声だって聴かれてしまうことの危なさを理解しているのですか?」

「あ」

「おい…失礼」


そうだった。私の声が駄々洩れたら私自身もまた危険なんだ。神子が敵対する可能性だって出てくる。

聴かれちゃったら私ってすっごい怪しい人物になっちゃう。それは困る。

じゃあ、マリエルの知り合いは大丈夫なの?そんな心配の声はギロリと力強く睨まれたことで散る。私はあっさりと降参と反省を表す。


「ごめんなさい。浅はかでした」


ねえ?知り合いは本当に大丈夫なの?

その心配が表情に表れているのだろう。大きく吐き出された息のあとに答えが返ってきた。


「心配無用です。彼ら自身は、自身の自己防衛その他の能力については最強ですから。俺とカミーユは他者へ向ける力については誰も敵わない位最強でしょう?その差です。全く心配いりません。彼等だからこそ、その環境でも生きていけるということです。むしろ無駄な声が聴こえない存在だと認識されてしまえば手元から放してもらえない可能性があるくらいです。だから彼らは逆に不自然じゃない程度には心の声を演じて漏らさなければならないのです。

その難易度が理解できますか?」

「ハイ」


私には無理ゲーですね。日常を無感動に無心で過ごすとかも絶対無理だし。


「でも!じゃあ、マリエルも行くのめてくれる?お芝居でも他の女の人を誑し込むかもなんて、今ちょっと想像するだけで鼻血、じゃなくて台風を呼んじゃいそうなんだけど!!」

「ええ、では止めます」

「良かった、ふふ」


マリエルが私から目を逸らし鼻と口を手で隠したのが見えた。隠すその仕草が可愛い。

やだ。なんか、すっごいトキメク。キュンキュンしちゃう。


「俺はカミーユが参加するなんて言うから居てもたってもいられなく…」


その嬉しくさせる声と仕草に心の中で歓喜の悲鳴を上げた。




◇◆◇


「カミーユはどうしてる?」


僕は寂しさを隠さずマリエルに尋ねた。


「元気にしていますよ」

「そう、良かった」


ジルが近くに居る。僕は一人じゃない。なのに、なんでこんなに足りないんだろう。

欠けた、と感じる。ジルもこんな想いを抱えているのだろうか。


「リコル」


少しだけ冷えた声に意識をそちらへ向けなおす。


「あ、ごめん」

「自覚無しですか」


緩く振られた首にどういう意味があるのだろう。


「わたしだけじゃ駄目なのかな。考えを聞かせて欲しいですわ」

「今ですか?」


ジルとマリエルは何について話しているのだろう。僕を仲間外れにしないで欲しい。


「僕は四人に戻りたいよ」

「わたしもそう思いますわ」


ジルが迷子の子供の様な顔で答えている。


「リコル、自分がどんな顔して言っているか分かるのですか?」


分かんないと首を横に振る。


「迷子の子供の様ですよ」

「それはジルだよ」

「そうですね。でも、リコルもそうなのですよ」

「そっか」


ジルは僕を映すのだろうか。双子じゃないのにいつだって誰よりも通じる。違う魂なのに自分の様。そう思っていたのにそうではなかったと気づかされ苛立ったカミーユとの別れの日。でもやっぱり、僕の片割れはジルなんだ。そう思う。

なのに、カミーユからの拒絶は欠けたと思わせる。

ジルが側に居るなら欠けてなんかいるはずないのに。


「で、どうだったのですか?」


あ、そうだった。その後の経過を伝えなくちゃ。そういう集まりだった。

神子のリアル乙女ゲームとやらの状況を伝えていく。

僕とジルはネコと子供の姿でそこに紛れ込んでいる。それが最も安全そうだからだ。

でも、時として青年の姿で誘導しなければならないだろう。

神子とは直接関わらない。

痕跡は残さない様に注意を払う。


「カミーユが…」


ん?


「予想できますわ。加わりたいのでしょう?」


は?何で。何でなんて思うまでもない。カミーユの好奇心が疼く案件だもんな。

マリエルが重い息を吐いた。


「元々アニメ好きなわけですが」


だな。


「一番はアニメ歌手。勿論、アニメに係わる事はそれだけじゃなく、アニメーターや声優にも興味と憧れがあり」


だろうな。


「声優…は俳優」


知ってる。


「アニメがない、でも演じてみたい。俺のお勧めは劇団の立ち上げだったのですが」


あ、これは。


「そこに舞台があるならば、それがゲームという馴染みのある演目ならば参加したいと」

「らしいな」

「ですわね」

「「けど、認めない」」


僕とマリエルの声が揃った。


「となりますわね」


三人で顔を合わせて笑いが起こる。

楽しい。やっぱ、こういうのがいい。

カミーユ、早く僕達を思い出して。


「あ~、腹痛い。久しぶりに大笑いした」

「ふふふ、なんだかんだで分かりやすいですわ」

「楽しそうな所なんですが、カミーユがあなた達の事を心配しています。無用だとは言ったのですが心配し続けるでしょう」


もしかして?僕は期待を込めてマリエルを見る。


「残念ですが思い出したわけではありません」

「そう」


期待の分だけ気持ちが沈む。


「そう遠からずカミーユと顔合わせしなくてはならないでしょう。そのつもりでいてください」

「思い出してくれるかしら」

「思い出してくれた時、僕達の事嫌いになってないといいな」


これが一番の不安。

切り離されたんだもの。きっと凄く怒っている。僕達に失望したのかもしれない。すごく悲しんでしまったのかもしれない。

もう、ジルもリコルも要らないって言われるかもしれない。顔を見たくないって思っているかもしれない。

でも、無かった存在にされている今はもっと辛い。

僕達よりカミーユはもっと辛いのかもしれないけど、思い出したらもっともっと辛い思いをさせるのかもしれないけど、でも早く思い出して欲しい。


「演劇もいいけど、僕はやっぱり四人で青雲の志をしたいよ」

「わたしもですわ」


ジルを抱き寄せる。

あまり口に出さないけど、ジルも不安と戦っているのだと思う。

少し震えるジルを抱きしめる手に力を込めた。



いつもお読み下さりありがとうございます。

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