69 その頃
主に私のせいで倒れる人が続出し、最後だからとトリプルアンコールまで応えた後、控室に戻った。
「お疲れ様でした。カミーユ、分かっているとは思いますが後でお仕置きですからね」
「は~い」
「素直ですわ」
「だね」
自業自得ですからね。覚悟の上の大サービスだったわけだし。ノリと勢いだけでやっちゃうわけないじゃん!
万が一の為にエリカさんていう頼りになる人に後始末の依頼も出してあるわけだし。予定よりはじけちゃったから、少しだけ事が大きくなってしまったけど、それでも想定内!
マリエルのお仕置きも…きっと最終的には心も体も温かくぐったりさせられるものになるんだろうなぁ。お仕置きなんだかご褒美なんだか。
「にやけていますわ」
「変態になってるぅ~~」
「マリエルのお仕置きなんて、所詮マリエルの愛の暴走の受け口にさせることですものね」
「だってマリエルとカミーユだもん。効果があるならいいんじゃないの?」
あれ?私とマリエルの評価が下がっているような。
「まあ、それはもういいでしょう。では、この後はスタッフに挨拶して機材の撤収作業、それからここに引き継ぐ書類関係が入っていますからそれを商工会ギルドへ運んで、依頼達成と追加の承認…を目立たないように。ああ、後を付けてきたり足止めしようとする人達の目には十分気を付けて下さいね。では、参りましょう」
スタッフと商工会の面々との別れは全く後ろ髪引かれることなく、あっさり滞りなく終わらせることができた。もしかしたらそう思っているのは私達側だけで相手はそのようには思っていないかもしれないが。
最後だというのに打ち上げに参加することも記者達に応えることもなかったわけだし。
突っ込まれて聞かれたって、そんなに答えられる事も多くもないし。
ということで、とっとと終わらせて部屋に戻った。
「さて、向かう前に会議と言いたいところですが、馬鹿みたいに急ぐ必要もありませんのでゆっくり休みましょう」
「賛成!」
でも、その前に。
「みんな!楽しかった!!ありがとうっ、お疲れ様っ!」
「あら?カミーユはもう歌手活動いたしませんの?」
「う~ん、わかんない。したい気持ちもあるし、他に何か興味が出たらそっちにいくかもだし。っていうか、今はみんなが私に応えてお疲れ様でしたっていうところでしょう?」
「うん、かもね~」
「なんだかカミーユがカミーユより心結に寄った気がしますわ。だからどういというわけじゃないのですけど」
「あ~、それなんかわかるかも。多分、力を使う時はカミーユっぽくなってるんじゃない?今なんて一仕事終えた後じゃん。だから、心結が出ているんじゃない?」
それってどうなのかな。マリエルは心結の私よりカミーユがいい?
ひと仕事終えた安心からできた隙間に小さな不安が湧き上がる。
同じ人間なんだけどやっぱり違う?
今の心結はマリエルの好きな今のカミーユとは別人に映る?
あの世に居た頃のカミーユとは違うけど、今のカミーユの事もマリエルは愛してくれている。マリエルからの深い愛情はいつだって私に届いている。
それでも湧き上がってしまったしまった不安。
カミーユじゃなくちゃ価値は無い?
心結のままじゃ駄目?
只の人じゃ神々しいマリエルとは並べない?
でも、ジルとリコルにとっては私はカミーユと心結の二人に見えているってことで、まだ私という一人の人とは認めてもらえていないんだね。
二人にとっては神々しいカミーユと人間の心結で、交じり合って新しく現在を生きる私は無い人格なんだね。
心の底から仲間って思えるのが青雲の志の四人の関係だって思っていたのに。
もう、私がカミーユでもあり心結あることは別ではない。私自身はそのように思っている。どちらも間違いなく自分だし、「心結」という名前を使うことに拘ったことも消化出来ていて何の不安もないはずだった。
そう思っていたのは自分だけだった?
「カミーユ、俺にはカミーユと心結の明確な差なんてわかりませんよ。どちらもカミーユっぽいし心結っぽいです。まぁ、同じ人なんだから当たり前ですけどね。ふふ」
「だよね。私、カミーユだし心結だよね」
「ええ」
泣きそうな作り笑いしか出来ていない。マリエルにはそんな顔を作って見せなくてもいいんだった。
それを思い出し心が凪いでいく。
マリエルとだけ温かさを共有出来ていた。
私の部屋に変化が起きる。
スッと頭と心の中の一部が冷えるのを感じながら私はマリエルの胸に飛び込んでその変化を見ないふりをした。
肌を寄せ合う。唇を重ねる。一緒にお風呂に入る。二人だけで料理をし食す。
久しぶりにマリエルと二人だけの時間を楽しむ。
その時間はまるで、召喚された頃のようである。
再びマリエルと心も体繋ぐことが叶った時のような安らかで幸せな気持ち。
ずっと一緒。
ずっと永遠に。
そう、ずっとずっと。
私は一日だけの休暇のはずの時間をマリエルと気が済むまで過ごした。
私の世界はまたマリエルと二人だけになった。
◇◆◇
何が起きた?
カミーユの部屋に居たはずだった。
いや、正確には今だってカミーユの部屋に居る。
動転している僕とは違いジルは逸早く現状確認を終えていた。
一体どれだけの時間が過ぎたのだろう。
「リコル、わたし達、カミーユから切り離されましたわ」
何それ。
「カミーユの部屋…には違いないけど…でも、カミーユの居る所へ移動できませんわ」
だから何なんだよ。
「…念話も届きませんわ。拒否されているのでしょうね」
おかしいだろ。
「でも、わたし達別に部屋に閉じ込められているわけではないようですわ」
カミーユの部屋の権限は勿論カミーユで。
「部屋の使用が不可になっているわけでもないですし」
ねえジル。僕はそんな事を聞きたいんじゃないんだよ。
「入口も開け閉め可能ですわ」
だからそうじゃないって。
「何かあったのかしら?」
ジル馬鹿なんじゃないの?何もないわけないじゃんっ…!
「ちょっとリコル!さっきから黙って固まったままで何をしていますの!稼働してくださいな」
分かっていないのはジルだよ。
僕、思い出したよ。僕があの世でボクだった時、我が儘と甘えが過ぎて同じような事が起こったことあったよ。エンジュもユリウスもマリエルもカミーユも。みんな優しいからって、自分は幼い姿だからって、度の過ぎた態度と言葉遣い。
ねぇ、ジルは忘れたの?
ボクだって今の今まできれいさっぱり忘れていたけど、遠い昔すぎて詳細なんて覚えていないけど。けど、あの時の喪失感、悲しみ、悔しさ、怒り…今、思い出すだけで心臓がぎゅってなるよ。二人ですっごく反省して、反省の為にわざわざ地獄に何年か入ったよね。
口を開く元気が出ない。一人でプリプリとしているジルに念話でボクの考えを伝える。
「そんな…」
心細さからなのか、ボクもジルも子供の姿になっていた。
「カミーユとマリエルに会えないの?」
分かんないよ。鼻が痛い。滲んで何も見えないよ。喉だっていたいんだ。
「無視しないでよ!」
うるさい!どうしたらいいんだよ!
ボク達は感情に流され、考える事を忘れ、姿のまま相応に大泣きしていた。
翌日、抜け殻状態のボク達にマリエルから念話が届いた。
『カミーユがあなた達のことを忘れました』
えっ、嘘だろ?
驚きながらも冷静さも一時的に取り戻し状況確認をする。
『部屋の使用そのものに問題ないならしばらくこのまま別々に過ごしましょう。そう遠からず思い出しますよ』
今はその言葉を信じるしかない。
『俺は教えません。自分で気づいてしっかり反省してください』
『『うん、当たり前!絶対また四人で活動するんだから!!』』
目標が出来た。
『『ねー!!』』
マリエルの笑い声が聞こえた安心から、ボクとジルの頬を涙が伝っていた。
遅くなりました。
いつもお読み下さりありがとうございます。




