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66 分岐

諸々吹っ切った私は智胡利ちこり信心しんしんの元へ、マリエルは仁応にんおう礼梦らいむの元へ、ジルは盛義もりよしの元へ向かった。

任せて放置にしても説明もなしにいきなりではさすがに無責任だからだ。

リコルはマリエル製の地図から私が気になった場所を調べに行った。


星の広さは地球よりもずっと大きい。

その上、大陸の浮き沈みと移動が多いので大陸内での交易しかなく、知られていない場所がすごく多いようだ。

現地の地図が正確でないのも、発展具合い偏りがあるのも移動・隆起・沈没などによって過去の資料と人材の分散と喪失が起きているせいなのだろう。



◇◆◇


僕は道化を装おう!

盛義もりよしも同じ様なものだ。でも僕は彼の様に卑屈にはならない。

いや、道化を演じる僕は彼にも劣るのだろうか。


僕の女神が仁応にんおうと離れた僕に近寄ってきた。


「おお、麗しの我が女神よ!」


大げさに喜びを表し跪く。僕の演技なんて見透かされているかもしれない。けど、そうしないと僕の精神は壊れそうだ。


「力と存在を畏れる、それは仕方ない事です。しかし、その様に隠さなくてもいいんですよ」


敢えて二人だけの時に掛けられた言葉。


「…まさか本物の被虐趣味者でしたか?」

「いえっ!!」


即否定だ。

思わず上げた目線はしっかりマリエル様と絡んだ。

冷たく怖いと思ったのは自分の心の後ろ暗さ故だったと知る。

温かさと優しさが僕に伝わる。


あれ?…なんかフリじゃなくて、顔が熱くドキドキする。

この鼓動は絶対自分の心臓からだ。

マリエル様が一歩下がる。

僕が二歩前に出る。


「それ以上寄らないで下さい。話が出来ません」

「…はい」


じぶんが「しょぼん」としてしまった事に若干の驚きを感じた。


「…守護サマ…」


マリエル様が守護様を呼んでしまった。


「ああ、二人だけの時間が…」


マリエル様が親指と人差し指で眉間を挟みぐりぐりと押している。僕もそれを真似る。

マリエル様の閉じていた目の片方が開く。


「ワンコの尻尾が見えます…ああ」


軽く頭を振りながらも僕、守護様、マリエル様の三人で指導と今後についての話をした。



◇◆◇


礼梦らいむ盛義もりよしを会場警備から外して結界の任務に当たらせている。

敢えて仁応にんおうを一人にした。

礼梦らいむ盛義もりよし智胡利ちこり信心しんしんはこの任務を通して大きく成った。

彼等が目を背けて来たことに漸く向き合った。

誰もが経験することだがそれは苦しいことだ。

四人は越えたことであるが、一番若い仁応にんおうはこれから経験することになるはずだ。

今言っても理解することはできないだろう。

だがいずれその時は訪れる。

どうかその時に負けませんように、そう願いながら仁応に結界を張らせる作業を続けさせた。


◇◆◇


青雲の志が今までにしてこなかった規模のツアーを行っている。

MDの販売も順調で各会場全てでほぼ完売だ。

とても喜ばしいことのはずなのに不安が止まない。


理由は分かっている。契約の更新に来ないのだ。長期の契約を嫌がる彼等。

ただ単に契約内容変更や確認の為にそうしているのだと思っていた。

だって何年もここでそうやっているんだから。


前にも不安はあった。あれはそんなに前の話じゃない。

付いて回るには忙しすぎる。商工会だって青雲の志関係の仕事だけをしているわけではないのだから。あれほど光るものを持つ新人には出会えていないけど、付き合いが長くなるにつれてあれほどの才能を持つものが他にもいるならば育ててみたいと思ってきているのも否定できない。

段々キラくん達をちょっと苦手になってきているのも感じてきている。

キラくん、ニコくん、ウララ、そして今はミュウも。

ズレを感じるのはお互いが、なのだろう。


金のなる木である彼らの手綱をもう握れていない。

同じ様な気持ちで進めていたのはいつまでだったのだろう。

ああ、きっと叱責される。


「エリカさん、手が止まってますよ」


ミュウが名前を呼んでくれるのは私だけだったなって思い出す。


「商工会のオジサマって呼ばれるのってどんな気分なのかしら?」


呼ばれていた当人が肩を竦める。


「最初はくすぐったい感じでしたが、重なればそれは只の壁だと知る。正直言って、『エリカさん』と呼ばれていたヘイデンさんを羨ましく思っていましたよ」

「過去形ですのね」


オジサマは苦笑する。


「そりゃね。常に一歩引いて見るしかない人間からすると青雲の志との距離が丸見えで。今は外の人間と認識されていて良かったと思いますから」

「もう駄目かしら?」

「向いている方向が違う。そう感じますね」

「そっか」

「ええ」

「どうしましょう?」

「どうにもならんでしょう」


楽しかった。心震えた。魂が揺さぶられた。驚きと感動の毎日だった。ウキウキが止まなかった。

そんな日々が懐かしい。


「ここは商工会ギルドです。ヘイデンさんが間違っていたわけじゃない。みんな分かっていますよ」

「そう言ってくれるのは仲間だからかしら?」

「ええ。ここは優秀な人材の集まりです。少なくてもここの同僚は誰もヘイデンさんを責めませんよ」

「ありがとう」


目指す先が違うのならば諦めるしかない。


「まだどこかのチケット残っていたかしら?」


どこでもいいからファンの一人として赴こう。


「…出来れば辺鄙な場所じゃない所がいいんだけど」


『オジサマ』に笑われた。



◇◆◇


瞬間移動で移動できる距離をどんどん縮めていく。

カミーユが選んだ地は別の大陸だった。正直、顔が引き攣る。聖国などが在る大陸と次の大陸は離れす

ぎていて交易・国交が無いのは確認できている。星の大きさが地球よりも大きいから仕方ないと考えるべきなのか。

まぁ、それはそれで、知られていないからこその自由を得る事が出来るから新しい一歩を踏み出すには丁度いい。

…え。マリエルはもう一度渡った事があるから頼めば瞬間移動ですぐだったって?ハァ?

まぁね。様々な確認が必要デスもんね!ジルとカミーユが単身でこの海を渡ってチェックするより僕達が行う方がいいもんね。




………んだよ、ここ。



時代が変わったかもって位、違うじゃん。


あの大陸とここ、200~300年位違うんじゃね?

いや、きっとまたここも色々混ざって進んでいる所と停滞がごっちゃになっているんだろうなぁ。


…うん、異世界って感じだ。

カミーユはここでは何すんのかな。


さて、服からしてまた変わっちゃうわけだから…ちょっとネコちゃんになって偵察しましょうかね。

服に貨幣に食事に市民階級に。他にもたくさん調べなきゃだねぇ。次はマリエルと来るかなぁ。まだどうやって安全を得ればいいかもわかんないし。


カミーユが召喚されたのが、最初があの国で良かった。

あの世の力を多少でも残せて良かった。

魔法や魔力が存在する世界だったら僕達はどうなっていたか分からない。


さて、見つからない様に、目立たない様に、捕まらない様に見て回るとしよう。


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