59 流れ
アルバムの選曲を終えた私達は早速軽く歌ってみている。
今回は私がアルバム・コンサートのテーマを決めた。気持ちは「旅立ち」「お別れ」「またね」とかそういう言葉で真っ直ぐに表したいと思ったが、「新しい未来へ」という私達だけでなくみんなへの応援と感謝を込めて「fly-1」とした。あまり素直な言葉ではないが、希望やHOPE、ありがとう、などだと一区切りつけようとしているのを気取られる気がしたからだ。1とついているのは2以降を作る予定がある事を示している。
区切りを気取られる…それでも構わないのであるが…瞬間移動で簡単に戻れることを考慮すると…こうなってしまった…。
そして、いつもはマリエル主導であるのだが、とりあえずの最後に今回は私が出しゃばって気合の選曲をしてみた。──のだが。
「う~ん。やっぱり変える!ちょっと詰め込み過ぎた感じがする。思っていたのと違ったぁ」
「ですわね。想いが重くて暑苦しくて。良い曲も組み合わせ方次第でこんなになりますのね」
「僕、もう、5曲目からしんどかったよ」
「いつも俺がしている苦労を味わって頂けたようで。好きな曲だけとはいかないでしょう?」
「うん。これは曲順変えたらどうにかなるってものでもなさそうだしね」
基本、私の手持ちのCDなどから選んでいるから好きな曲が多く、傾向も偏るのは当たり前なんだけど。
なんといっても私が色々込めて歌い上げてしまうので、受け取る方も重く感じてしまいお腹いっぱい胸いっぱい状態となりしんどくなるのだ。
「やっぱりさ、何度も聴きたくなるMDに仕上げたいよね」
「省く曲はコンサートに加えたらどうかしら?」
「う~ん、どうよ?」
「私は悪くないとは思うけど、何度もコンサートに足を運んでくれる人は覚えて乗ってくれると思うけど、初めてだとそこだけ盛り下がらない?」
「乗らせると聴かせるの組み合わせに見せる。それで魅せることができるでしょう?今回は俺達の演目も増やして均衡を保ちましょう」
「今迄よりも長い時間を予定しているんでしょ?僕等のソロとデュオ増やしてミュウ以外が歌うの増やそうよ」
「コンサート限定披露って来場者にお得感が有ると思いますわ」
こんな感じで音楽の方も準備が進められていく。
気になるのはエリカさんの言っていたことだ。国や街は私達を縛る気なのか。
ぽいと放り出して出て行くのは簡単だけど、この地でアニメーションが完成しちゃったら見る為に戻ってきづらい。
五家の連中を中途半端で放り出すのも心配。…彼等自身じゃなくて、中途半端を放置したことによる新たなトラブル。また悪魔の寄り代候補にでも挙がったら力が強くなった分だけ被害が増えそうだし。
あの子達、簡単に丸め込まれそうなんだよね。
仁応くんも使えるようになったらしいけど、揉まれたらあっという間に歪んじゃうかもしれないし。若手だけじゃなくてもうちょっとだけ年長者の人が見つからないかなぁ。
ああ、そういえば礼家と義家の継承者には会ってないなぁ。
…ああぁ。…ああ。ああ。うん。
考えたせいかな。何かアンテナに引っ掛かった。
まぁ、そんなに悪い感じしないし、いいか。
どちらか、またはどちらも面倒なタイプなのかなぁ。
なる様になるか。
「ミュウ、どうしました?」
「ううん、何でもない。ただ、残りのニ家が大人でまともな人だといいなぁって考えていただけ。コンサートとは全然関係ないの」
散った気を戻す為にぺちぺちと頬を叩く。
「それってフリ?ねぇ、カミーユがそういう事いうと当たるから!」
「まともだといいなぁって事はまともじゃない人達に違いないですわ!」
「タブン、ソンナコト、ナイヨ?」
ああそうですね。こういうのフリっていうんだよね。私、自分で流れ作った?
「この話が終わったら、是非、その話について相談しましょうね?」
「…」
そそっと視線を外す。
「ね?」
イヤ、かな。覗き込まれそうなのを感じ取り反対に逸らす。
「……ね?」
席を立とうとさりげなく移動するそぶりを、上手く…上手く…いかない。甘かった。でも負けないもん。
「「…」」
音の無い攻防。旗色が悪い。でも、まだまだ。
「…」
目を見たら負けよっ!
再びそっと逸らす。その先にキラキラ笑顔のリコルとジルが居た。二人とも笑顔のまま手を振ってきた。思わずそれに私も笑顔で振り返す。
はしっ!っと後ろから掴まれた。いいや、包まれた。いや、捕獲された。
「俺を無視しておきながら二人には笑顔を向けてその様に楽しそうに遊ぶとは。妬けますね。話はどうせ聞き出すのでよいですが…これは…ふふ。お仕置きが必要ですよね。俺に嫉妬させたくて無視したのでしょう?ならば、応えて差し上げましょう!」
「えっと、程々で」
ジルとリコルがパチパチと拍手をしている。その音に紛れて…。
「よっ!さすが嫁!」
「明日はお休みですわね。勇者に拍手ですわ」
「だったら僕達も」
「…仕方ないですわね」
うわぁ~。なんかもう、色々オワッタ。そちらもオアツイですね。でもそちらは楽しそうで何より。こちらは熱源が寒気を起こさせるという、世にも奇妙な珍事が起きています。以上、こちらカミーユがお送りしましたぁ~。
「懲りずに余所見ですか?多少は大目に見ようと予定していましたが変更です。抱き潰します。覚悟できていますよね?全て受け止めて下さい」
耳元で囁かれた言葉に背中がざわっとする。でも、そう言うマリエルの顔を見たら、その艶やかさとギラつきにゾクゾクっと震えた。おなかがキュンとしてきてお互いの心臓の拍動が伝い合うのがわかる。
身体を捩って爪先立ちでマリエルの首に吸い付く。マリエルがビクっと身体を震わせた。体温が上がっていく。そのまま首筋に舌を這わせる。マリエルの身体が硬くなっていく。
薄く目を開いて見る。
ジルとリコルの姿は無かった。
「俺達も」
「ん」
合意に至ってしまえば、お仕置きもご褒美に変わる。
私達は流れに身を任せ求め合った。
◇◆◇
職業斡旋ギルドに募集が出ていた。…っていうかまず、青雲の志って何だ?コンサートツアー警備員及び誘導員の募集。拘束期間は長いようだ。?連日ではないんだな。日給か。
で?だから、青雲の志って何だ?歌手で漫画家?
歌手って?吟遊詩人か。ああん?違うって?
聖国でバカ売れしている四人組みの…音楽家?
で、漫画ってなんだ?
…絵本かよ。大人の絵本?夜中こっそり見る春画か?子供も読む?やばくないか?春画じゃない?
家を飛び出し他国をまわっていた。久しぶりに戻ってきたらどうだ!活気に溢れている。
数年前にあった大地震の被害の残りは見当たらない。隣国が震源だったというからそこまで被害はなかったのかもしれない。
でも、その隣国の復興ももの凄い行われている。王国の生き残りはかなり少なかったらしい。
しかし、まぁ。
「あ、それ受けます。お願いします」
「面接は随時ですので、今から行かれますか?」
「あ、はい」
「では、商工会ギルドにこれを渡して下さい」
封筒を預かる。
早く出ろって?
なんか分からん事だらけでどうしたらいいか。
「戻れっていうから戻ってきたけど。何があるんだよ」
オレは守護様に言われるまま、歩みを進めた。
あ、履歴書もってなかった。
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