57 放置
わたし達はそのまま済し崩しに話を進めることができず…当然ですわ…マリエルとカミーユの二人は退出し、わたしとリコルで進めることになった。
とはいっても、守護サマも居るし、何だかややこしくて面倒だわと思わないでもない。
「こういうのは本来キラの担当になるのですが、わたし達が代わって説明致しますわ」
「は、はい」
「…はい」
「ちゃんと言う事聞いてよね」
何の説明からって守護サマのことからになるかしら。それにしても、イラッとくるのは何故かしら。もうすでに放棄したい。
ああ、本当に、心底、これでもかってくらい、瞬間移動したいほど面倒臭い。慣れない事はしたくない。
リコルだって、「聞いてよね」じゃなくて、あなたが説明しなさいよと思ったりもする。
「五家の二人には、募集内容の事の他に五家としての役割も果たしていただきます。そもそも、わたし達はその尻拭いの為、が全部とは申しませんが、その為にも派遣されました」
ちゃんと聴いていますわね。…言い方に気をつけないと。どこから派遣された質問されたら困りますもの。
「あなた達の役目は、悪霊化を防ぐ。きちんと成仏させる。天国と地獄について説く、などがありますわ。あくまでこれは一部です。多くを求めたら何一つ実にならなさそうですから。申し訳ないですが、正直、あまり期待も出来ないと思われます。
しかし、勘違いしないで欲しいのはあなた達のせいではなく、守護サマの怠慢ぶりのせいですわ」
魂そのものはわたし達より格下であろうが、肉体を持っている為に引きずられてしまうわたし達より守護サマの方が諸々上のはずなのに、下っ端感が漂っているのは何故かしら?
敬われるはずの存在が謙っている。
彼等に魂が格下という自覚があるせいだけかしら?
やっぱり、特務課にも伝わっていない事情があると考えるべきなのかしら?
あの世が干渉し合わないという規約を破ってまでの派遣協力。
そもそもの根底が違う?
もしかして、今するべきことはこんな五家云々じゃなくて根底からの見直しなのかも?
「説明と指導は本来の指導者である守護サマにお任せいたしますわ。…今度こそ分かっていますわよね?
ということで、あなた達二人には漫画家のアシスタント業務の他に本来の五家の仕事にも携わっていただきます。
今までの体に触れながらと薬を使っての気の活性化もよいですが、それでは全く足りていないと理解していますわよね?」
《はい》
「宜しい。この国がそこそこ満ち足りているからこの程度ですんでいるということも理解した上で邁進なさい」
《承知しました》
ぽかんとしている二人を置き、わたし達は退出した。
「わたしも結局丸投げしてしまいましたわ」
聴こえたのはきっとリコルだけだから構うことはないだろう。ああ、本当に面倒臭い。
◇◆◇
部屋に戻った私達は…というか、ちょっと心がささくれ立ってきているかもと思った私はベッドにごろりと横になっていた。目の上に腕を置いて光を遮る。何も考えたくなくて眠る事を選択した。その行動をマリエルが咎めることはなかった。
うつらうつらとしていると、夢なのか希望なのか現実逃避なのか仲間とネコ達と事務処理に追われる私。ネコが事務処理ってなんなのよと私はその私達を見ている。…ああ、夢か。残念。色鮮やかだった世界は白と黒の古ぼけた少しピンボケした写真のように変わり、ゆっくりとこげ茶色に変化していった。
目を開ける。
眠った時に乗せていた腕は下ろされているだけじゃなく、あまり動かすこともできなかった。
温さの心地よさにすぐに再び瞼が重くなる。
ピンクがかった紫の瞳が私を見つめているのだろう。目を向けるつもりはないが熱視線で頬がちりちりする。
私のこと愛し過ぎでしょう。
そんな事を思ったら思わず口許が緩みそうになる。それを表に出さないように根性で抑えた。
抑えきれたと安心して気が緩んだのだろう。私の意識が徐々に落ちていく。
そんな中、ちょっとだけ届いてもいいかもと思考が過ぎる。
『心配かけたかな。
でも、私だけが悪いわけじゃない。
それでも謝った方が簡単に丸く収まる。
そんな上っ面だけの関係なんか望んでいない。
もう少し考えさせて。っていうか、今は頭を使いたくない。
どうやったらそのままに想いを届けることができるのだろう』
元々抗う気がなかった私の意識は、完全に眠りにのまれた。
◇◆◇
「届きましたよ」
眠ったカミーユの髪を撫でる。
勘のいい彼女のことだから、今伝えてきた事以外のことも俺に伝わったと感じ取ったのかもしれない。
次に目覚めたら全て話そう。
多分、殆んど全てが予想の範囲内で収まってしまうのだろう。最初から俺の自己満足だと分かっていたことだ。
俺はカミーユを愛している自分のことが好きだ。
リコルには酷い開き直りだと呆れられてしまったが、俺の成分の90%はカミーユへの愛でできている。
ん?幻聴だろうか。リコルの、「んなわけねーよ」という声が聴こえた気がする。
幻聴であっても、聴くならカミーユの声が良かった。
ん?また幻聴か?ジルの声で、「重症すぎて付ける薬が無いですわ」と聴こえた。
「幻聴じゃねーよ!」
「あなた達、念話の使い所がおかしいですわ!」
何故?
「寝室に入る時はノックくらいするのが…ああ、お脳が足りないんですね。残念」
大人の振りした子供とネコだった。それでは仕方ない。
「ものすごく失礼な事を考えたに違いないですわ」
「そーいう顔してる」
俺にそのような人物評価を下していたのか。…今更か。全く傷付かないって事は評価はどうでもいいということか。いいや、この場合は、どんな俺であろうとも信頼も友愛も得ている自信からくるものだな。
俺も同様にそれを二人に持っている事を疑わないからこその暴言暴挙かな。
身体に引きずられた魂のせいで酷く未熟で人間らしくなったが、そんな自分もまた自分らしい自分であると認めることに抵抗が無くなった。
「そうじゃなくて、ノックはこれでもかって程しましたわ」
「それでも眠っているカミーユにびっくりだわ」
先ほど目を開けたのはそのせいか。
「もし開けて俺達が致していたらどうするつもりだったのですか」
「うっ、なんて引きませんわよ。まだ致すには時間が早いですもの。引っ掛からないし誤魔化されませんわ」
「だとしても、べーつーに~?前にも見たし、二度も三度も同じじゃね?ぐほォ」
ジル、いい肘だ。女性の細やかさは素晴らしい。
「…致してたら、僕達も部屋に篭もって同じ事を、グホッ、オエッ、ウッ」
「破廉恥ですわ!」
ん?…ん?……んん?
「あ」
「あ」
「あ」
「…」
俺に釣られて向かう視線が増えていった。
「「「…」」」
真顔で静かに見ているだけのカミーユの冷たい空気に、場が静まる。
「目が覚めましたか?」
「うるさい」
ピシッ。
「「「…」」」
俺はそろりとベッドから下りる。と、カミーユの手が俺の腕を掴んだ。もう一方の手で空いた場所をぽんぽんと軽く叩く。再び横になりカミーユを抱き込む。
「あ~、様子見に来ただけだから。じゃ」
「ということですわ。また後で」
カミーユが片手だけ出して小さく手を振った。
目覚めたあと、四人で殆んど全てを明らかにし語った。
特に喧嘩になることもなければ、大きな驚きに包まれる事もなかった。
分かったことは、お互いを思いやる気持ちが多少空回っていたところもあったが、頭で考えを巡らす以上に想いは通じ合っていたり大まかな描く流れも方向性は一緒であることが知れたり。一心同体とまでは言わないが四人とも心が温かくなる時間であった。
カミーユには改めて宣言された。
「私達四人は仲間だけど家族だよ。其々の立ち位置は恋人になったり同僚になったり夫婦や兄弟、友人、親子だったりと色々変わると思う。でも…マリエルにとっては私、リコルにはジル、ジルにはリコル、私にはマリエルって言う風に一番は有ると思う。それは人だもん、仕方ない。けど、二番目はこの仲間の全員でしょう?家族四人で心も力も合わせて行こう?ね!」
全部を包み隠さず知り合うことを強要するわけでもないし、今も全てを話し合ったわけでもない。大事な物の一番を否定もしない。我が儘な内容なのに、きっと俺達の誰も否定は出来ない。
でも、それが俺達なのだろう。
せっかくだし、この勢いのまま行きましょう。
そして、カミーユが狂喜乱舞した漫画本の完成の日になったのだった。




