56 育成-3
久しぶりの名前だけの登場があります。
あの世特務課 課長リーヤ、マリエルにビンタしたエンジュ、その恋人ユリウス。
誰だっけと思われないように先に書きました。
さてさて。さてさて?これは何の集まりなのかしらって…きっと特務課の仕事絡みよね。
私はさ、漫画家の養成と普及をしたくてアシスタントを募集したわけなんだけど。どういうことなのかな?これは、この件については誰に問いただすべき事なのかな?
合格を伝えた人の中から私達四人と共に二人が別室に通された。そのことについて事前の説明は無くて。でも私以外は解ってるっぽくて。
本当にどういうことなんですかね。ねぇ?
わかっちゃいるんだよ。きっと何かしらのマリエルの厚意だって。
私には私のやりたい事だけをさせたいんでしょう?仕事は本当に必要な悪霊の浄化だけさせて、私の負担を減らしたいんでしょう?そんなこと分かっているもの。私が不安定になることも嫌なんでしょう?うん、マリエルのことなら誰より理解している。マリエルだって私のことを誰よりも知っている。
でもね。
こんな風にこそこそ段取り組まれて、私一人が楽しくておいしい所だけ取っちゃうみたいなのは嫌なんだよ。そりゃ、好き好んで苦労は買いたくないし、辛い思いだってしたくない。苦労は皆で分け合おうよなんてことを言いたいわけでもない。あ、マリエルのは苦楽を分かち合いたいけど。
いや、そうじゃなくて。
キレイ事も嫌いと断言できない程度には好きだけど。…正義感をぶっ放すのも自分の幼さを理解した上で夢見てる的な意味で割と好きな方だけど。
けど、この世界に来てからの私は…やりたい事もする!なんだから。それでいいって言ったの、マリエルじゃない!楽しもう、夢を叶えようって…!
それは私一人だけに当てはまることじゃないんだよ。
それじゃ寂しいよ。叶っても空しく終わっちゃうよ。
マリエルは隠しているけど、マリエルだけじゃない。ジルとリコルだって教えてくれないけど知っているんだよ。
同じ様にこの世とあの世の理を理解しているたった四人だけの仲間なんだよ。隠したって、ううん、言わない事と隠す事は結果は同じでも意味は違うね。そんなことしたって、分かっちゃうんだから。
その辺の事をマリエルはわかっているのかなぁ…。
マリエルが側に居てくれるから。したいことだらけの私を認めてくれているから。こんな弱い、弱っちい私のことを包んでくれるから。辛抱強く見守ってくれるから。
だから多少の苦行は平気なんだよ。どう見えているか知らないけど、私だって意外としっかりしているし、女だから強く強かなんだよ?
言ったことなかったかなぁ…庇護されたいわけじゃないんだって。とはいっても、私だって乙女だから、守って欲しいとか、まぁそういう風に扱ってもらえたら嬉しくないっていうのも嘘になっちゃうくらいは可愛げもあるし。
じゃなくて!いや、そうなんだけど。
私は………前にも言ったかもしれないけど、並び立てる存在がいいの。引っ張ったり引っ張られたり。盾になったりなられたりとかさ。
マリエルに全てを委ねるのは対等じゃない。私の人生の責任は私に在るんだから。
私の意思を尊重しようって思うなら、私が成長する材料を減らさないで欲しい。成長できることを疑わないで。
覚えておいて欲しいな。
私達四人、今、こうやって、肉体をもって下界にいるってことは、界が違っても等しく修業の場が与えられていて、成長を望み望まれているということを。
私の心中の長い独り言。
そろそろ胸に仕舞っておくには、重くなってきたよ。
この気持ち、三人が不快にならないように伝えたい。
どうやったら、正しく届くかな。
◇◆◇
この場はカミーユの独壇場となっている。
俺は悔しさで涙が出そうだ。でも、今この場じゃ絶対にこぼさない。
俺が弱さを見せてもいいのはカミーユと二人きりの時だけと決めているから。それでも見せないで済むならそうしていたいが。
信心と智胡利はそれぞれオドオドと虚勢を張り切れないビクついた顔で落ち着くことなく身の置き所に困っている風だ。
まぁ、こいつらの事は、今はいい。
ああ、心が痛い。締め付けられるようだ。ミシミシと幻聴まで聞こえるような気さえしてきた。
大切にし過ぎて失敗した。
加減は覚えたと思っていたが…まだまだだったようだ。やはり心のどこかで俺無しでは生きて行けないほどに依存されることを望んでいるのだろうか。記憶を持ちながら寄り添えなかった二十数年がいかに寂しく心が凍えたかを物語っているということなのか。
次からは絶対、常に共に在る。これだけは譲れない。
俺はこんなに弱かっただろうか。俺こそがカミーユにに相応しくない男に成り下がってしまったのか。
もしそうであるならば、再び並んでみせる。
そう、直ぐにでも!!単純だと言われ様が、カミーユのことだけは俺の何にも於いて、絶対に一歩も引くことも妥協も許さない。
カミーユの心が手に取るように分かったあの世が懐かしい。甘く優しくありながらどこよりも厳しいあの世。レベルが近しいものだけが触れ合うことが出来る心穏やかな世界。
ああ、懐かしんでも始まらない。俯くな、俺。
巡る思考と並行してカミーユの念話を聴き続ける。
カミーユはいつもの様に心の中で話しているつもりなんだろう。
しかし昂った感情は気持ちが篭もり過ぎ、念話として俺達に届いていることに気付いてはいない。
そんな所はカミーユらしくて温かさと安心で精神の穏やかさを齎す部分である。
念話の独白は続く。俺達はただ聴くしかない。
耳に痛い。胸が痛い。カミーユの感情と想いが刺さる。
軽んじてきたつもりはない。それも理解しているから、カミーユはこうして胸の内を荒ぶらせているんだろう。こんな風に発現するなんて。どれだけ溜め込んでいたのだろう。
俺の考えを思い、想いを尊重し、愛情を疑わないからこそ念話として発現してしまったのだろう。
ごめん。
謝って欲しいわけじゃないのも知ってる。
許す許さないを問題にしているわけじゃないって解ってる。
羽ばたく彼女に紐を結びたいわけじゃない。
どれだけ羽ばたこうが、カミーユの中で何と比べようが俺が一番であることも疑わない。
戻る場所も立つ場所も俺のところだ。
カミーユの世界の全てを共有したい。その気持ちが強すぎて、まるで管理するかのように扱ってしまっていた?
抜け落ちた髪一本の行方すら見失いたくないんだなんて言ったらドン引きなんだろう。変態と罵られるかもしれない。……うん、これは変態だ。この発想は浸ったにしても行き過ぎた。この思考回路と発想に、自分の事ながらドン引きだ。
絶対に知られてはならない。…もしかして今更か?
間違いなく届きましたよ、カミーユ。
◇◆◇
ヤッベー感じ?
あ~…、本気でゴメンだな。
心のどこかでカミーユのこと嘗めてたんだろうなぁ。自覚が無い分だけ性質が悪い。
カミーユのあの雰囲気ってさ、凄さを忘れさせるんだよな。エンジュみたいにちょっと偉ぶるところがあればこんな態度とってこなかったのかもしれないけど。
マリエルだって、カミーユを餌にできる…えっとそうじゃなくて、行動原理の根底がカミーユへの愛情だから解り易いしさ。リーヤとユリウスの方が何だかんだで怖いんだよなぁ。
でもさ、嘗めて……嘗めて?ん?…なんか違う、か?
僕の性格からすると、嘗めていたんじゃくて「甘え」か。うわっ、そうと知れたら恥ずかしい。
なんてカッコ悪い。だから誤魔化そうとしたのか僕。
あ~あ。
エンジュにはマザコンっぽい気を持っているのは自覚していたけど、カミーユにはシスコンの気を持っているのか僕は。
こういう事を自分で認めることが出来るようになっただけ大人になったと思うことにしよう。うん。
ありゃ。マリエルの目、少~し光ってる?あっちも大分堪えているみたいだなぁ。水気こっそり飛ばしてあげたいけど出来ないし見なかった事にしといてやるか。
僕はいいけど、連れて来られたあの二人は居所ないだろうなぁ。
でも、僕、知~らない。任せた、マリエル!




