55 育成-2
◇◆◇
チェイニーと比べられるのは苦痛だった。生まれた年が一緒で性別も一緒。容姿も似ている。
なのに性格は大違い。あたしが継承者であることをチェイニーは知らない。わけわかんないそんなモンなんて要らなかった。
上げられる物なら他の人にくれてしまいたい。チェイニーは天使教なんてものを立ち上げたという。猶更彼女が継承者であればよかったのにと思う。
「興味ない」
あたしは答えた。
「あ~も~、ウルサイ」
話しかける声は止まない。
一人でも独りじゃない。でも、逆にいつでも独りだ。
温かさを感じる。孤独じゃない。見た目は一人でも、いつも寄り添ってくれている。
「芸術なんて興味ないんだってば」
もうキコエナイ。キコエナイ。キコエナイ。
……………………………………しっかり聞こえてるよ。ハイハイ。
「~~~もうっ、しつこい。わーかーりーまーしーたー。行きゃあいいんでしょ。思い通りにいかなくたって知らないからね」
面倒臭くて実家を飛び出したけど、あたしの完全な自由にはならなかった。でも、息苦しさは無くなった。
あたしなら外の世界で大きく羽ばたけるって思った。
嫌だ嫌だクソ面倒だって思っていたけど、継承者であることは「自分は特別だ」と思わせていた。無意識下で特別が当たり前として根付いていた。無自覚なまま、いつもどこか他人を見下していた。
けど、実際出てみたらそんなことはなくて。あたしも凡人だった。ありふれたものだらけのその中に紛れ込んだら見つけてもらえない…宝石でも加工前の原石でさえなかった。
何でも人より優れていると思っていた鼻っ柱は幾度もへし折られた。
あたしが住まう地域の「一番」は、街の「百番」にも成れない程度でしかなかった。実際何番かなんて知ったところで目くそ鼻くそ、五十歩百歩だ。
何でもこなせる器用さは器用貧乏といわれ、何も極める事は出来ず、どれも二~三流でしかなかった。
何でも簡単にこなすということは努力をすることを知らないともいえ…根性も足りず、何事も継続が困難で飽きっぽく、思うように行かない事にすぐに不満をおぼえ、粘り強く学び習得することが難しく。
なのに田舎の大将の自尊心だけは高く、アルバイトも泥臭い汗臭いものはあたしに相応しくないと受け付けることはなく。
客商売も向かなければ、後輩を育てることもしない。
自尊心が高いだけで結果も出せず、文句だけが出る口はあたしの仕事を奪い、自らの評判を下げ、懐を寂しくさせていくばかりだった。
自分を高く買ってくれない理由が自分に有ったと気付いたのは、残念な事にそんなに前の事じゃない。
すっかり卑屈になっていた。あたしの実力を正当に評価しない世間を憎々しくさえ思った。
何故か、いつしか声が聴こえなくなってしまった守護様の声。でも、守護様の温かさを感じる事は出来た。
そのお蔭で、それじゃいけないと心を入れ替える事が出来たがこの街ではもう、あたしを受け入れてはもらえなかった。
見下していた全てよりあたしの方が下だった。見下していた全てが、あたしを哂い見下している様に見えた。
聞く耳を持つことを忘れ、好き勝手に振舞い自滅したあたしを見捨てずにいてくれたのは、結局守護様だけだった。
心が折れ、反省することを学び、漸く自身を省みる事をできるようになった、そんな時にこの世が終わるかもって思うほどの災害が有った。
それはたった一晩で一つの国を滅ぼした。
前兆だったのか、国境付近で水害もあったらしい。あたしは自分の事だけで精一杯でその辺りの事に深く興味をもつ事はなかった。
ただ、そのお蔭で仕事を得ることができた。猫の手も借りたいほどの大混乱の中、あたしを厭う人は居らず。また、あたしも女性があまり従事しない仕事を進んで行った。
そして大金を手にしたあたしは、苦い思い出ばかりになった街を出て、再び別の大きな街へ向かった。
その街は、この国で一番の街といわれるだけあってキラキラ輝いて見えた。
あたしはまた、踏み外す。
都会の街並みはあたしを浮つかせた。
街…国一番と二番以下の差は大きい。路面には電車が走る。車専用、馬車専用道路もきちんと整備されている。糞が落ちているなんてこともない。建物もきちっと揃えられ洗練されている。
この街なら、あたしの力を発揮できる。田舎だったからあたしは受け入れてもらえなかったんだ。
ギルドで仕事を紹介してもらう。
どれもこれもつまんないものばかりだ。どこでもある仕事ばかりだ。
あたしの才能はそんなもんじゃない。小さく纏まるような女じゃない。
苦労して得たお金はみるみる減っていった。
仕方ないから、アルバイトで薬師の仕事を選ぶ。それが代々継承者の仕事の一つだから。仕事の後に使う、邪気を祓う薬が仲間内に売れた。バイトより、それの方がお金になった。作り方を教えるが同様の質を持つ物を誰も作ることが出来なかったからだ。これが継承者特典なのだろうか。
お金にはなったが地味な作業はあたしの心を満足させることはなかった。どんなに人の役に立とうとも、満たされる事はなかった。
そんな時、美男美女の四人組が世の中を賑わせていることを知った。
あたしの居場所はそこだと直感が告げる。守護様の声がまた聴こえなくなっていたことに気付いていなかった。
チケットは手に入らないからステージ外の四人を観察する。
四人の中で一人だけキラキラが足りていないように見えた。
あの場所に収まるのは本当はあたしだ!あそこはあたしの場所だ!!
そこを狙うあたしに守護様は何も言わない。つまり、認めてくれているということなんだ。
あたしは意気揚々と商工会ギルドへ足を運んだ。
門前払いこそされなかったが、バカにされたことは分かった。代わりは要らないし、あたしでは務まらないといわれた。曲珠を買って聞いたが、あたしに出来ないとは思えなかった。担当者にも歌唱して聞かせたが受け入れてもらえなかった。
納得いかなくて食い下がるあたしをリハーサルをしているという会場に案内してくれた。
なんだ、やっぱり、才能を買ってくれて代わりに歌わせてくれるんだ、そう思った。
会場では、キラキラが足りないと思っていた女が歌っていたが、放つ光は誰よりも強かった。ステージの外に居る時とは別人のように輝いていた。その光に当てられたあたしは負けたと思った。と同時に吐き気に襲われる。お手洗いでは、謎の物体が吐き出された。
そして、守護様の声が聞こえ、懐かしさと安堵、それに加えまたやらかした恥ずかしさと悔しさで涙が止まらなくなった。
世の中何がどうなっていいるのやら。
興味の無い事への面接。目の前にいるのはあたしに敗北感と劣等感を植え付けた青雲の志がいる。
守護様にいわれたから来たけど、受かるわけないじゃん。
…と思っていたのに、予想を裏切って、別室に案内された。数人が漫画とやらを読んでいる。
「あ、よかったらあなたもどうぞ?」
「ああ、うん」
「この目が大きくてキラキラしてる感じも慣れると魅力的ですよね。読み方わからなければお教えしましょうか?」
「いい」
「僕も描けるようになりたいなぁ。実家が医療系に従事していて僕が跡取りなんですけど、熱意を持って取り組めなくて…」
「ふう~ん」
なんか話しかけてきてちょっとうざいとも言えなくないけど、人が好さそうだ。
《シン家か?》
「「えっ」」
《チ家か》
《他家との交流は久しぶりだ》
《互いにな》
「「え~~~~~~~!!!!!」」
思わず顔を見合わせ叫ぶ。
その声を他の人達に注意された。
「声がする。な、何なの?」
「は?」
何言ってんだコイツ。コイツ、シン家の後継者なんだろ?聞こえて当然じゃないか。
まさか、シン家の守護様って…何も教えてないのか?なんか、すっげー面倒な事に巻き込まれかけてる?
あたしはソイツから離れ、漫画とやらを読む振りを始めた。
◇◆◇
面白すぎですわ。何ですの、これ。とはいっても、全く笑えないのですけど。
こういうのを茶番っていうのではないのかしら?
キラが念話を開通しているけど、カミーユには通していない。
そして、守護サマと話している。
わたしとリコルは変な汗が出るのを根性で止めている。だってこの状況でわたし達がおかしかったらカミーユが不審に思うもの。
何なのかしら?
リコルは何か知っているのね、多分。
内緒だらけで進めているからわたしが知らないことがあってもいいんだけどね。逆に、わたしが知っていいてリコルが知らないこともあるんだろうし。
シン家が信心。ふ~ん。ショボイですわ。この感想は失礼すぎるかしら。
チ家が智胡利。へぇ。チェイニーと近い親戚なのかしら?姉妹?似ていますわ。
『深くは聞きませんが。あなた達、仕事の手、随分抜いているようですね』
《そのようなことは》
『せめて、五家とやらで協力くらいはしていてもよさそうなものですが?』
《他家は力を落としておるもので》
『降ろす人選がどうかと思いますけど?』
わたし達に応援を求めた事自体が手抜きを証明していると思うのですけど。これで指導の立場とは、格が低すぎですわ。
異世界の上の人達って危機感を持って本気で取り組んでいるのかしら?疑問ですわ。
それにしても人選がお粗末すぎですし。そんなに有力な者がいないのかしら。
まさか、皆が皆、堕天して人材不足とかじゃないでしょうね。
…まさか、ね。
嫌な予感がしてきましたわ。
救いは、わたしの勘がカミーユみたいに鋭くない事ですわね。
『ジルのそれは憶測でしょ。推測する要素も足りないし置いといていいんじゃないの?』
『そうですわね…って考えを読まないでくださる?リコルが急に入ってきて吃驚ですわ』
『ちゃちゃっと終わらせたいねぇ』
『ですわね』
わたしはこっそりでもいいから吐きたかった溜息をおさえた。




