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53 楽しいということ

コツコツと机を叩く。突っ伏す。がばっと起き上がる。


「ぐあ~~~」


頭をわしゃわしゃとかき回す。髪が乱れて少しへこむ。唸り声が耳に入るが、それは私の口から出ているものだったらしい。


「あ~~~~~、もうっ!!!」


用紙がくしゃくしゃにならないように消しゴムを丁寧にかける。……消しゴムが割れた。


「チィッ…」


カリカリカリ……ポキ。

鉛筆の芯が折れた。折れた芯をはらうと紙に凹みができている。はらった芯が薄く太い線を作っていた。


「チッ!」


カリカリカリカリ…クシャ。用紙にシワが入る。


「あ~~~~もうっ!!!!」


懲りずにまたかき回してしまい…私の長い髪は、もう自力で梳かし直せる気がしない。今の地毛、以前と違って真っ直ぐじゃなくてウェーブヘアだしね。いや、でも、手触りや櫛通りはいいんですよ。いや、ホントに。


「アホが居ますわ」

「笑いたいけど、哀れすぎて笑えないね」

「俺も流石に・・・」

「マリエルが…!マリエルがカミーユに呆れましたわ」

「やめときゃいいのに」

「…まぁ、これで気が済んだでしょう」


ああっ、もう!誰よ!肩慣らしと練習にオリジナルを一作描くって言ったの!…私だけど。

私、オリジナル、駄目だったって言ったじゃん。何で誰も止めなかったかなぁ。

いや、止められたよ。でもさぁ、世界と自分の能力が変わったらいけちゃうかな、とか思うじゃん。今の自分ならできちゃうかもとか思うじゃん。そう思ったら、つい、やれるっていう考えに辿り着いちゃうのも人として否定できない姿であると思うんだよね!勢いもあったしさ。


「うーわ。カミーユの目が泳ぎまくってるよ」


う~。


「聞いたらわたし達が鼻で笑いそうなことを言い訳にでも考えているに違いないですわ」


思わずジルを見てしまう。私の気持ちなんてまるっとクリアに見えているんでしょうね!


「カミーユ、もう練習はいいでしょう。それでは一作目についてですが」

「マリエルが流しましたわ」

「マリエルが鬼だ」

「カミーユ?さぁ、始めますよ。今回は…。カミーユ?」


ああ、私、やっぱり才能無いんだ。漫画家は無理なんだ。しょぼ~ん。でもさ、アニメへの足掛かりになるよね?そう、信じたい。私、漫画だって大好きだもん。


「カミーユ?聞きなさい」


絵を描くのが好きなだけじゃ駄目だよね。ちょっと絵が上手いからっていい気になっていた。

そりゃね、やる気と才能が比例するわけじゃないのなんて知っているさ。二次創作妄想世界に浸る楽しさと生みの苦しみを乗り越えての達成感とが違うのだってわかっているもん。…イイ歳して、もんとか言ってる私って。


「おい、コラ」


くすん。現実って厳しい。歌手活動が上手くいっていたものだから驕っていたのね。


「聞けや、おら」


なんか、寒くなってきた…気が…する…ん、だ、け、ど?ど?ど?


「うぎゃ~~~~~~!!!!!!!!!」


マリエルの目が力強すぎる。なんか部屋が凍っている様に見えるんだけど、あれ?氷柱ができている!!目をこする。ん?さすがに幻覚だったか。それにしても。


「寒っ」

「寒っ」

「「お風呂に入ってくるの~」」


久しぶりに見る小さなジルとリコルがとととととと、とテーブルの向こうを走って…逃げた。

冷気も品の無い言葉遣いもマリエルからだ。


「空耳だったらよかったな」


凄く小さな声で言った言葉は、たがわずに彼の耳に入ったようだ。


「聞こえるように言ったのですから、空耳ではなく、意味を理解して聞いて貰えてよかったです」

「ソウデスカ」

「そうですよ」


…で?このなんとも…あ~、うん。


「あの、えっと。え~、本日はお日柄もよく?」


笑顔が黒光りしている。Gですな。うん。キラキラ、キラくんのキラリはGの光!その光の裏は腹黒!H・A・R・A・G・U・R・O、ジー!!クレイジー!ファンタジー!意外とO・YA・ジー!!

心の中で誤魔化し茶化すのも限界、でーすーよーねー。


マリエルの頬がヒクッってした。


「何ですか?それ」

「どれ?」

「俺の口からは恥ずかしすぎて言えません。どのような脳みそを持つとそのような発言ができるのでしょうか」


そっと目を逸らす。おかしい。念話が開通していたようだ。


「発言してないもん」

「揚足をとらない」

「うっ」


心の中で言った事まで聞いちゃうマリエルが悪いんだもん。


「さて、悪ふざけもここまでにして」


ハイ。


「カミーユ、ある程度気は済みましたか?」

「うん」


やってみて足りない事だらけだとわかりました。


「では。まず、デッサンから練習です。線も真っ直ぐ描けるように。真円もですね」

「頑張ります」

「勿論、歌手活動は少し控えますが、歌の練習もおろそかにしてはいけませんよ」

「心得ています」

「アニメは無理でも漫画を浸透させて、そのテーマソングという形で行きましょう」

「えっと、それなら、MDにテーマソングを使用。何のテーマか分かる様に第1巻とくっつけて販売でいいんじゃないかな」

「そうしましょう」

「うん!」


よっしゃ~!やる気が上がってきた。歌手兼漫画家。やってやるわ!!



◇◆◇


やる事が多い。とはいっても、あの世で仕事をしていた頃に比べれば随分少ない。しかし、肉体があることによって休息が必要になるし、食物の摂取もしなければならない。作る事も食べる事も、入浴も睡眠も、カミーユと共に出来るというだけで更に楽しさを増す。


地球よりも緩やかに過ごせるこちらの世界。寿命の長さは、地球と同じペースで活動すると「生き急いでいる」という評価を受けてしまうほど緩やか。

慣れてしまった今、多くの時間を任務ではなく日常へ割きたい。いや、もうそうしている。あの世の仲間達に見らたら、彼等には笑われてしまうだろうか。それとも、ゆとりある生活を羨んでくるだろうか。多分、どっちもだろう。


此処に来て、本当にカミーユが面白い。

今回だってそうだ。そこまでアニメにこだわり、アニメを漫画化しようとする。俺なら漫画原作のアニメをコピーして製本して販売する。・・・・・・まさか気付いていないだけ?

カミーユならあるかもしれない。


しかし、彼女自身、己の画力も上げたいんだろう。そして、夢の一つに挑戦してみたかったのだろう。

やってみたいことが多いというのは羨ましくもある。でも、何に挑戦しようともカミーユの笑顔と彼女自身を得、側に在る事ができなければ決して満たされないことも知っている。


ああ、本当に毎日が楽しくてたまらない。

もしかしたら、四人のうちの誰よりも俺が異世界での生活を楽しんでいるのかもしれない。



◇◆◇


「ねーえー」

「なに?」


わたしは行儀悪く浴槽の縁に手を置き小さな子のように足をバシャバシャとさせている。

お互いいつもより高い声を出している。こんな風に小さな姿で一緒にお風呂に入るのは、異世界に来てから初めてかもしれない。

久しぶりすぎて、新鮮だ。


「長く雲隠れする機会があったら、あの二人の子供っていう設定もいいんじゃないかと思うの」

「思うの?」

「うん」

「どうして?」

「自由で我が儘もいいと思うの!」

「いいと思うの!」

「「いい!!」」

「「いいよね」」


なんて言っていたら。言っていたはずなのに、一人、リコルが青年の姿になった。


「どうしたの?」


キラリと光る瞳が幼女を見る光り方じゃない。バシャバシャをやめてリコルの方に体の向きを変える。


「僕は大人の姿でも、たまには自由で我が儘でもいいと思うよ」

「そろそろあがるの」


何かドキドキする。変なドキドキ。リコルが長い足を数歩進めるだけであっという間に囲われ、後ろから抱きすくめられた。


「ドキドキするの」

「へぇ~」


子供のぷにぷにの肌と大人の男の人っていう硬さの違いを感じる。リコルの余裕の有り方にときめきと緊張の両方のドキドキがやまない。


「幼女に対する愛で方を間違うと犯罪なの」

「そう」


うう~、全然堪えてないの。

リコルの手が妖しく動く。小さな体でも、それに反応してしまう。


「か~わいい」


悪魔の声ですの。悪魔の誘惑、めっ!ですの。

いやいやをしても小さな体では逃れる事ができずに…されるがまま…の結果、ぐったりとリコルの胸に、腕にもたれ掛かってしまう。


「ここから先は、大人になってね」


そう言われて初めて大人の姿になればかわせた事に気付く。


「迂闊でしたわ」


小さな体から大人で居る時の言葉を出す。


「続きはベッドでしてくださる?」


そう尋ねると再び妖しく微笑まれ、小さなわたしはバスタオルにくるまれていた。






「やっばい。癖になりそう」


その言葉は聞こえなかったことにしてさしあげますわ。


 

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