52 微々
ご無沙汰してました。
私だけが気付いている事なのかもしれない。彼等のマネジメントをしているから、最も彼等の側に居るからほんの僅かな変化の積み重ねに気がつくのだろう。いや、近すぎるからこそ気付かない事も多々あることを考えれば、これはやっぱり私の誇れることだと考えていいのだと思う。
正直にいって、今、とてもノっている。乗り続けている。
青雲の志の担当に就いてから、最初の頃は色々あった。それが色事や犯罪ではなかったから良かったものの、貴族や宗教とコトを…なんてなるかと焦らされたりもしたが、キラくんが上手くさばいてくれて事なきを得ている。国はどう考えているか分からないが、街は彼等がこの街を拠点に活動してくれていることによって恩恵を得ているので街を挙げて応援している。
また、その様子は今や他の歌手にもやる気を起こさせた。勿論、彼らの様になることを夢見て、だ。
キラくんの持ち込んだ楽器は国内では生産されていない為、輸入量が増えた。と同時に、外国の職人や技術者も流れてきた。
曲珠も彼等がカセットだ、CDだ、LPだなどなど彼等は適当な名前で呼んでいたが、どうしてそうなったのか「MD」に落ち着いた。そして、彼等がそう呼ぶことによって商工会ギルド、ファン、製作者達の間で定着し、曲珠イコールMDは定着したように思う。
こんなに影響力のある青雲の志だが、彼等の志気がミュウの気持ちひとつに掛かっていることに気が付いた時は震えた。
彼女の才能には驚くばかりである。あれで以前は髪結いをしていたというのだから人生何があるかは分からないものだ。
そのミュウが少しずつ、ほんの少しずつではあるが、音楽から心が離れているような気がする。
雲隠れする事もないし、音信不通になるわけでもない。したいことがあれば私にも伝えてくるし、歌に於いて手を抜いているなんて事もないし、楽しそうに活動を行っている。グループ内で何かあるわけでもなさそうだし、活動に不満があるようにも見えない。
問うてみるべきか。
本人に自覚がない場合、問う事によってその自覚を植えつけてしまう。キラくんに相談なんてしたらミュウを煽るだけであろう。というか、彼ならもうすでにこの件に関して心得ているのではないか。
ちょっとした気の迷いならいい。
今やこの街から離れてもらっては困る存在になっている。
彼等が最初にここを訪れたのは旅行だときいている。元々はどこの出身なのだろう。故郷へ帰省という話も全く出た事がない。故郷へ帰りたいのだろうか。
新たな地へ旅立ちたいのだろうか。
考えすぎならいい。心配して損したって思えるくらいが丁度いい。
後でそうやって笑い話にしてしまえたらいい。
私の複数の溜息は私を呼ぶ次の仕事への移動に隠れた。
◇◆◇
楽しいけどやっぱり足りない。歌手活動は順調そのもので好きな曲に囲まれている日々が贅沢であることも十分に心得ている。でも、ほんの少しずつ足りない。
何が足りないかなんて熟知している。
───それはアニメ成分だ。
部屋にある量は、はっきりいって個人で持っているには尋常ではない量だ。実家にあった分も貸していた分も、こっそり借りていたレンタル倉庫に置いてあった分も全てこの部屋にあるからだ。~年代アニメヒット曲集Vol.1~50も地球名作劇場全曲集もヒーロー、ヒロイン、ロボット、学園、SFなど各編成曲集なども揃っていて、CD・DVD・BDなどその並べられている様は壮観。
ここで歌えるのはそのアニメが分からなくても、楽曲自体がいいものだけである。
その上、足を出すことが春を売るお仕事の証しのようになっているせいで好きな服装も出来ない。過去の神子のせいで、自由に髪をアレンジすることも憚られる。
どれもこれも少しずつ掛かる制限。
大きなことではない、いや、アニメが無いことは大変由々しき事態を招く!私が爆発しちゃうもの。これは由々しき事態を招くでしょ?
「アニメ放映させて」
三人がぎょっとした顔を向けてきた。
「いきなり何ですの」
いきなりだったかな。
「よく持ったんじゃない?」
ですよね。
「この国ではまだまだでしょう。とりあえず、漫画から始めてみてはいかがですか?」
漫画かぁ。描いてみようと思った事はあるんだけど…続かなかったんだよねぇ…オリジナルは。描き方は覚えているんだけど。再挑戦してみようかなぁ。個人じゃなくて、皆でやったらサクサクいっちゃうかも?二次創作なら楽しく描けたんだけどね。独創性の無さに遠い目になってしまう。
漫画は、うん、三人の協力があればきっと大丈夫。多分。
そっちの目処が立ちそうなら…。
「ミニスカートも履きたいな」
「それはそろそろコンサートの衣装で取り入れ始めたらいいだけなんじゃないかしら?」
「そうかな」
「わたし達の影響力もなかなかのモノだと思いますわ」
でも、転職したと思われて襲われたらどうしよう…そういうのが心配。
「カミーユ?いきなりは駄目ですわ。ミニスカートに足が透ける生地を幾重にも重ねてうっすら、とかそのあたりから始めなくてはいけませんわよ」
「ああ、なるほど」
新風が台風になったら大変か。
「俺は見せないで隠しておいて欲しいですけど。ここは譲る方がよいのでしょう」
そうかぁ…ああ、そういえば、日本の女子高生のスカートが短くて、外国の人がこっちと同じ理由で驚いていたという、そんな時代があったと聞いたことがあったわ。文化の差…訪れている国のものを尊重しなきゃね。
「そういえば。まだ私達が動くほどじゃないけどなんだかこう、なんていうのかなぁ。ぞぞぞぞぞぉ~って静かにざわつき始めているっていうか。背中がざわつくとかはないんだよ。前奏っていうほど始まる感は無くって。う~ん?でも、動き始める気配を髪の毛の先に感じるっていうか?まだはっきりしないけど、楽しい時間が終わるんだろうなぁって奥底では理解しているっていう感じ?」
始まりの予感なんていうものでもなく、終わりの始まりっていう不吉な感じでもない。
「わくわくも不安感もないんだけどさ」
首を傾けて唸る私の背中をマリエルが撫でた。
「うおっ!」
「つまりはまだ気にする程ではないって事ですね。俺の方で集まった情報の整理は常に行っていますので、カミーユの勘が働く頃はこちらでも揃っているでしょう。まぁ、何かあったところで俺達に危害が加えられるとかそういう事はありませんから深く考えなくてよいでしょう」
「それよりさ!漫画描くなら僕やってみたい!」
「わたしは塗ったり消したりとかをしたいですわ」
「どんな内容にするかはカミーユですね。俺は何でもできますよ」
「でましたわ。これで器用貧乏じゃないところが嫉妬心をあおりますわ」
青雲の志での歌手活動があるのに本当にいいの?
私のしたいことに付き合わせてしまうのに構わないの?
「なんで呆けているのかしら?さすがに早速今日からとはいかないけど根回し含めて始めましょう」
「歌も楽しいんだけどさ、仕事になっちゃうと楽しいばっかりじゃないから歌はたまにでいいや」
マリエルが優しく笑む。
「ご覧のとおり、皆、飽きっぽいですからね。後進も育ってきていますし、歌手の先駆者としての役割はもういいでしょう。あとはまだまだ青いですが大御所として構えさせてもらって、俺達自身が楽しめる範囲での仕事に縮小しましょう」
「エリカさんはどうするの?」
「どうとでも。カミーユは契約書の内容を知らないでしょうからそんな顔になっちゃいますね。いつだって俺達の方が上になる内容でしたから全く問題ありませんよ。ただ単に、我々の常識と性格でやや下手というだけでしたから」
私達の態度は日本的だったものね。丁寧さとマメさで信頼と油断を買っていたってことかな。
新しいことにワクワクしてきちゃう!
◇◆◇
《ジン家の継承者は引継ぎが上手くいかず、協力を得る事を失敗したそうです》
「ボクにはそんな心配要らないよ」
世界とはいわないけど、修行の為に守護様と共に国中をみてきた。大事に親に囲われ守られてきたボクには辛い事も多かったけど、世の中を知ることができた。
守護様にレイ家の使命も教わった。今代は今までにない大きな使命があるからと申し付かった。
わざわざ外から応援を呼んであるから協力せよなんて言われたけど、ボク一人でやれるさ。
この国の影の英雄の名はボクのもの。
従者はあってもいいけど、対等な立場やボクが下になる仲間なんて不必要。
対悪魔?やってやろうじゃん。
《…また失敗の予感が》
◇◆◇
マリエルに組み立てて貰った結界の構築方法の準備が整った。
「マーリーエールー。いつ張るの?」
「カミーユは歓迎しないでしょうが、五家が揃って使い物になってからですね」
う~わっ。あれだろ?仁応とかだろ。あれが役に立つようになるの?
「意外でしょうが仁応が育ったそうです」
へぇ~。守護サマも仁応も頑張ったじゃん。他の四家は?
「が、最初の失敗が後を引き、四家に除け者にされているそうで他家の情報はジン家からは全く入りません」
守護サマもバカばっかりじゃん。ま、いいけどね。
「それで他家がポンコツ製造していたら超笑える」
僕にはカミーユみたいな特別な勘はないけれど、笑えるポンコツが出来ている気がする。
だって、守護サマがポンコツじゃん。僕はそう評価するね。
さてさて、どうなるのやら。
お読み下さりありがとうございます。




