51 五家(ごけ)
私は今マリエルと共に、服役中のマルカさんと面会している。
私達、青雲の志はその後ものすごく反省し、定期的に音楽活動を行い、商工会ギルドにも所在を明らかにするようにし消息不明なんて事がないようにまめに連絡も交わしてきた。本当に充実したここ数年を送っている。
天使教ともあれっきり直接係わる事もなく、いたって平和に過ごしてきたのだが。
あの、マリエルとお風呂に入ったあの日に、私の中で溜まっていた物が無くなり、それが契機となったのか何かふっきれた様で。やっと心も体も300年という時間に対応する準備が整ったということなのかもしれない。諸々の均衡の調整が終わったという理解でもいいのだろう───それは、元からあったが私が使いこなせていなかったのか、新たに覚醒した能力の一つなのか、はたまた単に偶然が重なっただけなのか、今まで探しても手に入らなかった「情報」が緩やかに、それは私達の心身に負担を掛けないペースで私達の元へ集まり始めたのだ。
五家、治療士、薬師。
治療士と薬師は医師と調剤師・薬剤師の中に紛れており私達の耳に入らなかったのだ。一括りにされていただけではなく、本人達も訂正しないからごちゃまぜであった。差を分かりやすくいうならば、広く見れば同じ様な仕事であっても、ディプロマ、認定証、修了証明などだけであるか、国家試験による国家資格であるかのようなものである。
その治療士と薬師の中に私達が求める霊能者に近き者が居るようなのである。
そして、その者の中に特に能力の高い者が生まれる…のが長い年月続いてきたようだ。
だが、度重なる天変地異によってその秘密は失われ、力は失われていったらしい。
──そう、「ようなのである」「きたようだ」「いったらしい」。もうすでに、その当事者達、もとい、その血縁者、遠戚でさえ薄ぼんやりの状態であったのだ。
そして、ここで出てきたのが「五家」である。
エリカさんに治療士と薬師について聞いてみたらその単語が現れたのだ。
彼女自身も五家の遠い遠いうっす~い血筋であるそうだ。何故五家という言葉が中々出てこなかったか。その言葉自体が五家が勝手にそう呼んでいただけで世間に知られていた名前ではなかっただからだそうだ。
力が出現する者はそうと分かる文字が名前に入るのがしきたりであり継承者の証といわれている。
そこで、同時に名前が挙がったのが天使教のチェイニーさん、ギントリーさん、そしてマルカさんである。
チェイニーさんとギントリーさんにも聞いてみたのであるが、二人は何代か前に能力者が現れた家系だったそうだ。その時の名残で自分達の名前には、そのものではないがそれを示す言葉が含まれているらしい。そう、ここでも「らしい」なのだ。その能力があろうとも栄華を極められるわけでもないし、そのような野心もない彼等にとってはどうでもいい話だったので、そのような感じでしかなかった。
が、マルカさんはそうではなかった。
その為、彼女に話を聞くために訪れているのである。
「あなた達に話すことなんて何も無いわ」
「聞きたいのは五家のことです」
フンと言いながら足を組み替えた。何も無いと言いながらも話してくれる気があるようである。五家の末裔であることは彼女にとって小さくない心の支えなのだろうという様子が窺える。
「私はこれでも誇り高き五家の末裔よ」
誇り高いんだ。
「この名前もすっかり消えてしまったと思われているけど、まだジン家は継承が行われていて残っているらしいわ。私だって、レイ家の血を引いているのよ。継承の仕方が残っていれば私が今代の継承者になっていたはずなのに」
…ああ、多分分かった。そして彼女は思い違いをしている。
「チ家もギ家も子孫がチェイニーとギントリーみたいなバカだと知ったらどう思うかしら」
おお。やっぱりある意味定番のあれでしたか。となると。
「私なら再興できるのにね。私の頭脳と美貌を活かせるのに。ふふ。何故再興を考えないのかしら。優秀な者が権力とお金を持つべきだと思わないこと?」
教えてあげた方が親切かなぁ。このまま夢を見させてあげたままの方が幸せなのかなぁ。
目がもう私達二人を見ていないんだけど。
私がこの人のことで唯一気に入っていることがあるんだよね。それは決してマリエルに色目を使わないところ。誘うような事もしないしそういう意味での品定めの視線を送らない。そういう興味の対象ではないってだけなんだろうけどさ。女心としてはそういうのは安心できるから嬉しいって思ったりもするんだよね。
「マルカなんて名前じゃなくて、レイチェルとかレイリーとか、レイ家に相応しい名前を持つべき者であるのに。何故こんなところに居るのかしら?」
勘違いを教えてあげようかなぁ。
ちらりとマリエルを見ると横に首を振られた。
『もう、いいでしょう。帰りましょう』
それに促されるように向こうの人に声を掛ける。
「話は済みました。ありがとうがざいました」
私達は頭を軽く下げるとその部屋を退出した。
分かったことを纏めると。予想も込みの部分もあるがまず間違いない。
五家は…元々霊感の強かった神子の誰かが五人を見付けて割り振っていったのだろう。
仁・義・礼・智・信には記号のような役割を持たせたのだろう。そうでなければ、それが指す意味も伝わっているはずだから。
そして私達はその一人に会っている。
正直、アレかぁ…と溜息が出てしまう。
彼は少しは成長しただろうか。
彼をしっかり導いているのだろうか。
今の私達なら必要だと望めばタイミングよく再会することができるだろう。そう思える。
「敢えてあの少年を探さなくてもいいよね」
「まだ役に立たないでしょう?学習能力低そうでしたよ」
「そうだっけ?」
そんなによくは覚えていないけど、マリエルがそう言うならそんな感じの子だったんだろう。
「ま、それはそれでいいや。でさ、どうする?他の四家については調べてみる?」
「気になりますか?」
うう~ん。そういう感じじゃないんだよね。
「何か私のアンテナにひっかかるんだけど、四家じゃないんだよね。何だろう?」
「またきっと何か起こるんでしょうねぇ」
「な~に~よ~!もうっ!!何か悪い事を呼ぶ人みたいな言い方しないでよねっ」
「いえいえ、その様な意味では」
否定はしたけど、本当に何かがおこるのかもしれない。私の勘もまだまだ先の事を指すからこんなに漠然とした感じなのかもしれない。
慌てる事はない。
「あ、ゆっくりし過ぎました。商工会との約束の時間まであと二時間しかありません。ギリギリになりそうです」
「…瞬間移動すればいいんじゃない?っていうか、最初からそのつもりだったでしょう?」
「建前だけでも言っておかないと。なるべく公共機関を使う事にした手前がありますから」
くすっと笑うマリエルにつられて私も笑いがこぼれる。
私達は手を繋いだまま物陰に隠れると部屋へ入った。
◇◆◇
と、ある日の出来事。
「本日は宜しくお願いします」
あたしは青雲の志の四人に頭を下げた。
ねばってねばってねばって漸く青雲の志が住んでいるお宅の公開とインタビューをしてもらえることになったのだ。長かった。時の人は後人の追随を許さず、未だに独走している。
彼等のお蔭で新たに「歌手」という職業が広まり認知された。彼等の楽曲を真似て作曲する者も増えたが、どこか雰囲気が違う。だが、それもそれなりに受け入れられている。
芸能界の発展はあたし達製作者側としても喜ばしいことである。
「何度もされている質問だというのは承知しているのですが、本当に作詞、作曲、編曲は皆さんではないのですか?」
「違います。編曲だけは俺もすることがありますが、その時はキラの名前を出しているでしょう?」
流れの吟遊詩人が神子さまから聞きだした曲だっていうけど。人ってこんなにちゃんと覚えているものかしら?
インタビューが終わり、お疲れ様でしたと出されたものを口にする。
「おいしい!どこのですか?あたしも買いに行きたいわ」
「ありがとう存じます」
「私達で作ったんですよ」
「ウララとミュウの手作りだよ。美味しいに決まっているでしょ」
まじですか。食べる前に写真撮っておけばよかった。
スタッフ一同ほっぺが落ちそうになっている。
ディレクターが「お手洗いを…」と席を外した。
あたし達も名残惜しいと思いながら片付けに入る。四人とスタッフがあちこち歩き回る。
各部屋にも忘れ物がないか最終確認に入らせてもらう。信用して貰えているのか四人はあたし達から目を離していた。
「それでは…」
「お待ち下さい」
「?」
四人が何かの道具っぽいものを取り出した。
カチリと音がしたと思ったら
びーびーびーびーびーびー
何の音?
「み~っけ」
「こちらにもありましたわ」
「発見!」
「ここにもありました」
スタッフの顔が青ざめていく。あたしの顔も同じなのだろう。
びーびーびーびー
「まだ鳴ってるねぇ」
「あった!」
「これもそうですわ」
「静かになったね」
「全部揃ったようですね」
だらだらと汗が流れる。
「こうなると全く持って信用できませんので、荷物の中身を拝見してもいいですよね?」
スタッフの一人が思わずなのだろう、ポケットを押さえた。あちゃー。
鞄だけでなく身体検査もされていく。
こっそり持ち帰ろうとしたものが全て彼等の手に戻ったようだ。
「今回の仕事は無かったことにしていいですよね?」
キラくんとニコくんがカメラのテープを駄目にしていく。
硬直しているあたし達は謝罪も言い訳も出来ずにその様子を見ていた。
「何しやがる!訴えるぞ!」
ディレクターが怒りをぶつけ始めたが、悪いのはこちらである。
しかしあたしの口はパクパクとみっともなく動くだけで、普段の仕事のように滑らかに言葉を紡ぐ事が出来ないでいた。
「こちらをご覧下さい」
映し出されたのは盗聴器を仕掛け、物を盗んだあたし達、たった今恥ずかしげも無く怒りをぶつけているディレクターの姿だった。
「私達の方こそ出るとこに出てもいいですよ」
「わたし達が送らないと迷子になりますわ」
キラくんとニコくんに送られてあたし達は移動する。
「謝っても許されないでしょうが謝罪します。申し訳ありませんでした」
顔をあげられない。でも、ほんの少しの理不尽さと反骨心が首を持ち上げてしまった。
「隠しすぎるわ。そう!大体あなた達がもっとファンやメディアのことを考えないからこういう手段に出るしかなくなったのよ」
あたし達だけが悪いわけじゃない。
「あたし達が世間の人々の代表よ!」
言ってやったわ。誇らしいあたし。やったねあたし!
「奇異なことを」
「頭おかしいんじゃない?」
うちの会社は潰れた。この取材に携わった社員に再就職先はなく、あたしを含めたその時のメンバー全員で新しく会社を立ち上げたが…。
今更、本気で反省し後悔しているあたしがいる。




