50 停滞の終わり
半ば逃げるように天使教を去った私達。森の中に入るとマリエル以外は部屋へ戻り、結界で姿を消したマリエルが空間収納に車をしまい、部屋へと合流した。
精神的なものだと思うけどグッタリだ。お金の管理と事務手続きもマリエルにまかせっきりではあるが嬉々として行ってくれているように見えるのでこれでいい。
なので、私は眠る事にした。
夢の中でさえ考える私が居る。
これからどうしていこう。
私がやりたい事って何だろう。
この世界いにとっての最適を私達が行わなければ、間をおかずに同胞達が私と同じ様に召喚されてしまうのだろうか。そうしたら地球は?
地球だって悪魔との戦いが拮抗している。
地獄行きが4割5分にまでなった時代もあった。
この世界中をどっかんしたら簡単なのかなぁ。
マリエルとジルとリコルと仲良く平和に過ごしたいなぁ。
アニメ、見たいなぁ。
アニソンを気が済むまで歌いたいなぁ。
同人誌描きたいなぁ。
同じ趣味を人と語り合いたいなぁ。
好きな服を着たいなぁ。
アロマテラピー、リフレクソロジー、ヨガ、ベリーダンス…友達と一緒のカラオケ、小動物との触れ合い…たまには水泳もいいし、バスケットボールもしたい。
夢の中なら出来るよね。まだ取得していなかったけど中型二輪に乗るの。
…あれ?またがってみたけど。ブボボボボボボって、え?時速30キロって。教習所で原付で乗った速さじゃない!
「カミーユ、目が覚めましたか?」
「ん」
あ~、夢だもんね。何だかまとまりがなかったのはそのせいか。
「夢の中でさえ、カッコ好く乗れなかった…」
「ふふ。そのせいですか?眉間にシワを寄せて眠っていましたよ」
「ホントに?え~嫌だなぁ」
シワよ伸びろと指で左右に引っ張ってみた。
「随分寝てた?」
「ええ」
「そっか」
多分、まる一日は眠っていたんじゃないかっかって思う。体の感じがそう示している。
「全部終わった?」
「ええ」
すっかり疲れもとれた。部屋の機能とこれでもかってほどのたっぷりの睡眠時間。
夢を見たからこそ気付きを誤魔化せなくなった欲求と不安。
だからって「現在」の状況に大きな不満があるわけじゃない。
四人での生活。作った拠点。青雲の志としての歌手活動。多分、この国では終わった悪魔関係の任務。
なのに。
絡め捕られているわけでもないのに身動きがとれない。
何故。
またいつの間にか思考がぐるぐると私を掻き回す。
ふわっ。
そんな音がしたような気がした。
温かい。くすぐったい。至近距離に私が一番大好きな人の顔が見えている。
私の頬を挟んでいるのはマリエルの掌。くすぐったいのは気持ちとマリエルの髪が触れる場所。
マリエルの長い指が私の目の下を撫でた。
水の感触だ。
「涙」
「流れていますね」
「うん」
「声を上げて泣いてもいいんですよ」
「うん」
でも、声は出ない。涙だけが流れる。泣き叫びたいわけじゃない。涙になって流れているのは私自身で気付く事ができないでいたストレスなんだと思う。
「マリエル、お願いがあるんだけど」
「カミーユのお願いなら何でも聞きますよ」
易い願いだと快く受けてくれるだろう。だから遠慮なく。
「寝起きで泣き顔…だから、一緒にお風呂に入ろう?」
私のちっちゃな願いにきれいな顔の中の瞳がめいっぱい大きくなった。それを見てクスリと笑いがもれる。
湯船の中で背中合わせに浸かっている。肌の感触が私の中に溜まっていたものを解していってくれている。
どうしても、何度も、沈んだ思考と弱った精神力だ顔を出してくる。
「何でかなぁ」
「何ででしょうね」
「私、駄目な人かな?」
「全然そんなことありませんよ」
「すぐに考えが後ろ向きになるよ」
「そうでもないですよ」
「そうかな」
「そうですよ」
そっか。
「マリエルは?」
「聞きたいですか?」
「…」
「聞きたいでしょ?」
聞かないほうが良い様な気がしてきた。
「言いたいのでいいますね」
おい!
「カミーユへの愛と周りへの嫉妬で真っ黒です」
うおっ!
「俺にとってはこんな世界どうでもいいんです」
はっきり言うなぁ。
「でも、仕事ですし」
ですよね~。
「せっかく長い寿命でカミーユを独占して生きていけるのですから…この世界をキレイにして楽しく生きて行きたいと思っていますよ」
うん。
「ありがとう」
マリエルが向きを変えて私を包む。
「私の生き方、これで合ってる?」
「どれも間違いでどれも正解です」
「私の思うままでいい?」
「ええ」
「間違ったら教えてくれる?」
「勿論」
「まだ、もうしばらく。うん、飽きるまで。ううん、気が済むまでこの国で歌っていいかな?」
「ここで10年20年過ごしたって問題ありませんよ」
「うん」
「俺のことも見ていて下さいね」
嬉しいけど、照れちゃう。
「うん。マリエルもだよ?」
「今以上にカミーユを見つめたら、穴が開いたり減ってしまうかもしれませんがいいですか?」
「うんっ!」
私も向きを変えマリエルに抱きついた。その勢いのまま、唇を塞ぐ。聖水と唾液の音が浴室に響く。
「また後で一緒に入りましょうね」
息が上がった私は頷くことしかできなかった。




