49 後始末
お待たせ致しました。
「わ、分かったわ」
眼鏡が傾いている。あれでしっかり見えているのかしら?
「これは請け負ったあなたの失敗で間違いありませんよね?」
「ええ。元々だまし討ちの様に入れた仕事だったのに…その上、情報不足でご迷惑をおかけしました」
私達の背中を汗が伝う。寒い、寒い、寒い!
「では、あちらの方々が寄付した分は天使教に。バカファンが払った分は俺達の収入という扱いで。これから曲珠の販売になりますが、そちらはいつも通りということで」
ステージから下りる時にエリカさんだけを連れてさっさと控え室に戻った。
終わった後の事については、あの場に於いては、頼りないがチェイニーさんとギントリーさんに任せるのが筋であろう。こうなってしまっては全く係わり無いといえなくもないが、主導権も責任も私達四人が持つものではない。エリカさんはがっつり向こうと係わってるけど。
で、マリエルにしっかりと改めて謝罪と責任の在り処と補償を求められて半泣きになっているエリカさんを目の前にしているわけで。
どんな顔で見られても、絶対にエリカさんには味方しませんから!
「では、今回の事は帰ったら必ず商工会ギルドから正式なものを求めますから。これでうやむやにはしませんからね。俺達はこれから販売が残っていますので、あとはどうぞそちらでご自由に。それでは」
あ。当てにされても困るから私からも一言。
「帰りは別ですから。ここまでってことで。それでは、お疲れ様でした」
「女性一人では危ないでしょうから」
と、キラ。
「護衛でも雇ったら?」
と、ニコ。
「闇討ちには気をつけてお帰りくださいな」
と、ウララ。
エリカさん。私達、秘密が多いですから。快適な旅は四人じゃないと出来ないのです。
魂が抜けたような顔をしているが完全無視。こんな所で情には流されません。
うん、私もすっかり逞しくなったなぁ。いいことだ。うん!
中途半端にしかファン熱を発散できなかった彼等は非常に良いお客さんで。たくさんお金を落としていってくれたのだが。
「あ、あの。本当にファンクラブは駄目ですか?」
「駄目です」
うなだれているけど、私は知らない。っていうか、私の担当じゃないから、キラに言ってください。
「非公式でも?」
「駄目です」
「どうしても?」
「認めません」
「そうっすか…」
私、キラと断られて…
「だ~め!」
「しつこい方は嫌いですわ」
尋ねる前に先に言われ、ウララの嫌い発言に膝を着き、この話は終わった。
その彼を見たあとには追撃してくる猛者はおらず、購入し終わった人達も私達を遠巻きに見ているだけだ。
『私もさ、ファンクラブ位いいんじゃないかって思っていたんだよ。でもさ、こうやって天使教内での力…ううん、権力の流れを見ていたらさ…怖くなっちゃった。───数の暴力が。それと、情報管理。』
念話の声に三人の視線が私を見る。
秘密を共有している唯一の仲間。心から、全く疑うことなく信頼することができ信用でき、心を許せる仲間。特務課で拝命した任務の大きさを考えたら人数的には全く足りない。だから課長からだって「全て」とはいわれていないし無理をするなともいわれている。
人生を楽しむこと。それさえも要求されている。
そういう形で、半ば命令のように「人生を楽しむ」ことさえも言われなければ難しいほど困難な任務。
だから楽しもうよ!
ほんのちょっとのサービスで皆を味方にしちゃおうよ!
やったもん勝ちだよね。
「みんな!今日はありがとう!!ファンクラブは認めるの無理だけど、青雲の志のことを大好きで応援してくれているその気持ちはとても嬉しいし感謝しています。私達のことで知りたい事とかあれば、商工会ギルドへお願いします。答えられる範囲で、としますがお答えしたいと思っています」
私の発言にその場がざわめく。そして、キラが言葉をつなぐ。
「なので、こそこそと尾行したりしないで欲しい。俺達にも私生活があるのです。ミュウとウララが怯えます」
いやいや。そんな事ないですけど。瞬間移動で逃げちゃいますから。
「俺とニコも背筋が震えます」
いやいや、いやいや。それこそ絶対無いでしょ!震えさせる側じゃないの?
「四人一緒で暮らす僕達の暮らしぶりが気になるのだって、理解はできるよ」
ニコも参戦ですか。なんか、私が考えていたのと違う方向へ話が向かっているんですけど。あれれ?
「好意を持つからこそ知りたい、近づきたい。………でも、皆さん。多くの方がわたし達の事を一方的にご存知なだけ。その事をお忘れなき様、心に留め置いてくださいませ」
ウララもなの?
で、え?え?いいたいこと言って、締めは私?くっ。
「えっと。営業妨害その他、あまりに不快だと感じたら、出国して、もうこの国では活動やめますよ」
うん、はっきり言ってやったぞ!あ~、すっきりした。やっぱり、あんまり溜め込んじゃだめだよね。
「そ、そういうことですわ」
ウララが胸を張って言った。
歌は大好き。楽しい。でも、やっぱ、アニソンが一番好きだからちょっと物足りないんだよね。
さすがにアニメーションをゼロから作る知識も技術も持ち合わせていない。漫画はかじったことあるんだけどさ。映像の分野はテレビで特集やったの見たくらいだから分からないんだよね。
せっかく異世界なんだし、ちょっぴり冒険者っていうのにも憧れがないわけでもないんだけど。任務がそれっぽいから、ま、いっか。
「あ、そうそう。忘れてた」
「「「えっ?」」」
「えっ?」
「「「えっ?」」」
「…?。遠路はるばるお越しくださった上にたくさんの曲珠の購入。皆、ありがとう!感謝を込めて1曲贈ります!」
どこから出てきたマイク。うん、さすが私達。
「オリジナルはキラとニコですが、今日はミュウバージョンでお送りします」
『曲は、スマイルアゲインで』
『わたしは?』
ウララもですね。
「あ、間違えた。ミュウ&ウララバージョンでお送りします。スマイルアゲイン!」
歓声が起こる。ウララが並ぶ。珍しくキラも準備が万全ではなかったようで、こっそり私のCDをプレイヤーにセットしているのが見えた。わ~、ごめん。
それでも不自然じゃないタイミングで始められちゃう皆が超凄い。
キラとニコはコーラスに加えてダンスで魅せている。
こうして、本当の最後の1曲のあとは尋常じゃない早さで片付けて、誰の目にも触れることなく天使教教会を去った。
◇◆◇
「エリカ・ヘイデン。そんな落ちぶれた五家の末裔になんか味方して後悔するわよ」
チェイニーさんとギントリーさんが悔しそうに唇を噛んだ。
二人は五家の末裔なのか。だから何だっていうのかしら。
逃げられたら困るから証拠を掴んで押さえてあることは二人にも口止めしてある。警察にも知らせてあるから明日には到着するはず。青雲の志が私をあっさり置いて行った薄情さに泣けるけど、今日はこの件があるからいいわ。どうせここに一泊するんだし。
私達はその場を後にした。
◇◆◇
「おい、話が違うではないか」
「申し訳ございません。ですが、逆に皆様の貴族としての気高さ、優美さを貴族街以外の有力者に見せ付けることができましたわ。更に、あれらが全部金のなる木だと証明もされました」
利用の仕方はいくらでもある。ふふっ、貴族なんてどいつもこいつも肥やしになるといいわ。
◇◆◇
「お待たせ致しました」
「聞いていた計画と違うようだが?」
「ふふっ、そうでもございませんわ。あの者達の本性を見たではありませんか。所詮は金が欲しい目立ちたがりや。簡単に利用できますわ。ギルドと手を切らせるのも容易いでしょう」
利に聡い者と手を組む。馬鹿は持ち上げて上手く使う。私の時代はこれからもっと明るくなる。
◇◆◇
「あ~、マルカさん?あんた達とは縁がなかったみたいだわ」
「そうですか。残念です」
「マルカさん、今さっきまでの青雲の志の対応見たか?」
「いいえ。教会内でお客様をもてなしておりましたので外の事はさっぱり」
歌なんかどうでもいいから外は気に掛けていなかったけど、こいつらをどうするか。返金を求められると困るわね。
「今回の件は高い授業料と青雲の志の初披露曲を聴けたってことでチャラでいいわ」
「感謝いたします」
「でも、次はないぜ」
「心得ました」
あんな歌の何がいいんだか。でも、後腐れなく片付いてよかったわ。
◇◆◇
なんなのよっ、どうなっているのよっ!
これからなのに!これからなのに!!これからなのに!!!
「証拠は揃っている」
落ちぶれた末裔ごときにしてやられるなんて…!
糞共が余計な事をぺらぺらと!
「女性はもっと丁寧に扱うものよ」
何で私が。
私が地べたに膝を着かされるなんて!捻られた腕が痛い。
「悪いが格闘技の心得がある女に容赦はできんな」
商工会を舐めすぎたかしら。巻き返せる機会はあるはず。
「今回の件だけじゃないからお天道様を拝めると思うなよ」
失敗したのね。負けたのね。何で負けたのかしら。何処に落ち度があったのかしら。
無理矢理立ち上がらせられる。痛いってのに。
五家、じゃない。商工会?いいえ、あの女…?
向こうにエリカ・ヘイデンが見える。
「ねぇ、ちょっと。あそこに見えるエリカ・ヘイデンさんに挨拶したいんだけど」
「放さないぞ」
「分かっているわ」
「少しだけだぞ」
「分かっているわ」
子供じゃないんだからその位考えなくても分かるっていうの。この、脳筋が。
「私はあなたに負けたのかしら?ギントリーとチェイニーが気付くわけないもの」
「そうね」
「そうなのね、あなたなのね」
「違うわ」
じゃあ、誰に負けたっていうのよ。
「もう、行くぞ」
まだ終わっていないのに。逆らうのも疲れる。気になるけど諦めよう。
「…青雲の志」
エリカ・ヘイデンの声がそう言った。
「そう。教えてくれてありがとう」
悔しいし認めたくないけど、ここに来てから以前より心は清々しく頭は冴えていた。体調も良好な日が多かった。だからこそ、ここで全てを手に入れたかった。ここであることに意味があった。
でももう、この場所には来る事ができない。残念だ。
反骨心がみるみる萎えていく。
「ここは気持ちのいい所だな」
「ええ」
「こんな所に居れば悪い事しようなんて気持ちが芽生える事なんて無さそうなのにな」
「そうね」
そうね。何故かしら?何で今みたいに心穏やかに成れなかったんだろう。
◇◆◇
「それ、マジか?」
「何人もいるぜ」
「嘘だろう?」
「何々?」
「誰も乗っていない車が突然現れて、少し走ったら消えたんだって」
「なんだそりゃ?」
「おばけか」
「幽霊か」
「妖怪か」
「神隠しか」
勿論、青雲の志御一行である。




