48 天使教礼拝堂
結局、エリカさんに聞きたいことは何も問えぬまま礼拝堂へ向かった。
念話で最終確認を済ませ教徒達が入ってきている入口とは反対の方から入っていく。
天使教が予定していたステージ側の最前列に煌びやかな人達が次々と着席していく。彼等の前にはテーブルが置かれ飲み物が配られた。埃除けなのだろう、ご丁寧に蓋がされている。
その後ろには少し距離を置いてファンらしい人達が着席していく。
その後にムッチリさんの仲間が次々と続き、半分より後ろに最初から在籍している教徒達が続いた。
『私達って結局、誰の為に何の為にきたんだろうね』
『僕はチャリティって聞いているけど』
『そんな事は分かっていますのよ。そうではなくて!』
『例えば本当にチャリティだとしたら、あの二人とこの人達は集まったお金を何に使うんだろうね』
『そもそもあの二人が代表になっている限り設備も整った今、金策の為にチャリティなんてしませんよ。細々と活動する事を望んでいるのですから』
広めるつもりも大きくするつもりも無い組織について私達がああだこうだ言う必要はなかった。
関係者でもなく、なるつもりも無い。だから、私達が進んで係わる必要は無い。
無い、無い…地球で暮らしている頃の私だったら現在の私とは違っていた。こんなに簡単に割り切れていなかった。
もっと感情に流されて、ちょっとした正義感をもって振りかざしていたんだろうなって思う。
あの頃の私でも「過ぎた正義感とおせっかい」は持ち合わせていなかったような気はするけど。
今よりは簡単に動いていたように思う。
「カミーユ、どうしました?」
「ううん、なんでもない」
さあ、いよいよ私達の登場だ。
中の様子を直接見て確認した私達は外に出ると、進行の紹介に合わせて入場した。
盛大な拍手もイマイチ心に響かない。それは単純に私の気の持ち方によるものだろうが。
拍手の中をステージとは反対の後方へ向かっていくその行動に対して司会者は慌ててこっちですよと声を大きくする。
その中を軽く笑顔でかわしながら歩む。
拍手が疎らになり、止んだ。
キラが指をパチンと鳴らすと存在感を消していた幕がするりと落ちた。
そこにあるのは私達のステージ。
迷うことなく登壇する。
視界の端にぽかんとする人々の姿がうつる。
エリカさん達はまだ証拠集めをしているのかここには居ない。あとで変に突っ込まれると面倒だからいい。
向こう側では天使教の代表者の挨拶も当たり前のようにムッチリさんがしている。動揺を見せたのも瞬間的なものであり、肝が据わっているというか神経のず太さと逞しさが見えた。こういうところは大したものであると素直に認めたい。
会場内にはまだ僅かながらざわめきが残っている。
天使教を使って甘い汁を吸おうと大金を払った人からは抑え気味でありながらも不満の声と説明を求める声が私達の耳に届く。勿論、聴覚を強化したから聞こえるのであって、私達に近い所に居る教徒達には聞こえていないと思う。
そのざわめきが止んだ。その訳は…。
紹介を受けた私達に応えてキラが会釈をすると、一斉に教徒が立ち上がり深く頭を下げた。思いがけない行動であったが、それに習いファン達が同様に頭を下げた。それを見て場の空気を一応読んだと思われる貴族なども立ち上がる。さすがに頭は下げなかったが、つられて目線を下げたり目を伏せたりした。
───と同時にニコとウララが瞬間移動して教徒とファンの間を防音パネルで遮断した。どこから出しのさって心の中で突っ込んだら、『紐を引けば下がるように俺が設置しておきました』と返答があった。
当初の予定では普通に下ろすつもりだったそうだが、偶然全員の目が逸れたのでこうしたそうだ。
パネルの向こう側は放置しておくとして。ムッチリさん達はあちら側だからいいようにするでしょう。
「本日はお招きいただきまして光栄です」
キラの挨拶は続く。
「天使教の慰労会ということでチェイニーさんとギントリーさん、そして商工会ギルドから俺達『青雲の志』へ依頼を頂きました」
…えっと。そういうことにしちゃっていいの?っていうか、こう言っちゃったらもう、そういうことになっちゃったんだよね。これで共通の認識になったんだから。
ただ働きはしないで済むのかな?その辺はエリカさんとの交渉になるのかな?
状況を考えたら、エリカさんの方が多くの条件を飲むしかなくなるんだろうけど。
「ですので、この時間をお楽しみ下さい」
キラの挨拶と交代で私に注目が集まる。
「今日は初披露の曲を皆さんにお届けします!」
伴奏はカラオケ。マイクは無し。
私達は歌う。
囁く様な声に教徒達は耳を澄ます。そうしてもらう為の選曲だしね。わざわざのマイク無しですから。
初めて聴く人達は素直に耳を傾け、今までの私達を知る人は驚きを隠さない。これまでは派手な曲と演出だったから。
私達の歌声が彼等に浸透していく。
明るい曲調のときは口許がほころんでいる。聴いてくれる人たちの喜ぶ感情が私の心に響く。それが私が歌う力になる。
コーラスからバックダンサーに変わったキラとニコのダンスに釣られて体を揺らす人。
礼拝堂の雰囲気が心地いい。やっぱり、歌う事が好きだ。
「教徒の皆さんの為に歌う曲は残り1曲になりました」
う~ん。最後くらいウィスパーじゃないのも聴いて欲しいな。…選曲変えちゃおうかな。
言ったもん勝ちだよね。うん。
「最後は私達のデビュー曲、上弦の月、アコースティックバージョンです。お聞き下さい」
私が「上弦の…」と言ったところでどこからともなくギターを取り出したキラとニコ。うん、さすが!!
キラの笑顔に凄みが出ているのも、ニコのこめかみに血管が浮いてぴくぴくしているのも、ウララの笑顔の目が全く笑っていないのも見えてなぁ~い!
ああ、便利な特殊能力!万歳!
あとは二人ずつ歌う2曲のみ。
ここで防音パネルが上がる。身体強化を使える三人がステージをするりと降りてパネルを上げると何食わぬ顔をして戻ってきた。
きっと裏では自分達ではうんともすんとも動かなかった物を三人が簡単に扱うのを見て驚いている事だろう。ウララでさえ動かしちゃったんだもの。
そして、ここで再びキラが話す。今日初めてマイクの使用だ。
「残り2曲となりました。本日は天使教の慰労会ということで始めから支えあった教徒限定ということでしたが、天使教の為に私財を寄付して下さった心豊かで温かい方々がマルカさんを始め更に自腹を切って会場の全ての方に我々の曲をということですので」
ここで私達はムッチリマルカさんに視線を送る。
漸く、エリカさん達も合流した。
「歌の前に代表としてマルカさん、貴族街から丸々商会、商会長様。そしていつも温かい応援ありがとうございます。名前は存じませんがあなたからも。…一言ずつ頂戴したいと。お願い致します」
私もウララもニコも笑顔は取り繕えている。
『わたし、もういいですわ』
『僕も』
『なんかさぁ、任せておけば私達が直接ぶつけるより大ダメージ与えられそうだもの』
『やっぱさぁ、マリエルが一番怒らせちゃ駄目なヤツだよね』
『ですね』
『思っていたより怒っていたんだね。私も気をつけよう』
指名された三人とも咄嗟の事に新たに案を出せなかったようで、キラの誘導のままに挨拶を済ませた。
頭の回転が早そうな順に挨拶をさせたところなんかキラの性格の悪さが出ている。考える時間を与えちゃったら良くないもんね。
「歌に移る前に、ご報告をしておきます。今現在、青雲の志のファンクラブ発足の予定はありません。公認、非公認の物もありません。それを語る物は詐欺ですので、皆様、くれぐれもご注意下さい。当然、我々とは無関係ですので、もし被害に遭われた場合は警察へお願いします」
商工会ギルドにその辺のことお願いしちゃうかと思ったら、無しなんですね。
うぁあ~…ファンが居るところ、お通夜みたいになっちゃったよ。知~らないっと。
その雰囲気をものともせず、キラとニコの歌にうつった。
最後の2曲は、それぞれがうっぷんを晴らす為なのか、異様な盛り上がりを見せた。
彼等のラップがこの世界の人にも意外と受けたことを添えておく。
暑い日が続いています。皆様、体調に気をつけてお過ごし下さい。
お読み下さいましてありがとうございます。




