47 跡地にて-4
結界で自らを覆い隠れて移動する。
場所はステージに指定されている、新設された礼拝室だ。屋敷内にも複数小さな礼拝室が設けられている。
本当に「祈る」ことを主にしているんだと感じた。
礼拝室の出入り口は部屋の奥ではなく左右に設置されていた。
「これは幸いです」
誰からも見えないのをいいことに浮かべた笑みは、カミーユが見たら悲鳴を上げそうなものになっているであろうという自覚がある。
今回、チャリティである事と我々以外にも出演者がいると聞いていた。が、見当たらない。
ジルとリコルの話からも出演者は我々だけだと思われる。単独コンサートとなると話が違う。
奴らに踊らされたファンには眉毛1本程度は同情はするが、そんな邪な理由で動いたのが悪い。本当に俺達のファンであるならば、そんな旨い話と俺達が繋がるわけがない。
メインステージの幕は下りたまま。裏を覗くと善意なのか指示なのかそれっぽく用意されている。…ここを使うならありがた迷惑な状態である。
よく見れば、隠れて録音するつもりだったのかスピーカーなどに紛らわせて置かれている。空間収納から鋏を取り出し配線を切っていく。機械は出っ張っているスイッチを毟り取り、本体は部屋の浴槽にドボンと漬けた後、元の位置に戻しておく。
続いて、メインステージと真逆へ移動する。まず、結界で覆っておく。作業の様子は見せない。
カラオケの設置をする。
通常のコンサートとは違うからアンコールなんて起こらないだろう。でも、あの選曲では皆の溜まった鬱憤を晴らすことが出来ない。なので、それ用の楽曲も用意しておく事にする。
…打算…心穏やかな彼等なら、感謝の気持ちを俺達にも向けてくれるだろう。用意した曲珠に購入者特典に何か付けるか?いや、そんなことをしたらそれが原因で教徒が襲われるかもしれないか。握手くらいでいいかな。少し手が腫れるかもしれないけどサービスも大事にしないとね。…ああ、でもやっぱり、俺の独占欲が拒みたいと言っている。うん却下だな。余計なことは止めよう。そうしよう。
こうして、静かに準備は整っていく。
◇◆◇
支度を終わらせた私達は部屋で合わせてみる。マリエルからもお褒めの言葉を頂戴することができた。
日頃の練習がものをいうんだと実感した。さすがのチームワーク。リコルなんて弾けた曲の方が好きなのにこういう曲のコーラスもこなしちゃう。ジルは歌姫といわれていたことあるだけあってコーラスも彼女が主旋律になる部分もばっちりだ。そして、なんだかんだと誰よりもすることが多かったはずのマリエルもしっかりと底を支えてくれる。
唯一つ不満をいうならば、合わせる直前に渡された楽譜。もっと早く渡してよね!
それは、ミュウ×ウララのアイドルソング、キラ×ニコのラップとダンスの曲。ラップって、これ、受けるのかなぁ?
私個人の意見としては微妙だと思うんですけどね。
全ての準備が整った。いざ出陣!!
なんて気合をいれて部屋を出る。私の部屋を出ただけで、まだ控え室だと教えられていた部屋に待機中だ。
時間ギリギリは、マリエルの性格が許さない。
と、ドアの向こうで「居た!」という声が聞こえたと同時に鍵をガチャガチャする音がしてエリカさんが入室してきた。
「ノックしてくれれば開けたのに」
リコルの呟きにエリカさんの目が三角に吊り上る。
「どこに行っていたのよ!何していたの!ノックなら50回くらいしたわよ!全っ然連絡とれないし、誰の姿も見ないし!あなた達に何かあったかと思って心配したのよ…!」
忘れていたわけじゃないんだけど。
確かに駄目だったかも?
三角目のエリカさんの後ろに所在無さげに立っている二人が目に入った。
「エリカさん、ごめんね?」
「書置きの一つも残さずに行動に移ってしまいご心配おかけしました」
「謝りますわ。でも、言い訳と捉えられるかもしれませんが言っておきますわ。自衛の為にこっそりと行動する必要がありましたのよ」
「僕もごめんなさいはするけどウララに1票。こそこそしたお蔭でこっちもエリカさん達に問いたい話を聴いちゃったけど?」
私達の視線はエリカさんを越えて二人に向いた。
まだ時間はあるし、しっかり聞かせて貰いましょう。
「本日は遠い所、ご足労頂きありがとうございます。チェイニーと申します」
「教徒の一部が申し訳ない。ギントリーだ」
代表してマリエル、もとい、キラが挨拶に応える。
「青雲の志、リーダーを務めます、キラです。隣がミュウ、ウララ、ニコです」
こちらからは感謝は述べませんよ。だって感謝していませんから。厄介事の匂いで鼻が曲がりそうですもの。
で、分かったのは、この二人は「人が好い」ということ。言い換えるならば「お人好し」であった。
エリカさんもなんだかんだでその部類にはいるわけだし。こういう人に対しては余程の損をしないなら協力してあげたくなるのもわかる。
でもね。
「あなた達はそろいも揃ってバカですか。バカですね。そうですね」
「「「そうですね」」」
マリエルの言葉に私達三人は肯定しかありませんよ。
人を見た目で判断しちゃ駄目とはいうけど、あの人達は悪い人にしか見えないでしょう!
近づくとぐわんって気持ち悪くなるんじゃない?
「ええ、そうなのです。そのぐわんという表現がぴったりです」
「奴らが近づいてくると気分が優れないのはこちらの気の持ちようのせいではなかったのか」
思わず肩をすくめる。
『仁応ほどじゃないけどこの人達って霊力が高いんじゃない?』
私の問いかけに次々と答えが返ってくる。
『もしかしたら天変地異…災害で紛失、消失した文献にそういう血筋があったというものがあたのかもしれませんね』
『この人達の守護様っていると思う?』
『仁応は使えなかったけど、彼等なら今後少しは役に立つかもしれませんわよ』
『そうであれ、どうであれ、今は保留にしましょう』
この時間が少ない中、彼等には猛ダッシュで帳簿を持ってこさせる。
マリエルとエリカさんがそれを見る。
「あなた達、今までこの中身を見たことあった?」
エリカさんの目がすわっている。怒りを通り越して呆れている。そういう風に見える。
そんなに酷いのかとパラパラと捲る。
これは。酷い。
エリカさんじゃなくても、責任者として、酷すぎる。
何が酷いかって?
これはどうみても隠す気なんてこれっぽっちも無かったのが分かるから。
それだけこの二人が嘗められていたんだろう。
もし気付かれたとしても今回のように言いくるめて無かったことにも出来ただろうし、天使教はあの人達が来てからすぐに侵食され始められていたんだから、人柄を見抜けずに運営内部に起用した時点で負けである。この流れはあまりにも当然であった。
「今回のこの件、猛省しているのであれば商工会が手を貸すわ」
萎れていた二人はガバっと顔を上げた。その顔は目に涙を滲ませ口角は両方とも上を指している。
左右の手をそれぞれ二人の両手に握り込まれたエリカさんの腰が引けている。
さっきの言葉を撤回したいに違いない。
そんな二人に私から一言。
「その帳簿、間違ってもこの後、元の場所へ返しに行かないで下さいね」
きょとんとする二人。
「それ、不正の証拠にもなるんですからね!その分だと、他にも契約書や授受の証明書なんかも書類棚や引き出しに入っているんじゃないですか?相手も隠す気がないんだから、会話を録音するとかして言質取って約束させるとか何でも出来そうなのに」
エリカさんとチェイニーさん、ギントリーさんは凄い勢いで行動を開始した。
「あの人達、本当に使えると思う?」
「無理ですね」
「無いわ」
「ノーコメント」
私達はマリエルに結界を張って貰いゆっくり移動を始めた。




