46 跡地にて-3
エリカさんを起こして退出してもらうと私達の時間になった。
「マリエルに任せるにしたって、私達にも協力出来る事あるよね?」
「ええ、勿論。三人共頼りにしていますよ」
「では、時間が非常に限られていますので、ここからは早く正確にお願いします」
それぞれマリエルの指令に応えて動く。
私は…楽譜を渡された。
「えっ?」
えっと、何故に?
「今日の演目を変更します。演奏もカラオケにします」
「この曲って…全てウィスパーボイスですが?」
「ですね」
ですねって。まぁ、やれっていうならやってみせましょう!それこそ地球ではカラオケボックスで歌っていましたから!
「それから、衣装を曲に合わせた物を人数分お願いします」
「厳しい…」
「出来ますよね?」
「ハイ」
私は部屋へ入り、取り掛かった。
◇◆◇
僕はネコの姿で探索中だ。
この色は正直いって少し目立つ。仕方ないから、地べたに体を擦り付けて薄汚れたネコになる。
徘徊した結果──今回は悪魔は関係ないことが分かった。
「ただの性悪の仕業かぁ」
そうそう悪魔が係わる事ばかり起こってもらっては体がもたない。昨日の貴族の件だって、用心して神気に聖気に使ったが過剰であり、いかに僕達があの時に悪魔もどきを恐れたのか思い知らされた。
それを認めることは苦い。しかし、恐怖を認めた上で越えなければ今後も後手にまわったり、後一歩というところで逃してしまうだろう。負けたって命が尽きるわけじゃない。でも、負けるのは嫌だ。
二度の対峙をしているカミーユとマリエルは正直なところどのように捉えているのだろう。
最終的に浄化するのはカミーユになる。
カミーユ以外の三人の力を合わせてもカミーユ一人の聖なる浄化の力の足元にも及ばない。
僕とジルはここでは最初、聖なる浄化を全く発動することができなかった。最近になってやっとそれっぽい力を体の奥深くに感じるようになった。
つまりは、相変わらず無いに等しい…いや、無いのである。いずれ、少しは発現してほしい。
カミーユは難なく制御しているが、使うたびに潜在パワーがきちんと発現し易くなってきているような気もする。強力になっているのに操作性は損なわれていない。
考えることに気を取られそうになっていると会話が聞こえてきた。
「天使教から出て行くわけないじゃない」
「クックックッ…まだまだこれからでしょう」
「上手くやれば宗教で儲けることが出来るなんて事は歴史が証明してるもの」
「あのバカ正直な二人に任せておくなんて阿呆のすることだわ。早く追い出してやりたい」
「お飾りでいることを受け入れれば多少は分け前をあげたのに。バカなことだ」
「バカだからそんなことも判らないのさ」
ふ~ん、本当に下衆いわ。気分悪っ。
「今日の彼等、青雲のなんちゃらもこうやって慈善事業に参加するようなお人好しの集まりなんでしょう?簡単に引き込めそうじゃない。それはそうと、まだ到着していないの?脳も行動も緩いのかしら」
そんな話題が出たところでチェイニーとギントリーが現れた。何で名前が分かったかといえばこいつ等が名前を呼んだからってだけだけど。
「チェイニー、ギントリー…」
話を聞かれても平気な顔をしているのと鼻を鳴らして嫌な笑みを浮かべた者に分かれた。
「引き攣った顔してどぉしたのぉ~?聴いちゃったのかしら?」
「我々から手を引くんじゃなかったのか…!」
ギリと歯を強く合わせた音が僕まで届く。
女が胸の肉を寄せるようにして腕を組む。──色気なんてあったもんじゃない。あの肉気持ち悪ぃ。吐き気がする。
チェイニーがギントリーの腕を掴んだのが見えた。冷静さを欠かないのはチェイニーだ。
「青雲の志の皆様が到着したそうです。控え室で小休憩を取った後、準備に取り掛かるそうです。私達と接触させる予定はないので挨拶は結構ですと商工会のエリカ・ヘイデンさんから言付かりました」
「ふ~ん、そう」
「あちらに拒否されているのです!これ以上問題を起こさないで下さい」
「聴いていたんでしょう?盗み聞きなんて品性を疑うわぁ」
あんた等の品性の方を僕は疑うけどね。
僕はその場を離れた。ああ、気分悪っ。僕の役回りはいっつも損だ。
それでも、これを耳にしたのがジルじゃなくて良かったと思う。
胸糞悪いがマリエルに念話で伝えておいた。
『ありがとうございます。もう、いいですよ。リコルも戻ってカミーユとの練習に参加してください』
何~?曲全部変えただと?僕だって熱唱して晴らしたかったのに。部屋の風呂で自主練習をしてから合流するか。マリエルに見付かったら叱られるかなぁ。
やっぱ、気分転換は必要でしょ!
◇◆◇
わたしは子供の姿でうろうろする。良い服を着ているせいだろう。貴族、良家の子見えるようで無駄に絡まれることがない。ネコの姿で人と会話するわけにはいかないので久しぶりに子供の姿だ。よ~く耳をすますとわたしの容姿を天使の様だと褒める声が届く。
当たり前ですわ。この可憐な姿にはあの世の人達だってメロメロなのですから。
この屋敷のある地はかつて王城があった場所からはかなり離れている。しかも高い地にあるため景観は素敵なのだが旧王国から馬車で乗りつけるには遠く不便な地だ。だからアジトとして使われていたのだろう。
こう言っては何だが、旧王国民の生き残りは国に養われるのが当たり前になっていて復興の役には立たずであった。夢も希望も描くことを知らず、ただ生きて、本能のまま性欲と睡眠欲を満たして方陣を作動させるための生贄を生産する為だけに生かされていた。人としての尊厳なんて無い者が多くを占めていた。
宮仕えする者は国内での良家が殆んどであり、極たまにまともな神経の持ち主が一般兵の中に居たようだ。
わたしが直接目にしたのは一部である。カミーユとマリエルから聞いた話が多くを占める。
そういうわけで、今回、ここに訪れているのは聖国からの人ばかりだ。
二人から被害を受けたと感じる旧王国民が「天使教」を崇め、入るわけがないと考えるのが自然だろう。
「ねぇ、おじちゃま。おじちゃまも天使さまが好きなの?」
わざと大きな声でそこに居た偉そうにしている男に話しかけた。当たり障りのない問いだ。
わたしの声は周りの人にも届く。…今居る所は「特別」を求める人が集まっている所である。
「どこのガキ…」
わたしが笑いかけると、身なり容姿で勝手に同族だと判断したのか口調が変わる。
「私も君の父上も天使より偉いんだ。だから、好きになるのではなく天使に愛されているのだよ」
「天使さまより偉いの?」
「ああ、そうだ。神に並ぶんだよ」
「ん~、よくわかんない」
話しながら周囲を観察する。
分かったのは、誰も天使教の教徒のような真っ直ぐさがなかったことだった。
わたしの様子を嘲る。小ばかにする。子供らしいと言い微笑みながら口を歪め何も知らされていないのだと憐れむ。
特別を好む者にとって無知で無垢なわたしは蔑む対象らしい。
仕事でなければ係わる事のないこんな人達にどう思われようと構わない。…本来のわたし達を侮辱するのであればまた別の話であるが。
「お兄さん達は天使教の人?」
「お、可愛いなぁ。お嬢ちゃん、逸れたのかな?」
「ううん、違うよ。お兄ちゃん達は何であっちの教徒さん達と一緒にいないの?」
続いてここは青雲の志の熱狂的?ファンが集まっている場所である。
「お嬢ちゃんは青雲の志のこと大好きかい?」
「うんっ」
当たり前のことなので、元気よく返事を返す。
「本当は内緒なん…」
「おいっ、やめておけよ。漏れたらどうすんだよ」
「大丈夫だって。貴族の子を味方に引き込んだほうが後々ミュウちゃん達の為になるって!」
「…」
「…」
「…」
それぞれの少し考える時間が妙な沈黙を作る。
「わたしのおうち貴族じゃないよ。でも、パパはおっきいお店に勤めているんだよ!それでね、社長さんもパパもわたしも大好きだから来たの!いっぱいおめかししてきたんだぁ」
「そうかそうか、おめかししたのかぁ。か~わいいなぁ。お兄ちゃんのとこにお嫁に来るかい?」
「…わたし、ニコくんがいい!」
「振られちゃったかぁ~、残念」
ごめんなさいね、もう売約済みですの。
くいくいっと服を引っ張る。目が合ったところでにっこり微笑む。
天使の微笑みに墜ちなさい。
「大丈夫だって」
「そうか?…そうか。そうだな」
「ここだけの話だけど、実は青雲の志って天使教徒なんだよ。で、天使教が裏から応援しているんだって」
は?
「だから、天使教に入るとイコールファンクラブ入会になるわけよ」
へ?
「で、今回、新規教徒には特典があって…」
「マリエル、ということでしたわ」
「ほぉ」
「こんなことならエリカに言って正式に発足してもらう方がいいかもしれませんわ」
「検討しておきます」
「疲れましたわ」
少し休もうとしたところでマリエルに腕を掴まれる。
「何ですの?」
「全曲変更しました。練習に参加してください」
ここに悪魔がいましたわ。カミーユ、早く浄化してくださいな。




