45 跡地にて-2
ここで何が起ころうとしているのか。私の勘は?
あの、マリエルと過ごした移動時間に感じた何かいいことありそうは勘とは違うけど、でも…。
「皆、荷物は…っと、問題無さそうね。あ~、何から話そうかしら」
「時間の順を追ってお願いしますわ」
「そうね」
そう言ってもう一口、口に含んでから話し始めた。
まずは天使教の説明から始まった。
開祖はチェイニーさん、ギントリーさんの二人だという。教祖は「天使」であるため、天使の像をその天使に見立てた偶像崇拝である。この二人は本当にあれに感銘を受けて起こした多分善良な人だそうだ。
商工会ギルドに演奏して欲しいという話を持ってきたのはこの二人だった。
彼らには霊感があるらしく、復興の手伝いに訪れた時にたまたまあの土地を見付け、当時同じ様に感銘を受けて立ち上がった人々と共にその地を購入した。
あの現象と天使は多くの目に触れた。その為、天使教は教徒数が最初から多く資金も潤沢な状態から始まった。出だしは良い物だといっていいだろう。
教徒が多いということは多くの運営資金も調達し易そうであるが、そう上手くはいかなかった。
そりゃそうだろう。素人がそのような大きな団体を急に運営することになって、回せるはずがない。
教徒達が集まれるようにする為の土地屋敷の購入、象徴として必要であった像の作製で資金が尽きてしまった。
慈善団体でもなければお金持ちの気まぐれでもない。そんな彼らは当初、細々と感謝と祈りをそこで捧げ心の平穏を捧げるだけでよしとしていた。
純粋な気持ちで始めた始まりの人々はそんなものだろう。
私達、特務課での記憶と知識を持つ者にとっては、とってつけたような偽りだらけの教義なんかより感謝と祈りを捧げることを教義の代わりにしているそれは尊いものだ。
人が多くなると感謝と祈りを捧げるだけで満ち足りていた人だけでなく、欲望という願いを天使に請うものが寄って来た。欲望を満たしたいものには、それを利用して儲けようとする者が集まってくる。
チェイニーさんとギントリーさんはそんな者を「救おう」とはせずに、考えも教義も違うから別離して新しいものを立ち上げてくれと伝えた。その判断は遅かったようで「天使教」という名前は彼らにとって極上の甘い蜜に見えていた。
二人は多少霊感があるくらいで他人を「救う」なんて語るのは相応しくないという考えだったそうだ。
何々して欲しい、誰か何かに叶えて欲しい、自分以外を犠牲にすることを何とも思わず搾取することに喜びを感じるような者とは早々に袂を分けたいと、どうしたら離れてくれるか彼等に問うた。
その結果が今回のライヴを行うことであった。
エリカさんは正直、どうしてそうなったのか二人も解っていない様に見えて妙だなと思ったらしい。
でも、私達が訪れる事で活気が湧き、心が潤い、少しでも資金の工面ができばそれを手切れ金に手を切ることができる。それによって元の日々が取り戻せるのならと承諾し、商工会を訪れたということだった。
「で、それがどうしてこうなっているわけ?今までの話じゃ肝心なところに辿り着いていないんだけど」
「ですわよね」
そうなんだよね。このテンポの悪さとか、まったくもってエリカさんらしくないんだよね。
「ああ、うん。そうなのよね。自分でも色んな段取りがいつものように出来なくて…。頭が良く働かないのよね」
これは、えっと、少しまずいのかな?
なんでだろう。またしても後手後手に回っている気がする。
「エリカさん、寝不足?」
「否定はできないわね。でも、今は調子いい気がするわ」
やっぱりいつもは憑いていないものを外したからかな。
「いや、ホントどうなっているのか聞きたいんだけど、チェイニーさん達もこの状況が予想外で大わらわなのよ。なんか、幹部の人なんだか知らないけど、あの人も手を切りたい人の一人なんだと思うけど」
何だか喉が乾くわとウララの飲み掛けをぐびっと飲み干した。
「ねっとりとした目でみてくるのよ~!それが気持ち悪くて。しかもちょいちょい話しかけてくるのよ。内容の主はあなた達のことだったのよね。仕事の事ならまあ答えてもよかったんだけど、個人的なことばかりなのよ。本っ当に気持ち悪かったわ!」
あ~嫌だ嫌だと腕を擦りながらぶるりと震えて見せた。
「だからあなた達があの人達に見付かる前に隠したかったのよ」
おう…エリカさんも美人ですから。見初められたのでは?
「ちょっと!勘違いしないで頂戴。その人、女性だから。むっちりした色っぽい人だから」
まぁいいや。
「それでね、教徒さんに楽しんで貰えば財布が緩くなるっていう目論見は確かにあったのよ。でも、広く告知なんかせずに、現教徒さんだけにって私達側…っていうのは二人と商工会ね。は考えていたのよ。
こう言っちゃ何だけど、やっぱり目的と二人の人柄よね。本来、宗教って係わりたくないっていうか、中立を保つ為には無関係で居たかったんだけどね」
う~ん。だったら、何々教って名前を付けなければ、若しくは改名すればよかったのでは?
「ミュウ、それは今はいいのよ。置いておいて頂戴」
で、その幹部らしいむっちりさんに先手を打たれたと。
より多く搾り取るためにしっかり広め、私達を利用してさらにがめつく毟ろうということですか。
それはいけませんね!
私、結構、腹立ってますけど?
『カミーユ、抑えて下さい』
『無理』
『俺に任せてみませんか?』
『腹が立って収まらない!私も言ってやりたい!』
『ええ、勿論、そういう場は設けますよ』
『じゃあ、任せる。よろしくね』
腹は立つけど、ウキウキしてきた!
「というわけで、どうする?チェイニーさん達に挨拶に行く?それとも控え室が用意されているけどそっちに行く?あ~、ステージ見に行く?
はっきり言って予定外の事が起きているからチェイニーさんもギントリーさんもあなた達の安全が第一って言ってくれているから形式ばった事はいいから、とにかく身を護って欲しいって。
だからこれからの行動に私からの指示は出しにくいのよね。
あなた達って隠し玉の種類も数も豊富そうなんだもの。実際そうでしょ?」
それに私達は笑みを深くして答える。
「商工会に何か出来る事があったら言ってね」
「ありがとう、エリカさん」
「悪い仕事を取ってきてごめんなさい。えらそうにしてきたけど駄目ね私」
エリカさんの側に寄り後ろからぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫だから。エリカさんに感謝してるよ」
「ですわ。落ち込む必要なんてありませんわ」
「だよね~。ってか、ホント大丈夫だから。任せなよ」
「俺達を舐めたらどうなるか身を持って知るだけですから」
それ、エリカさんに向けた言葉じゃないよね?視線がエリカさんに突き刺さっていますよ。
「レイさん?いいえ、キラくん。それ、私?私、舐めてなんかいないわよ?」
エリカさんが土色になっていく。マリエルの顔、キレイ過ぎて怖いんですけど。
うっぷん溜まっていたのね。仕方ないか。
「もしも~し?」
「皆さん、どうしたんですか?」
エリカさん、泡…あ、白目剥いてる。気を失ったようです。




