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44 跡地にて-1

幕が下りると私達はすぐさま移動開始に取り掛かった。

空間収納にステージの物を収めていく。そして部屋に戻り着替える。馬車は商工会のひとの為に残し、私達は車のような乗り物に乗った。自動車とは違うが「車」と呼ばれている。高性能なだけあって高級品だ。地中や地面の中の何かと反応し地面から浮いている状態で走る。

馬車の方が早く安い上に専用車線が設けられているため需要がある。車は高い上に遅いので利用者は少ない。が、私達みたいにまだ整備されていない山道の強行突破をしようとする人間にとっては強い味方だ。

…私達の場合は人目につく所でしか使わないけどね。


お誘いは断ったが、また依頼人や偶然を装ったその他に誘われる事も考慮してこうなった。実際、私達の能力がなければ仮眠をとりながらの夜通しの移動になることは分かっていることなので、職員さんも多少礼を欠くけど仕方ない事だと割り切り賛成してくれていた。

外ではファンが遠巻きに屋敷を眺めている。その目も上手くかわしながら出立しなければならない。

こういう時は、マリエル様サマ、宜しくお願い致しますになるわけで。


何とか人の目を振り切って山の中へ。

その後は、車を収納し部屋へ帰った。ひと気が完全に無くなる安全圏までは交代しながらの操縦だったのでお蔭様で疲れも残る事は無い。

夜は…散々ドキドキさせらたけど、今夜は添い寝だけでした。

体調はしっかり整えて臨まないとね!






もうすぐ山をぬける…という辺りに車を出す。そろそろ人の目を気にしなければならない。

早朝ともなれば、山に入る人もいるかもしれない。気を引き締めよう。

朝食は交代で摂る。


「後どのくらいで着く予定?」

「そうですね。3時間ってとこでしょうか」

「まだ結構かかるね」

「そうですね。カミーユはあの場所に行く事に問題はありませんか?」


この地での浄化作業に不慣れで心も不安定な時に悪魔の気配を感じて、マリエルも体調が悪くなって…。まるでもう何年も前のように感じてしまうけど、そう、昔って思うほど遠い日の出来事ではないんだよね。


「うん、全く。それに悪い勘も働かないから大丈夫だよ。心配要らないからね」

「ええ、わかっていますよ」

「ふふ」


リコルとジルは私達の様子を時々見る為に顔を見せたけど、人が増えてくるまで部屋に篭ったままだった。

私達同様、二人だけの時間を楽しんでいるのだろう。

木々を眺め、少しの青臭さと爽やかさのする空気を吸い込み味わう。隣にはマリエルが居る。ささやかな幸せが私の胸を温かくし、気分を高揚させる。

また、ふふ、と笑いが漏れる。


「あ、今日は何かいいことあるかも!」


その声にマリエルが微笑む。


「俺にもおすそわけがあるでしょうか」

「ふふ」

「おや」


どうかな。あるかもしれないね。あるといいな。

漸く朝の太陽が私達にも顔を見せてくれた。

うきうきする。

今日のお客さん達にも私の幸せ届け!そして、曲珠を購入してもらって幸せの循環だ!!心もふところもホクホクだぁ!!!


アレ?





◇◆◇


「天使教主催によります青雲の志歌唱会会場はこちらです!」


私達が到着すると、そこはもう人でごった返していた。車でそこへ突入するわけにも行かないが、バレてしまうと大変なことになってしまうのも考えるまでもなく分かる。


「天使教に入会された方から順に前列になります。天使教に多大な愛を注いで下さった方には特別席をご用意いたしております。尚、特別席は数に限りがございます」


えっと、これはどうなっているのでしょうか。


「何だか聞いていた話と違うようですが…俺が聞いていないだけで三人の耳には入っているのでしょうか?」


揃って首を横に振る。


「ですよね。ここから離れましょう」

「「「うん」」」


車を下げる。マリエルがさりげなく幻影をまとわせているので気付かれる前にその場を離れる事ができた。

車を隠す。とはいっても、見通しが悪い空き地に置くだけだ。マリエルが不自然じゃない程度に車を認識しにくくしてくれた。

私達は今日は完全にアコースティックバージョンに切り替えることに決め、見られて変に思われなくらいの荷物と楽器・衣装を手に持ちこそこそと屋敷へ向かった。

屋敷の前に着くと


「「「「エーリーカーさぁ~~~~~ん!!」」」」


四人で大声で彼女を呼んだ。何故かって?だって、着いたら呼んでって言われていたから。

カツカツカツカツと靴音が聞こえてくる。うん、エリカさんだ。


「もうっ!普通にノックして人を呼びなさいよ!」


え~、自分が呼べって言ったのに。私達の文句ありげな表情を見て言葉に詰まってしまった。

何より聞きたいもの。一体、この状況は何?思っていたのと違うんですけど?

エリカさんもやっぱりその辺は分かっているようで…。


「…お疲れ様。何故かあまり疲れていないようだけど。それならそれで何よりだわ。あちらでも道中でも問題はなかったかしら?無かったわよね。そうよね、うん」


慌て気味に通された部屋は多分応接室。エリカさんはドアを施錠した。

何だかすごく用心をしている。少々ピリピリしている様にも見える。

何があったんだろう。

話してくれるのを待った方がよいのだろうか。促すべきか。改めて見ると私達よりエリカさんの方が余程疲れているように感じた。

エリカさんの視線が目頭を押して逸れている隙を見て、水筒とコップを取り出し人数分注いで配る。カミーユ特製、聖水使用のレモネードだ。一口飲んで聖水を使った物だと気付いた三人に横目で睨まれる。

エリカさんがありがとうと口に含み飲み込んだ。その時、エリカさんから僅かだが「外れた」のが視えた。

目を見開く私に三人の表情が硬くなる。

私が視たのは偶然だ。何となくそうしただけ。私は口にしようと近付けたコップを飲まずに下ろした。


この場所はもうしっかり浄化され、聖地として百年位は使えそうな場所だったはずなのに。

ううん、そうじゃない。この地は聖地のままなんだ。

悪霊との接触があったとか、邪気に触れたとかそういうことなのかもしれない。

聖地で悪霊が活動…できるか。弱いものは近付けなくても、ある程度の強さを持っていれば問題なく活動できてしまう。浄化するのは大変だけど、穢すのは誰もができること。

国の中でこの屋敷と礼拝堂には陣が敷かれていた。そのように使うのに都合が良かったという理由をつけるとして、「どんなところが都合が良かったのか?」というのを考えなくてはならないのかもしれない。

まだ、あの件は終わっていないということなのだろうか。

出した被害の大きさを思い出すと胸が痛む。

仕事だと割り切ったのも、あれであの件は終わり、これからの事は本当のこの世界の民が背負う事だと思ったからなのに。

ああ、この世界はなぜこんな事になってしまっているんだろう。リーヤ、エンジュ、ユリウス…私達を助けて。


ミエナイヤミガフカイ。

ココロガオレソウ。


「カミーユ!!」


肩を揺すられた?首ががっくんがっくんと揺れて少し痛い。


「早く飲んで!」


マリエルが私にコップを手渡す。背中に掌が添えられ聖気を流された。

頭がクリアになっていく。スッと抜けたソレは天上そらへ還っていった。

油断した。

ただその一言に尽きた。


私の勘は何も言って来ない。勘が働かないのか、アンテナに引っ掛かる程の事ではないということなのか。


「ミュウ、大丈夫?平気なら話を聞いてもらっていいかしら?」

「うん、大丈夫」


そう、大丈夫。情報も時間も無い。まずは聞こう。

そうして、エリカさんの話が始まった。


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