42 企みと企画
マリエルも偵察から戻ってきた。
リコルからの話を聞いた結果、公演の終了と共に移動に入ることにした。予定を変えて、演奏の後半を生演奏にしないでカラオケを使い演出を特別仕様にし、終わりの数曲はアコースティックバージョンにして、それまでに機材を仕舞い幕が下りてる間に撤収とすることにした。
今回、エリカさんは同伴していない。が、代わりの人は来てくれている。この人はこの依頼の担当者という扱いになり同行はここまでで終わり次第帰る。ちなみにエリカさんは強行日程は嫌だということで先に教会のある地へ赴いている。受けておいて酷いものである。文句の一つでも言いたいところだが、ここから教会までは四人で行動できるので正直楽チンだ。
その同行者の商工会職員さんは別行動にしてもらっている。
私達が断った諸々はこの人にお願いしてある。金銭のやりとりも私達が依頼者と直接係わらないように手配済みだ。
こういう時に、商工会の手を借りておいて良かったなって。
面倒な事はエリカさんを窓口にお願いします!ってね。
変に下に見られて余計なトラブルが起こらないように、今日は貴族の正装だ。某アイドルグループの様に早着替えができる細工も施されている。ウララの髪は私が気合を入れて巻いて、編み、まとめあげた。ニコの髪はねじってピンで固定した。ふわふわだからこれだけで華やかになった。キラはオーラ出まくりなので顔周りだけを残し耳に掛け上品な飾りが施されているヘアピンで留めただけだ。
私の髪は、一番弟子マリエルが片側にボリュームしっかりのまとめ髪にしてくれた。普段下ろしていると気付かなかったが、まとめたら頭が重い。…首から引っこ抜けたりしませんよね。ああ、重い。早く慣れたい。
ドレスも動くのに支障がないようになっているし、歌うことが前提なので胸、腰、お腹周りを締め付けるなんてことも無い。私もウララもスタイルいいんで締め付ける必要もない。ちょっと自慢だ。わざわざ誰かに教えるわけでもないんだけどさ。
こうしてこちら側の支度は全て整った。
私達を手に入れたいあの人達は何をしてくるのかな。
会場入りをして、待機をしながら聖水を飲む。身も心も清んでいくような気分だ。
あんな会話を聞いたあとでは、とてもではないが、というか益々提供される飲食物を口にするのが躊躇われる。変な薬でも入っていたら大変だ…私達に異常が出ない可能性が高くて。
外で何かを口にする時って、浄化を使ってしまうから。
以前は『清浄化』『(聖)浄化』とか気持ちの上で区別があったせいか効果に差があったけど、清らかにする事は全て『浄化』でいいやって割り切ったらそれで成るようになってしまった。複数あるとパッと対応できないかもしれないし、面倒くさいからなるべくこういう風に他の事も広く使えるようになりたい。
ステージの幕が開いた。
いつもの様に歓声に包まれる事はない。
見渡すと、うずうずしているのを隠し切れない人も居る。澄ました顔の人も多い。
静かに挨拶を済ませて早速演奏に入る。
着席したまま聴いている。この状態ならコール&レスポンスも無駄だなと止めておく事にする。
でも、それならそれでいい。
その分、たっぷり聴かせてさしあげましょう!
それでは、その前に。
『カミーユ、しっかり聴いてもらうために先に浄化しましょう』
『ピンポイントでいけるかなぁ?』
私は基本歌に集中のため、視る作業はおまかせだ。
『そうねぇ。大した事ないと言えばないんだけど、何だかムカつくからあっと驚かせたい気分ですわ』
ジルが攻撃的だ。どうしたんだろう?
『わたしの大事な人達を己の感覚だけで幸か不幸決めるあの感性、虫唾が走りますわ!』
『ジル、僕があんなのに傾くわけないだろ?』
『そんなこと分かっていますわ。1千年経っても揺らがないのなんて誰よりも分かっていますわ』
『嬉しすぎて、素が出そう。あいつらに見せるの嫌だから、あんまり僕を喜ばせないで。僕、なんかものすごく恥ずかしいんだけど。何か色々ヤバイかも。溢れそう…』
おお…!二人のそういう事に口出ししないでいたし、あんまりまじまじ見ちゃ悪いから全然気付かなかったけど、こんなに熱々になっていたんだ。驚きだけど、素直で真っ直ぐな想いを見ることが出来たのは心が温かくなる。
うん、いい!!
一人勝手に気持ちが高揚する。それは彼等にも伝わってしまったようで、「もう。好きにして下さいませ」という呟きが耳に入った。
『ミュウ!ミュウ!』
『先走らないで!ミラーボールの光に合わせて出して』
おっといけない。男性二人を焦らせてしまったようだ。
「~~~♪~~三日月~♪~~~めて~~♪」
最初の1曲を歌い終えた。想い入れの深いデビュー曲だ。そのせいか、神気を乗せ易い。会場が派手な光に包まれる。
何度歌っても私の中で特別な曲である。
もう1曲歌い、キラに代わる。今度は私もコーラスだ。
ここには幸い、悪霊たっぷりの人は居ないお蔭で具合が悪くなって退席する人は無い。
今はウララが歌っている。私よりも可愛らしい声が会場に響く。
「♪~~言葉~~♪~~~~♪LOVE~~~」
ウララの驚かせたいはここで来た。
多分仕込んだのはマリエル。でも、その仕込み、品がありませんよ。マリエルらしくないけど、何だからしさも見える選出である。
巨大なパーティクラッカーをニコとキラが放つ。
パ~ン!!という大きな音と共に中味が会場に散らばる。
造花・虫のおもちゃ・精巧な爬虫類の人形が紙テープ・紙吹雪と共に客席に降り、沸かす。
どういう風に細工したのかさっぱり分からなかったけど、純粋に楽しんで下さっている方には造花が届いたのは判別できた。…もしかして手動で振り分けた?、ハハ、まさかね。
振りを装ってステージ上を歩く。会場と三人の顔を見る。
凄くイイ笑顔の三人に少々眩暈を…そこはお腹にぐっと力をこめて耐える。
客席では…腐っても貴族。自尊心にかけて醜態はさらけ出せないと引きつらせたのを隠そうと必死である。必死すぎて他の人が見えていないようだ。
造花組はニコニコである。小さな悲鳴を漏らしただけで済ませた女性達もさすがだ。男性の中に手にしていたグラスを落とし、飲み物を股間にこぼした姿には思わず吹き出しそうになった。
依頼人は…。
お嬢様の頭の上に蜘蛛が鎮座している。すごく自然に馴染んでいる。最初からそこに付けてある飾りのようだ。胸元の開いたドレスから見える谷間に縦にすっぽりとゲジゲジが挟まってコンニチワと顔を出している。更に右肩にカマキリ、左肩にイボガエルがちょこんと据えられていた。
お坊ちゃまの右耳に脚が引っ掛かってぶらさがっている殿様バッタ、左耳には立派なアゴで挟まれてイヤリングのようになっていコクワガタ。手の動きを交えて少し談笑していたのか、その手の上に巻き…のようにとぐろを巻いている蛇。息を止めたいという願望の現われなのか、顔面に張り付く透明な蛾。
ものすごく悪意を感じます。
かまいやしませんが、少~しばかりやりすぎって気もします。うん、少し、ほんの少しだけ。
◇◆◇
到着の知らせが届いた。わたくし自ら迎えて差し上げましょう。
キラ様、キラ様!、キラ様!!間近でわたくしを見てくださいませ。この美貌と尊き貴族としての心得を得とくしているわたくしはキラ様のものですわ!誰もわたくしに代われませんのよ。
わたくしとお兄様は貴族街の至宝ですわ。
腐った名ばかり貴族と違い、民のことを想っていますもの。
あの女達だってお兄様に囲われたほうが幸せに決まっていますわ。お兄様の器の広さと深さに感謝する姿が目に浮かびます。
ああ…!キラ様、キラ様、キラ様…!
え?挨拶も無しで準備に入られた?
そう。仕事熱心ですのね。
差し入れを。
え?関係者以外立ち入り禁止ですって?
わたくし、主催ですもの。関係者ですわ。
メンバー以外厳禁?あの女達の差し金かしら。軟禁状態なのですわね。
お兄様、会えなくて寂しいですわ。
お兄様も直接はお会いしていませんの?
…幾らキラ様でも、少々見くびりすぎじゃございませんこと?
でも、いいですわ。芸術家肌のかたは世の事に疎い方も多いですから。少しずつ覚えていって下さればいいことですわ。
こんな冴えない男が代理人ですの。四角四面な対応でつまらないわ。
所詮は庶民でしかないということですわね。
開演前に激励に…。会って下さらない?そう。
プログラムによると…ああ、休憩時間がございますわね。
遅効性の薬で体調不良を起こしていただきましょう。安静と静養が必要になりますもの。我が家にお泊り頂く事が最もいいことですわ!至れり尽くせりのわたくしと愛にが芽生え、そして深まっていきますの。
巷での人気が耳に入り、こっそりライヴに伺い。その時目にしたもの忘れませんわ!
手を振ったら振り返してくださいました。何度も目が合いましたわ。
これはもう運命。
お兄様、ライヴのあと労いの催しがあるのでしょう?
え?断られた?
スケジュールが詰まっていて時間がとれない?
でも、いいですわ。どうせ体調を崩してしまわれるのですもの。多少吐いたり腹痛があるかもしれないけど、ステージにドリンクを用意しておけば必ず口にするはずですわ。
え?持参したもの以外何も口になさらないですって?
ああ、そうですわ!
とても素敵な考えが思い浮かびましたわ。
わたくしが青雲の志に入ればいいのです!
これでも歌には自信がありますの。先生にも褒めていただけてますもの。
お見送りの前に必ず時間を摂ってみせますわ。必ず歌を聴いて頂き、わたくしが無くてはならない存在だと心に深く刻んで頂きますわ!
噂ではキラ様がミュウという女と恋仲だと言われていますが、宣伝のためのネタであるに違いありません。わたくしが加入すれば、そのような下品な話題などなくても十分宣伝できますわ。
ああ、なんて待ちどおしいのでしょう。想うだけで胸が高鳴ります。
キラ様。まだ隣には並べませんが、もうすぐです。お待ち下さいませ。
な、な、な…!!!何ですの?
「お嬢様!む、虫が生えていますっ」
何が起こりましたの?
落ち着きなさい、わたくし。
「せっかくの催しにそのように慌てるのではありません。わたくしのところには偶々このような玩具がふってきただけのことです」
努めて冷静を装い胸を見下ろす。
「…」
「お嬢様?」
何ですの。花に喜んでいる方も居るというのに、なぜ虫?
でも、いいですわ。わたくしには後でキラ様との時間が待っていますもの。
「取ってくださる?」
「はい、かしこまりました」
…お兄様、息苦しくないのかしら。
…あんな冴えない中年に花が渡っていますわ。
…あそこの婦人にも。お兄様と同い年のあそこの子息にも。
…蠍が髪に突き刺さっているのも、花飾りにカメムシがポイントになっているのも…わたくしの友人ですわ。わたくし一人がハズレを引いたわけではないようですわ。
ちょっと、胸が空きましたわ。
キラ様。わたくしのキラ様。
名前も無いお嬢様の暴走でした。
いつもお読み下さりありがとうございます。




