4 立ち読み
お腹にぐっと力をいれ、鼻息をひとつフッと出し気合を入れると気を取り直し再び歩き出す。
それにしても、現状、生きることに無くても困らないとはいえ、現金がないというのは不安である。今は気持ち的な不自由だけであるが、遠からず不便になるだろう。改めて考える。
ここは何て言う所なのだろうか?…という事で、この世界の大雑把な地形や国の配置を知りたいと、地図を探して本屋に行ってみることにした。…あるよね?本屋か図書館。
大通りを歩いていると案内板を見掛ける。こうやって案内板や町の看板を見ると、文字は日本語に見える。本当に日本語なのだろうか?意識して『言語変換機能』を使ったり切ったりしてみる。見え方は変わらない。どうやら日本語のようだ。が、『言語変換機能・自動翻訳機能』が働くのかは、この環境じゃ判らないといえるだろう。自分ではオンオフしたつもりでもできてるのかが判らないのだから。機能については保留で。
さて、何故日本語がこの世界で同じ様に使われているのかも気になる。『神子』絡みなのだろうが。忘れなかったらついでに調べてみよう。
そうこうしていると本屋に着いた。
つい、今までの癖でドアの前で立って待ってしまったが、自動ドアではなかった。幸い誰も見ていなかった様だが恥ずかしくなり赤面してしまう。わざとらしくコホンとして、改めてドアをくぐった。
大手の書店ではなく、昔ながらの個人店舗の本屋というかんじだ。目当ての地図のコーナーに行ってみる。他の本も興味はあったが、ざっと眺めてみても残念なことにあまり充実していないようだ。さすがに羊皮紙ではなくパルプが使われているみたいだが、だからといってマンガ本や雑誌があるわけでもなさそうである。
早速地図を開いてみる…………これはナンダ?あまりの完成度の低さに1度閉じて表紙を確認してしまう。子供の落書きの様なものであった。うん、要らない。
歴史書のコーナーへ移動してパラパラと捲って流し読みをしてみる。それだけで日本語が普及している理由も、思ったより近代的である理由も分かった。
◇◆◇
簡単にまとめるとこういう事だった。
この国『聖国ショイホーチ』もかつては『オーカム王国』の都市の1つだった。
乱心したオーカム王国国王によって国内は乱された。国王に付いた者達は王都を含む国土の大部分を何かで覆ってしまった。
その時に体調を崩しながらも何とか自力で脱出した者、王国を覆ったのが邪気や悪霊である事に気付いた聖職者の尽力により脱出できた者達によって、聖国ショイホーチが興された。
オーカム国王はどの様にして手に入れたのか分からないが、多くの民の命を生贄にして、異界から先読みができる神子、《予言の巫女》を召喚する方法を知り得た。《巫女》であるのは初めて召喚されたのが《清らかな乙女》であったからだといわれている。
神子の《予言の能力》がが尽きる頃になると次の神子がくる予言を視るという。そして新たに神子を召喚し、その頃、何・故・か・心身共にボロボロになっている前の神子は処分されていく。
生き延びた神子と助けた人の話によると――――
国王は殺す様に命を下すが、見目の良さからこっそり手元に置く者がいたり、森に捨てられる事もあり、運良く命を繋いだ神子が奇跡的に気力を取り戻したり、自衛の為に閉ざしたり飛ばしていた精神・心が戻ったりで、彷徨っているうちに聖国ショイホーチに辿り着き保護され手厚い介護を受けた。
ショックからなのか、悪霊の影響なのか…王国から出た神子たち全てが王国での記憶を所々、神子によっては大部分を失っていた。王国の言葉を話す事も出来なくなっていて、聖国の民は言葉を教えるが何故か誰一人として覚えることができなかった。聖国国民の中に好奇心と親切心から神子の言葉を覚える者が出てきた。神子達は、恨みを晴らす為か厚意や善意に応える為か、地球に帰る為か、余生を快適に送る為か…神子達の心の内はわからないが何かを伝えよう教えようと図面を書いたり文字らしきものを書いて説明しようとする。神子の言葉を理解した聖国国民は専門的な内容を理解できず、応えようと職人と聖職者が神子の母国語である日本語を学び始めた。得た知識の記録・保存、神子の知識・教養をより多く深く得たいと考えた聖国政府は国語を日本語に変えた。それによって、聖国ショイホーチは近代化し現代的に変容してきている。
いまや王国語は古代語扱いになっていて、話せる聖国国民は少なくなってきていた。
◇◆◇
この歴史書の通りであるならば、オーカム王国へ行くべきなのだろう。幸いな事と言っていいのか、聖国ショイホーチに知り合いができたわけでもないし、自分が召喚された人物である事も知られていないのだから。
召喚された…という事は、最初に墜ちた地はオーカム王国なのだろう。そう結論づけて、森に戻ることにした。
なんか臭い。やっぱり匂いが気になる。
これは上下水道の整備の差なのか。
何処からか腐敗臭といえばいいのか、生ゴミよりもっと吐き気をもよおす生臭さ…田舎の香水と表現されるあの匂いとも違う、嫌な酷い匂いがしてくる。もどしそうになるのを耐えて、とにかく見付からない様に元の場所に戻ると部屋に入った。
冷たい水を飲む。顔をザブザブと水で洗う。吐き気も治まったので着替えてベッドの上にゴロリと横になる。
「さぁーて、どうしたものか」
腕を額にのせて目をつむる。冷たくなった腕の温度が気持ちいい。
カミーユができる浄化の仕方は幾つかある。
まずは、『聖水』の利用。掛けたり飲んだり飲ませたりで祓う事ができる。
つぎに光、『聖光』とでも言えばよいのだろうか。この光、アニメやゲームの映像加工の様に大層派手なので、何かのショーの演出や神懸かった事象の時や誰も見ていない時じゃないと使えない。
3つ目は大地や大気に散っている悪霊を纏めてドッカーンといく。…溜まり具合によって、暴風雨、雷くらいで済む事もあれば、大地震や火山の噴火…最悪、大陸の隆起や沈没が起こる。その星で生きてる人間を含むあらゆる生物にとっては大事であるが、『星』という生命体にとっては、熱がでる・痰を吐く・膿を出す・咳くしゃみをする…そんな感覚でしかない。
歴史書の通りの歴史の積み重ねであるならば、邪気と悪霊が地震が起こる位溜まって貯まってしまっているだろう。
国が崩壊するけど、どうしようかなぁ…なんて考えている間に眠ってしまった。
ぐぅ~~~…ゴゴゴゴゴ…………(・・・)
自分のお腹の音で目が覚めた。
午前中から出掛けて、昼食も何も食べずに夕方まで眠っていたらしい。
「お腹すいたな…」
手足をんーっと伸ばして起き上がる。
「おや、カミーユ起きましたか。先に食事にしますか?」
麗しき乙女の部屋、しかも寝室で更に乙女が眠っている無駄に広いクィーンサイズのベッドに腰掛けてくつろぐ男が、穏やかな笑みを湛え(たたえ)スッと立ち上がった。




