38 成功
その後の私達の活躍は派手といってもいい位であった。
エリカさんが完全に青雲の志の担当になった事が大きいだろう。商工会ギルドって公の施設なんだと思っていたらそうではなかったのだ。本当に、どんなに似ていようとも何事も日本と同じというわけではないと知らされた。お隣の職業斡旋所の方のギルドは国営らしい。
そのエリカさんだが、能力が高く実績があるからこそ職員になれたそうだ。つまり、一見冴えないおっさんだろうが天然ちゃんだろうが、素直さが足りない捻くれた人だろうが、ただの気のいい人に見えていた他の職員さん達、、並びにその彼等が仕事を依頼する人達もまた、優れた能力を持つ人達であったのである。
だからこそ私達発信の新しい事にも対応が早く、滞りもなかったのだと後で教えられた。もっと欲を出して仕事をしたらいいのになんて思ったけど、今回みたいに面白いとか気に入ったとかがないと腹の底から湧き上がるような気合もいれることができなかったりするんだそうだ。頑張りすぎて体を壊すよりいいとは思う。
そうして、その後5回の追加公演も無事終わり、曲珠も追加したが今現在手元に残ったのは10個だけである。
自分で言うのもなんだが大人気である私達がコンサート会場でしか販売しない曲珠は「一般の店頭で買えない」と言う点で不評ではあるが、増産する予定もないし売り方を変える予定も無い。
どんなに売れようが、事務所に所属していない私達は自費出版であるからだ。管理のことを考えると手広くはしたくないし、ずっとこの国に滞在し続けるわけではないのだから。
美形揃いの四人組みであるため写真集も熱望されているが出版予定はない。
そんな風に、特務課の仕事はさて置き、歌手活動が充実している中で1つの依頼と1つの情報が届いた。
情報の方は、あの例のお屋敷が「教会」として改装されるということ。依頼は、貴族街から公演の依頼である。
「で、ね?わざわざギルドを通して依頼が来たわけなんだけど。直じゃなくてこっちのギルド通してってとこがなんかイヤラシイっていうかね」
「ミュウ、受けますか?」
「断るよ。やっかいな事が待ち受けていますと言わんばかりのエリカさんの前振りまであるんだもん。行くわけないでしょ」
『勘は?』
『嫌なものしかない!』
だって、「旧オーカム王国」って言われるようになった地区だよ。
勘が働かなくても断るに決まっているじゃない。
そもそもギルドでも貴族街で働く事は止めた方がいいって言っていたよね。名前も知らない、匙投げたお姉さんが言っていたよね。私、ちゃんと覚えていますから。
今や貴族とは名ばかりであってオーカム時代を引きずる人達が住んでいるだけの地区。
名ばかりだから、多分領地経営をしているわけでもなく収入も不安定で金遣いは荒っぽく見栄っ張り?
殆んど想像だけど…そう聞いて誰が行くかっていうのよ。自己顕示欲は高く、埃、もとい、誇り高いと勘違いをしていて?…多分。お貴族サマの悪い方の定番だよね。
つくづく思う。髪結いに執着しなくてよかった。
ところでこのご時勢に貴族サマってどうやって収入を得ているんだろう?仮に引き受けたらちゃんとお支払いしていただけるのかしら?
疑問にはエリカさんが答えてくれた。
「どうかしら?踏み倒される可能性もあるし、逆に囲ってやるから払えって言われるかもしれないし。
予想の範囲内だと思うけど、最悪、強姦されたり、嫁や婿、愛人、愛奴隷を強要、断ったら命が無くなるとか。もあるかもしれないわね。だから断るのは賛成よ。あ、そうそう。あんなのでも一応、土地だけは持っている人も居るから農地を貸し付けて収入もあるし、物を作らせてる人もいるわ。今回の依頼人が頭悪い部類の貴族ってだけよ。気位が高いのは仕方ないわね」
「うわぁ。そりゃまた酷い」
「にも程があるでしょう。ということで、正式にお断りをお願い致します。あなたほどのやり手ならその場で断る事もできたでしょうに。全く」
マリエルがヤレヤレと肩をすくめた。
エリカさんは「一応聞くことになっているのよ」苦笑している。
お勤めご苦労様です。
「あ、そうそう。貴族街に住んでいても水に馴染めず普通にこちらへ働きに出ている人もいるからね。そういう人はまともよ。あっちも色々ってことね」
ふぅ~ん。そう聞いてもやっぱり嫌な感じはするもの。依頼は絶対却下です!
ということでおかしな事が起こる前にマリエルと二人で商工会ギルドをあとにした。
あの屋敷が教会と改装されるということだけど。それって、あそこの聖気を感じ取れる人が居るってことだよね?
仁応くんみたいなのじゃなくてきちんとした人も居るってことでいいのかな。
それにしても、皆、隠れるの上手すぎない?全然見つけることができないんだもの。
でも、今度は当たりだよね。そうだといいいなぁ。
そんな事を考えながらその場所へ向かう。勿論、テレポートだ。
テレポートを使ってばかりで近距離しか足で移動していない。
この街にすっかり馴染んだつもりだけど、路面電車の使い方もよく分かっていないし、この位の期間住んでいればもう常識であることも実は知らない事だらけだ。…うん、よくないね。
運動不足にはなっていないと思う。体、重くないしプニプニじゃないし。うん。
「カミーユ、何かおかしなことを考えていませんか?」
「全然。ちょっと移動手段を能力に頼りすぎていているかなぁっていう反省をしただけだよ」
「そうですか。でも、確かにそうですね。人目に触れる機会が多くなってきているので、他人からは少しおかしいと思われる事もあるかもしれませんね。それに引越しも検討する必要があるでしょう」
「ですよね」
一つずつ片付けていかなきゃって思うのに、あっちこっちに気が移る。
まず、貴族の依頼は断ったからよし。とはいってもこれで済むとも思えないけど、置いておく。
教会が出来る事については様子をみてからでいい。先送りともいうけど、気にしなぁい!
ということで、引越しが一番最初だ。
「やはりおかしなことを考えているじゃないですか。まずは、どれを優先するか相談するんですよ。そこからです。忘れているかもしれませんが、吟遊…いや、もう新しく【歌手】という吟遊詩人とは別であると周知の必要があると思いませんか?ねぇ、歌手の方がしっくりくるでしょう?それと、能力についてももう呼び方が通じれば略してあろうが何でもいいになっているでしょう?実際それで通じているのだからその辺りもいいですけど。カミーユに言って通じるかどうか分かりませんが、日本人ぽいなぁと思います」
「ハハ…は?」
ちょっと笑ってみたけどよくわかんなぁ~い、てへ!!
…そうだね。報告、連絡、相談だね。
「じゃっ、マリエル。今日は路面電車で帰ろう!」
「もう、アパート見えてますよ」
「え?」
あれ?お屋敷を見に行こうとしていたはずだったんだけど。
「考え事とおしゃべりであっという間に過ぎましたね。確かに、こうやって手を繋ぎ並んで歩くの良かったです。また二人で歩きましょう?」
うん、もうアパートの前でびっくりだけど。久しぶりの少しだけのお散歩。こうやってマリエルが喜んでくれるだけで嬉しいな。大事な人が向けてくれる温かい気持ち。こんなにも胸がほんわかする。
こういうの、暫く忘れていたなぁ。
「今度はデートしようよ!ミニスカートを流行らせたいなぁ。可愛いのにな。何か方法ないかなぁ」
マリエルとデートらしいデートってずっとしていない。仕事が充実していたし、部屋でも愛されていることを十分確認できていたから。マリエルの為におめかししたいな。今の私が美人なのは知っている。それでも、マリエルにキレイな私を見て欲しい。
「ほら、また決めているし。でも、俺との楽しみについてですからこれはよしとしましょう」
ふふ、ウキウキするなぁ。
軽い足取りでボロアパートのドアに鍵を挿した。
教会へ向かっている途中、考えに没頭していたカミーユを見て、今日は止めた方がいいなと判断したマリエルがこっそりテレポートしました。




