37 大地と天上(そら)
37話を書き直しました。
全く違う話の内容になっております。
私達は寄り道もせずにまっすぐ仁応くんの住むアパートを訪れた。
そこは男性が二人で住んでいたのだという感じが残っていた。
殺風景と思えるほどに物が少ない。二人ともキレイ好きだったようでわりと片付いている。換気もこまめにしていたのか、年頃の仁応くんが住んでいるのに男臭いということもない。
仁応くんに断ってから全ての部屋を回る。
悪霊が残っていることもなく、あの悪魔に繋がりそうな手掛かりも残されていないようだ。
「仁応くん、私達が手を貸すのはここまでだよ。たまたま居合わせただけなんだから」
「えっ?」
戸惑う仁応くんをこのまま放置するのは薄情かもしれない。けど。
「俺達は慈善事業をするためにここを訪れたのではありません。君にも同じ様に君が成すべき事があるでしょう。少しばかりの縁は結びましたが、俺達とは他人。保護や世話を期待されても迷惑です」
「そんなこと思っていない!…僕だって守護様が付いていてくれる!!あなた達と同じ特別な人間なんです!!」
その答に「ああ、残念だな」と、肩を落としてしまう。守護様の気配が揺れた。
「僕だってやれるんだ!今までの僕とは違うんだ!」
ああ、こんなに簡単に悪霊が寄ってきた。
うん、素質はある。何かしらの使命があるのかもしれない。でも、まだまだ幼すぎる。悪いけど、私達は素質があるからといって面倒を見て育ててまで仲間や同志にしようとは思わない。
「周りを霊視してごらん」
確かにこれだけの力を制御もせずに放出しっぱなしで、何の根拠もない自信を撒いて。でもその自信だと思っているものはただの驕りで。ほ~ら、悪霊にとってはなんて魅力的だろう。悪霊だけじゃない。成仏したい霊だって、こんなに強い力なら還してくれるって期待して寄って来る。使いこなせなければ却って危険なもの。
そんなことも解っていない。制御できなければ命を脅かすことにすら気付かない。
守護様の力は、あくまで守護様のものであって仁応くんのものでない。せっかくの真理も知った気になっているだけ。
悪霊の力と守護様の力は紙一重。だから人は霊能力との区別がつかなくて騙される。全く反対の力でありながら、使い方・見せ方によって同じものにみえてしまう。力の証明は難しい。何でも出来るわけでもないから変に期待されても困るし、人間が望んでも守護霊が望まない事だってある。
さて、今の霊視は守護様がしてくれたことに気付いただろうか。
守護様とマリエルの結界が護っている事に気付いているだろうか。
開いてしまった光の道を閉じる事はできない。どんな方向であろうとも進むしかない。
仁応くんのお母さんがどれだけ優秀であった課は知らない。でも、仁応くんを育てる時間を惜しんで、タイミングを逃して、そして教育を殆んど施さないまま亡くなってしまったのは失敗だったといえるだろう。
しようと思っていなかったとは思わないけど。
力を持たない人が大半の中で、他人と違うことで心に傷を負うようなことがあったのかもしれない。
もしかしたら、力が強い故に使命に縛られて疎んでいたのかもしれない。
ま、そんなことは私には解らない事だ。それに、使い方、真理、能力、仕組み、その他諸々を教えなかったからといってお母さんのことも仁応くんのことも責めようとも思わない。
冷たいようだが、所詮、他人事だから。
「いずれは私達に追いつくかもしれない。でも、今、その力はまだ本当には仁応くんのものじゃない」
「守護様。俺の結界を解きます」
《仁応、わたしもあなたの護りを解きます。そして残るもの、それがあなたの今の実力です》
二人が解くと、仁応くんは靄に覆われる。
霊能力を意識できるようになった為に今まで以上に重さを感じている。そして、その重さに耐え切れずに膝を着いた。呼吸すらも苦しいのだろう。呻く声が届く。
守護様も仁応くんが堕ちてしまうと声が届かなくなる為、この荒療治を許してくれている。
ううん違う。守護様さぁ、教育までこっちにさせようとしていない?
「丸投げ?守護様さぁ、ちょっと怠惰すぎない?気のせい?気のせい?そんなだからこの星まずいことになっているんでしょう?」
あ~あ。何でだろう。
せっかくの楽しかったコンサートの余韻を楽しむことなく後輩の育成させられそうだったなんて。
…課長、任務内容の確認したいんですけど!
もうっ、この星、見捨てちゃうぞ!別に、どっかん連発して浄化しまくって他の土地を渡り歩いたっていいんだから。
………………あれ?…複数の声で「マジやめて」「ごめんなさい」とか聴こえる?
守護様を見る。目を逸らされた!!
守護様、ふ~ん。か~な~り、上位なんじゃございませんこと?
ほう。
随分と怠慢だったようで。ふざけんじゃない、ですわよ?
天上がそんな考え方なわけ?ありえない。地球あの世に押し付けようっての?
不干渉を曲げてまで頼み込んだくせに?
「守護様。相談には乗ってもいいよ。でも、しばらく協力はしないから!」
「守護様、仁応をしっかり育てた後なら協力もします。むしろこちらから協力を乞うかもしれません」
「「それでは」」
言いたいことだけ告げて背を向ける。
見ているのは守護様だけ。遠慮なく瞬間移動でジルとリコルの元へ戻った。
「もうっ、なんかムカムカするっ。こんな思いするのも全部異世界あの世と悪魔のせいなんだから!魔法陣全部ぶっこわしてやるんだから!!」
「そんなに荒れないで下さい」
「少しくらい吐かなきゃやってられないんだからっ」
「主役!どこ行っていたのよ。探したわよ」
エリカさんが手を振りながら走ってきた。
私達のライブの成功を祝ってくれるために飲み会を準備してくれていた。
その心遣いに胸が熱くなる。異世界にだってこんな素敵な人だっている。ムカムカなんか吹っ飛んだ。嬉しすぎる。
感謝を言わなければならないのはこちらだ。
彼女の協力と指揮がなければこんな大成功で終わる事はなかっただろう。感謝しきれない。
段取りと指揮がよかった為、コンサート終了後の曲珠の販売時間のうちに会場の片付けがおわってしまい、曲珠の売れ行きも良かった為、その後片付けも早く終わったそうだ。
飲み会の場にはエリカさんは勿論、スタッフ、商工会ギルドの見慣れた職員さんも揃っていた。
「青雲の志、 デビューコンサート成功おめでとう!」
「「「「「そして!」」」」」
「曲珠完売おめでとう!!乾杯!」
「「「「「かんぱ~い!」」」」」
熱くなっていた胸が益々熱くなる。
目頭がじ~んと熱を持つ。
目尻から涙が流れる。
感謝を伝えたい。ありがとうって伝えたい。この溢れる気持ちを届けたい。
今、この時間は任務を忘れてもいい時間。
この気持ち届け!
「キラ、ニコ、ウララ!!」
「まだまだ行けましてよ」
「ほい、マイク!」
「準備OKです」
いつの間にか楽器やアンプが用意されている。
私がしたいことなんて皆お見通しかぁ。
「皆さんありがとうございます。大成功に終わったのはエリカさんを始めここに居る皆さま方のお蔭です。私達だけではこうはいきませんでした。お礼と心からの感謝の気持ちを込めて」
私達が歌った後はカラオケ大会のようになっていた。今日がデビューだった私達の曲を歌ってくれる人も居た。
私達もなるべく皆に声を掛けて回った。
マリエルもジルもリコルも笑っている。
楽しい時間だった。また、コンサートしたい。私達の歌声を聴いてほしい。
会場からは少しずつだが人が減っていく。
次はどこで飲むか相談する声も聞こえる。
少ししか飲んでいないのに、いつまでも気分は高揚したままだ。
酔っ払いが多くなって掛けられる声がちょっと鬱陶しくなってきた。
もうすぐお開きかな。でもいいや。まだいい気分のままだ。
するりと部屋を出て、ぼんやり外を眺める。
「カミーユ」
声と共に肩に腕が乗る。
お酒で酔ってしまったのだろうか。熱を孕んで潤った瞳をしたきれいな顔が寄って来る。
その熱さがこちらにも伝染ったかのように私も熱くなる。この人の色香も私を酔わせる。
顔が私の頬に触れる。
それに反応したかのように私の腰と膝の力が抜けガクッとなる。
すかさず、マリエルの反対の腕が腰を支えた。
「ありがと」
唇を耳元に寄せてくる。なんか恥ずかしいし、くすぐったい。
「どういたしまして。チュ」
耳元でささやかれ、耳にキスをされ。体温の上昇が止まらない。
かすれる声で何かをささやく。
「何?」
尋ねると肩に乗っていた手が腕を撫でおりて私の手を掴んだ。その手がスラックス越しの…に当てられた。
また何かを耳元でささやかれるが聞き取れない。触れさせられている手に神経がいく。
熱さに耐え切れなくなってくる。あつい。切ない。恋しい。愛しい。
「マリエル、二人だけで二次会したいな」
肯定を示したのだろう。首筋を湿ったやわらかいものが這った。
そっとカーテンの中に入る。そして部屋へ。
『ジル、リコル。飲みすぎちゃったみたい。私達先に帰るからね。エリカさん達によろしく』
「エリカさ~ん、ミュウとキラ先に帰ったから。飲みすぎちゃって体が火照るから昂ぶりを醒まさなきゃだって~!ひゅーひゅー」
がっ!!
「そんな下品に言うもんじゃありませんわ!そういうニコも飲みすぎです。エリカさん、皆さん、今日は本当にありがとうございました。わたし達もお先に失礼致します。では」
「ガチで付き合ってんのね」
「残念」
「美形もあそこまでいくと観賞用よ」
「な~に~?狙っていたの~?」
「まさか」
「オレ、ショックです」
「僕も」
「お~ら、二次会行くぞ!!」
「「「「「うぃ~っす」」」」」
読んで下さり、ありがとうございます。




