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34 光の道

少年の元へだけ聖糸せいしを伸ばしていた。

悪霊に覆われた状態なのに本人に穢れが出ないなんて事もあるわけがない。

絡め捕った悪霊は私に攻撃された事に気付き、憎悪をこちらに向けてくる。


急に悪霊を体から外された少年の顔は青白い。

倒れそうだがまだ自力でそこに踏ん張ってもらいたい。

予定ではもう少しコールを引き伸ばしてから再登場する予定だったが、少年が持たないだろうと判断して早めの再登場になった。

盛り上がりに任せて神気を浴びせる。


予想外…。

少年は口許を押さえて蹲った。えづいているが、本当に吐き戻しているわけではない。

でも、私達には視えていた。

会場全体を見渡せば、少年の様にえづいている人は他に居る。「ナニカ」を口から出している人達がいる。

それはピンポン玉サイズからメロンサイズまで様々である。ただ、一様に出した後はすっきりしていた。

そして、守護霊が嬉しそうにくるくると回っていた。


少年は一人、まだ苦しそうだ。次から次へと口から出てくる。

「もう少し頑張って」と祈りながら彼にだけ神気を浴びせる。

私の背中があの時と同じような不快感を得た。

それをマリエルに伝える。マリエルの合図で四人で会場内を回る。

私とマリエル、ジルとリコルに別れて歩く。

手を振る。マイクを客席に向けて歌ってもらう。リコルの煽りに客席の盛り上がりが最高潮に。

私は少年に神気を送り続ける。


《頑張れ仁応にんおう。わたし達が付いている》

「あ、あ、あぁぁ…ぐ、おえっ…はぁはぁ…うっぷ」


少年の苦しむ声と高位守護霊の声が聴こえる。


《一人ではない。もうすぐだ。祓え!開け!!》


ちゃんと彼に声は届いているだろうか。

少年の頭から光が真っ直ぐ天井、いや天上に向かって伸びている。

思い切って神気を声に乗せて会場中に広げた。

吐き出されたモノが次々と消滅していく。


『カミーユ、駄目です!止めなさい』


マリエルの声が焦っている。

あれ?何かヤバイ?やらかしちゃった?


『カミーユ~。あー、もう僕知らないよ』

「えっ?」

『呆けてないで上を御覧なさい。わたしも知らんぷりしたいですわ』

「は?」


会場に流れていた曲が止まる。スタッフもお客さんもただ上を見ていた。

少年に気を取られていた私だけが気付くのに遅れたようだ。

その少年も苦しさが落ち着いたのか一緒に上を見ている。


「な、に、あれ」


隣にはマリエルが立っていた。


『きれいですねぇ』

『うん。ん?』


マリエルとは思えないのんきな返事に思わずぱちぱちとする。


「キラ?どうしましょう」

「どうしましょうかねぇ、ミュウ」


うわぁ。笑っているけど青筋が出ていますよ。その血管、プチっていかないよね?血圧注意ですよ。


「余裕ですねぇ。誰のせいだと?」

「あの少年かな」


目を逸らす。


「ミュウ、本当に?」

「えっと、多分?」

「ほら、この場を治めないと。私達のライヴだもん。……ほら、ほら、ね?えっと。…そんなに見つめられたら照れちゃうんだけど。もう、『ちゅっ』。キラ、大好きよ。ね?何とかなるから機嫌直して?」


マリエルがにやりとする。


「もう一度、お願いできますか?」

「ん。どれを?……もう、恥ずかしいじゃん。『ちゅっ』あっ」


ちょっ、マリエル、べろチューなんてしちゃだめ。腰が…いやん、止まらなくなっちゃう。

…?…?あれ?何か大事な事忘れてない?


しーん。


あー、天井がきれい。まるでオーロラだぁ。光の柱がのぼっちゃってる。それに七色の光。

幻想的だなぁ。

ここはどこ。

私は誰。

ああ、ああ?ああ~~~~~~!!!!!


「次がほんとに本当のラストよ~!」


曲を流してもらう。開き直ってマリエルと手を繋いで歌う。

客席から囃す声といや~、嘘でしょ~という女性の悲鳴。そして男性からブーイング。

その声がまた一段と大きくなる。

リコルがジルをお姫様抱っこをしてステージを走っていた。


「僕達、ニコとウララも売約済みだから、そこのところ宜しく!」

「ですわ」


少年を見ると彼だけはまだ光の柱が上がっていた。安定するまでもう少しかかるだろうか。

歌い上げると私達は挨拶をして下がった。

すぐにスタッフにお願いして少年を医務室へ連れて行くよう指示をだす。


「俺達、会いますので帰らせないで下さい」


とマリエルが念をおす。

控え室に入るととりあえず浄化をしてきれいにする。これで汗臭さや会場独特の匂いもとれたはずだ。

そしてコップに聖水を注いで飲む。

一応、水筒に聖水を注いでおく。少年に飲んでもらうかもしれないから。



◇◆◇


師匠に出会ってから体がすっかり楽になったと思っていた。実際そうだった。

だんだんと日常生活も儘ならなくなっていく恐怖。それを取り払って仕事まで与えてくれていたのは師匠だった。

でも。今なら解る。体はすっきりと軽く、世界がくっきりはっきり見える。

今と比べたら以前は靄が掛かっていた様に思える。それほど違うのだ。

自分の体が光に包まれている。何も言われないから他の人からは見えないのかもしれない。

どうなってしまったんだろう。

体自体はすっきりしているが何だか酷く体力を消耗した気がする。

せっかく師匠からチケットを貰ったのに、途中から体調が変だった。

ミュウとキラって言っていたあの人達、あのアパートの夫婦だ。

素敵な歌だった。あんな夢の中みたいなキラキラ。あんなに歌に力がある吟遊詩人を初めてみた。


口から出たアレ、何だったんだろう。でも、アレを出せてからぐっと気分がよくなった。

考え事をしているうちに体の光が収まってきた。

頭から光の柱が上がっているのも感じている。その柱がじょじょに細く収束していく。


《光の道が開きました》


その声が危険なものでは無い事がわかる。


仁応にんおう、あなたは一人じゃない。安心しなさい》

「本当に?」

《いつでも話せるわけではないけれど、いつでも側にいるから。わたしの気配がわかるでしょう?》

「うん」

仁応にんおうには使命があるわ。もう出会っている》

「それは師匠?」


質問してみたけど多分違うと思った。


《いいえ。むしろ、あれは敵だった。あなたから早く引き離したかった。できなくてごめんなさい》

「ううん」


そっか。今のこの感じを得ていなかったら声の言う事を疑った。


《これからじきに運命の一つに出会う。彼等は味方。わたしも一緒。開いた道は閉じられない》


声の言う「運命の一つ」。

部屋に近づく足音。

それがそうなのだと思った。


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