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32 足音-3

く、苦しいです。ギブです、ギブ。ギブアップです!

タンタンタンタンと叩くがその振動にオエっとえづく。


「自業自得でしょ。心結みゆうってさぁ、カミーユより暗くて自己評価が低くて、うじうじしてるよね。

そろそろちゃんと心に刻みなよ。そのうちマリエルに監禁されちゃうよ?」


ケホッと軽く咳が出た。


「マリエルっ、わたしに向けるその視線は筋違いですわ。カミーユ何とかなさいっ」


うん、分かっているんだよ。でも、ジル可愛いし、女の子だし、仲間だよ?

ヤキモチを焼くマリエルの方に問題があると思うんだけどなぁ。


「俺達は今日の予定は全てキャンセルします。それぞれいい様に。ではそういうことで」


私を抱えて寝室へ向かう。いや、もう、何をされるかは分かっていますよ。

お叱りを受けながらお仕置き…キャッな事も有り…を受け、たくさんの愛、文字通り溢れるほどの愛を注ぎこまれ、抱き潰されました。かろうじて意識は保っているけど。

花びらと表現される内出血だらけになっているんだろうなぁ。部屋に居るからしばらくすれば消えるはずだからまだいいけどさ。

呼吸もまだ整わない。出そうとした声は、叫びすぎたせいで掠れてしまう。


『お水』


私の念話にマリエルはにこやかに応えてくれた。

まだ上気したままなのはお互い様なのだろうけど、色っぽさに思わず目を逸らす。


「こっちを向いて?」


甘い声に誘われて見遣る。

口に含んだ聖水が私の口内へ流し込まれる。口に入った瞬間、外側をマリエルの体温で温められた軟らかい口当たりの水が喉を流れていく。喉から胃に向かっての冷たい感覚を味わう。

私が目を閉じているのをいい事にマリエルの手がまだ濡れたままのソコに手を這わす。

体がビクリと跳ねる。


『えっ、やだぁ、もう無理だよ~』

「今までのはお仕置きですよ。これからはオレの愛情を受け止めてもらう時間です」


嘘~。やだ~。冗談でしょ。

もう、体中が性感帯みたいになっちゃってるから!


「へぇ。それはいい事を教えて頂きました…なんて。そんな事、言われなくても、反応で丸分かりでしたけど」


この、鬼畜~!ドS!!絶倫王!!!


「鬼畜でドSで結構。それも俺の愛ですから。絶倫の王様ですか褒め言葉です」


もうっ!でも、気持ちいいし幸せ感じちゃうんだもんなぁ。

すっかりマリエルに堕ちきっちゃってますよ。

マリエル分かっているのかなぁ。

私だってマリエル無しじゃ生きて行けないかもって思うくらい愛してるんだけど。

恥ずかしいから絶対言ってあげない。

知ったら、もっと激しくなっちゃう気もするし。


◇◆◇


『ふふ…ふふふ…困りましたねぇ。これは教えてあげるべきかこのままこっそり聞き続けるべきか』

『マリエル!悩んでないで早く教えるかソレやめてよ!僕もう大変なんだから』

性質たち悪すぎですわ。んんっ、わたしももう…』

『ジル、辛いなら僕の所に来る?』

『それこそジルとリコルの二人でするべき会話でしょう?』

『『…』』

『僕達のことは放っておいてよ』

『あなた達の代わりにわたし達は仕事していますのよ!こんなの聴かされてまともにできると思ってますの?』

『くっ…。今日の分も全部明日に持ち越しだから!』

『マリエルっ!あなたのいうカミーユの可愛い声をわたし達に聴かせたままでいいんですの?』

『………………利益の方が高いので、よしとします』

『んだよ!』

『君達こそ、久しぶりに仕事の相棒ではなく、人生のパートナーの関係に戻ってみたらどうですか?兄弟や双子という家族の枠を離れるのは久しぶりなのでしょう?』

『本っ当に嫌なやつだよね。僕はもうそのつもりだよ。うるさいんだよ、お・や・じ!!』

『わたし達ティーンエイジャーから見たらオッサンですわ』

『『ねー』』


◇◆◇


青年になりかけの少年が走る。その足取りは30分前とは別人のようだ。



頭、背中、お腹が酷く痛む。原因は分からないがこんな風に痛む事が度々あるのだ。

友人達は自分と居ると気分が良くなるから、気持ちが明るくなって元気になるからと喜んでくれる。自分に会いに来てくれる。

でも、それが何時からだろう…酷く苦痛になった。

喜んで会いに来てくれる人と過ごした後ほど体がキツイ。

だんだん人と会うことが苦痛になってきた。

自分と会うことが楽しいんじゃない。何だか分からない不調を取り除きたいから、────自分を利用する為に近寄って来るんだ。

体が重い。痛みに耐える気力が急速に萎えていく。

辛くて流す涙に気付いてくれる友人は居ない。

辛いんだと訴えても、大丈夫かと声は掛けてくれてもそれだけだ。

お前達のせいで苦しんだ。楽にしてくれるわけじゃないならもう来ないでくれ!!

それでも、心配している風を装って楽になりにやってくる。

誰も理解しようとしてくれない。


「見舞ってくれるならそこに食料でも置いてってくれ。人に会うのが辛いんだ」


鍵を掛けておく。ドアは開けない。心配だから顔を見たいという。嘘だ。心配なのは誰?


「誰か、助けて」


嘆きは誰に、どこに届く。


「神様、居るなら助けてよ」


時々、気のせいかとも思うけど何かの気配を感じた。神様かと思っていた。神様が助けてくれる為に力を貸してくれているんだと思っていた。

でも、体は辛くなる一方で。そして、神様の気配だと思いたかったもの、その気配を感じられなくなった。

小さな支えが無くなった。その小さな支えは思っていたより大きかったらしい。

何もかも終わったように感じる。希望って何?

嘆きは嘆きのまま拾われる事はないと決め付けた。

そんな時、大災害があった。

隣の国は生き残りが居ないんじゃないかってくらいの大惨事だったそうだ。

他人の心配をする余裕なんて微塵も無い。自分の事以外どうでもよかった。

でも、それを境に体調は元に戻った。


「もう、あの人達には会わない」


復興騒ぎでバタついているうちにこっそり引っ越した。

知っている人なんて居なくていい。もう、勝手に利用なんかさせない。

自分の為に生きるんだ。大事な人だけには力を貸してあげてもいい。

新しい人間関係を作るんだ。


田舎から都会に移った。

貯金はそれなりにあったけど、質素なアパートに越した。

同じアパートに住む若い夫婦?とは話した事はないけど、彼等とはすれ違うだけで少し体が軽くなるような気がした。いつも居るのか居ないのかすら分からない、謎多き人達だけど惹きつけられた。


そんな中、少し体調が悪くなってくる。

また、あの日々に戻るのか。

憂鬱だ。良くなった後だけに不安が増す。


街を歩いていると声を掛けられた。


「君、具合わるいんじゃないかい?私は医者じゃないけど心得はあるんだ。信用ならないなら治療は受けなくていいけど、すぐそこが我が家だから休んでいくといい」

「いえ、歩けるので自宅で休みます」


どこで休んだって良くはならないんだ。だったら気を遣わないで済む家で横になりたい。


「───ソレ、休んだって回復しないだろう?」


ドキリとした。ささやかな期待に心臓が大きく鳴る。これについて知っている?何なの?


「何で…。知ってるの?コレ、病気なの?」

「知ってるよ。治せるよ。楽にしてあげられる」

「ほんとに?」

「ああ。できるよ」


助けてくれる人が居た!!解ってくれる人が居た!!ああ、神様。ありがとう。

理解してもらえる人に出会えた嬉しさに涙が溢れる。外だというのにみっともないほどの泣き声をあげた。




案内された家でされたことは、ただ足先からふくらはぎ、太もも、下っ腹…と順番に手を触れ、見えない何かを流した後に外し、吸い取る作業だった。みるみる痛みが取れていく。


「楽になった。信じられない」


驚くばかりだ。


「あなたは具合悪くないんですか?あなたが吸い取ってくれた感じがしました」

「むしろ私はこうやって施術することにより、私自身が快調になるのです。だから、もしあなたが嫌でなければ毎日ここへ通ってきてくださいませんか?お互いに利があることです。いかがですか?」


迷わず答える「はい!」と。

この人に会えて良かった。人生が好転した。

この人を師匠と呼ぶようになった。師匠は照れていたが、そう呼ぶ事を許してくれた。

仕事は結局、師匠の助手となった。あの若夫婦らしい人を見ることがなくなる事は寂しかったが師匠の家へ引っ越した。

師匠は優しい。大事にしてもらえる事が嬉しい。体調もいい。

師匠のお蔭で耐性もできた為、どこに行っても誰に会っても酷い不調は起こらない。

師匠の信頼も得て、師匠の得意先からの評判も良くて、こんな短期間で一人で任されるようになった。

毎日が楽しい。


歌声に惹きつけられる。

あの人が歌っていた。

何だこれ。快、不快の両方が襲ってくる。


「師匠、助けて」


多分、顔は青い。周りは気付かない。大丈夫。ゆっくり帰ろう。

ナニカが耳元か頭の中か判らないけどササヤイタ。


《我慢して。離れちゃいけない》

《ハヤクハナレロ。クルシイダロ》

《今なら戻れる》

《タヨレルノハシショウダケ》


何を信じたらいいの?そんなの師匠に決まってる。

ゆっくりとその場を離れた。


「頑張ってくれる君にこれをあげよう」


渡されたのは、商工会イチオシの吟遊詩人のコンサートチケットだ。


「感謝の印だよ。偶には若者らしく遊んで気晴らししてくるといい」

「1000人規模だそうだけど、もう、人が多い場所でも大丈夫だろう?」

「はい!」


師匠の気持ちに応えられるように更に精進しよう。

師匠は嬉しそうに笑っていた。


次回はいよいよコンサートの日です。

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