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3 私の部屋

目が覚めた。一晩たったようで、外は朝を迎えている。


凄く見慣れた部屋だ。日本で生活していた時の6畳と8畳の2DKのアパートよりも余程見慣れている部屋である。

ぐるりと見渡すと壁に未読メッセージが展開されていた。


『カミーユへ

サポートを付けられなかったので、代わりに君の部屋を使えるようにした。最もチートといえるだろう。

成功と活躍、無事と幸せを祈っている。

特務課課長 リーヤ・ウェスト』


正直、寂しさや異世界で生活することへの不安は無くならないが、とりあえず衣食住と病院の心配をしなくてよくなった事に安堵した。即死じゃなければ大丈夫という事なのだから。

これらの心配をしなくていいという事が、どれだけこの部屋が凄いかわかるだろう。


壁に文字が浮いているのはうっとおしいのでメッセージを消す。身体はこの部屋で休んだ事によってすっかり回復していたが、お風呂にも入らず眠ってしまったのでなんとなく不快感がある。という事で、まずは入浴することにした。

脱衣所に入り、鏡に映る姿に叫びそうになる。

25年間、黒髪くりくり黒目の為幼く見える日本人だった姿は、カミーユ・カミュの姿になっていた。

ピンクの髪だが光の加減によっては何故か金色に見えるという色の、デジタルパーマをかけたかの様な大きなウェーブの出ているロングヘア。オレンジがかった茶色の瞳はパッチリと大きく、つり目で気が強そうに見える。元々168cmという身長でありながら52kgしかないスタイルもカミーユに戻っているせいで、身長は変わりないものの、榊心結がいつも着ているサイズの服だと胸と尻がキツかった。今までが細く薄かったというだけで、決してボンキュボンのグラマラスボディになったわけではない。…それでも、つい、自ら双丘を揉んでしまうのや姿見の前でポーズをとってしまうのは、…女心のはず…である。


女心も満たされ、入浴も済み、多少落ち着きも取り戻した所で身支度を整え、食事をすることにする。『冷蔵庫』とは名ばかりの不思議な箱から、出来上がったものでも食材でも食べる物なら何でも出てくる、しかも食器に盛られカトラリー付きで――から和食の朝食を用意する。

一人暮らしでついた悪い習慣でテレビを見ながら食べたい。テレビを点けてみる…映らない。異世界である影響なのであろうが、がっかりである。ものは試しにとBD・DVDプレイヤーやテレビに内蔵の録画されていた番組の再生をしてみると…できた!そういえば、部屋にディスク類があるが、日本に居た時の私物である事に気付く。録画されている番組も自分で録画していたものだ。続きが気になっていたのや特番、シリーズものの2時間ドラマ、大好きなアニメにスーパーヒーローもある。ラッキーである。当然、有料放送は映らない。

見れば他にもアパートにあったものが多くある。当面、娯楽に不自由しなくてよさそうだ。



何からすればいいのだろう。まずは近くの森を見てみる事にしよう。

そうそう、便利なもので、服はイメージすればクローゼットの中から取り出せる。引越す為に束ねておいたファッション雑誌が役に立つだろう。

靴は勿論下駄箱から何でも出せるが、履き慣れている昨日のペッタンコ靴を履き、手には植物図鑑を持って外に出ると、図鑑と靴が消えた。

試しに空間収納から昨日のサングラス等々出そうとするが出せない。入っている事は間違いないはず。はて?

部屋に戻ってみると図鑑と靴がある。今度は部屋の中でもう1度空間収納から出そうとすると、今回は出せた。

部屋の靴を履いて出る。靴はある。小枝をポキリと手折って収納する。出す。出来る。

地球の物はもう異世界には出せないって事かな。昨日は記憶が戻る前だったから出し入れできたってことかと、一人納得した。

今しなくてはならない事は、兎にも角にもあらゆる情報の収集である。言葉にしても、聞き取れたのか、言語が偶然同じなのか、自動翻訳されたのか判らない。今日は森を観察して、地球と植物が一緒か、動物はどんなものがいるのか見てみようかと思っていたけど、図鑑を持ち出せないので自分の知識にある有名なありふれたものしかわからない。それなら今日じゃなくてもいいと、人や町を探しに行く事にした。

心掛ける事。町の人の服装などをちゃんと見るまで、とにかく見付からないようにする。

髪を隠さなくて済みそうなだけでも有難い。昨日上空から見た時カラフルだったことから問題無いと判断した。

様子を見ながら100mずつ跳ぶことにする。

森の端の方に近付くと男の声がする。


『何としても神子を見つけよ』

『高所からの落下です。お亡くなりになっているのでは』

『それなら亡骸を探せっ!』


散りぢりになっていく兵士の一人が呟く。『麦が…』と。麦を倒さない様にかき分けながら歩く兵士、踏み付けながら歩く騎士。その姿は貧富の差、人民階級による差が激しいのではないかと推測させた。違うといいと思いながら、目印を見つけながら見つからない様に方向を変えて跳んだ。変わらず100mずつ移動する。そんな調子で移動していると、どうやら町の中入れたらしい。


「あれ?思ったより近代的」


騎士・兵士を見た後だった為、中世のヨーロッパ風を想像していた。もしくは、冒険者や魔物がいるような世界を。

なのに実際入ってみると、カミーユの日本的感覚で『普通』であった。一見すると地球と変わらない。

あの騎士や兵士、森の異臭は何だったのだろうと首を捻ってしまう。

コソコソと移動していると時々人の姿が見える。人々のその様子を観察する。

老若男女見る限り、服装もこのままで問題無いようである。チュニックにジーンズにスニーカーで浮くことは無い。なので、人が多い方の通りへ足を進めてみる。

どうやら大通りに出たようだ。車こそ見ないが、路面電車らしきものが走行している。電気かそれに代わるものがあるのかな。店舗に住居も町並み重視なのか揃えられて並んでいる。どれも一軒家ではなくアパートっぽい造りのようだ。地球のように高層ビルを見ることはないが、異世界といっても、十分に科学も発達しているように見受けられた。

…となると逆に困った事がある。カミーユが身元不明の不審人物になるかも…という事だ。それじゃあ多分まともな仕事にも就けないし、よってお金を得る事もできない。

つい歩道で立ち止まってしまう。空を見上げると雲のない水色の空が広がっていて、いい天気だ。ライトノベルで描かれていた異世界とは違っていて途方に暮れる。空の青さと眩しさが目に染みるなんて思いながら、こぼれ落ちそうになっている涙をギリギリで耐えた。

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