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28 披露

人生が長くなると成長というのはゆっくりになるものなのだろうか。

この世界の人間の平均寿命は約300年ほどである。地球の人間のおよそ3倍だ。

地球人と違い緩やかに老化していくのではなく幼少期、少年期があり、活動するのに肉体的に最も充実している青年期が異様に長く、そして壮年期、老年期がおとずれる。見た目が20代30代の期間が一番長い───見た目では年齢がわからない人だらけなのである。

ゲームやその他二次元世界でいうエルフみたいな感じになるのだろうか。


つまり、今更であるが…年齢不詳者だらけなのである。

同業者を探すのに『見る』ではなく『視る』状態でいることが多い常だったので、しかも、あまり他人に興味もなかったし?いや、本当にマリエルだけじゃなく私も、もしかしたらジルとリコルだって気を張りながら過ごしていたのかもしれない。そのせいか、街の様子をまじまじ眺めながら驚いていたのである。

ゆとりが無い時って自分自身じゃ気が付かないものなのかもね。

空回っている人って大抵そんな感じだもんね。うん。


今、こうやってゆるりと歩きながら向かっているのは商工会である。四人で訪れるのは初めてのことだ。


もう、今度こそのんびりと行こうと決めた私達は同業者を探すことを後回しにして、先に歌手デビューを果たしてしまおうということになった。つまりは、あの時は結論を出せなかったが、結局「もうあの感じでいんじゃね?」というリコルの一言で、半ば行き当たりばったりの計画…行き当たりばったりは計画とはいわないですね…となったのである。

そういえば、と思い聞いてみる。


「デビューイベントで歌うのって1曲だけなの?」


1曲が悪いわけじゃないじゃないけど、カップリングとかB面とか両A面とか、2曲以上の販売っていうのが日本では多めじゃない。


「こちらの仕組みとのすり合わせが必要ですから商工会に行くんですよ」

「あ、そうだったんだ」

「張り切りすぎてこちらの法に抵触しても面倒ですしね」

「もう1曲発表するなら、次はわたしがメインになりたいわ!」

「僕だって歌いたいんだけど」


複数曲にするなら一人1曲歌えばいいんじゃないかなぁなんて思うんだけど、最終判断はマリエルだもんね。

それにしても私が歌手かぁ。ホントに叶うんだよね。

私が表舞台に立って歌うんだぁ。未だにまだ不思議で、まだ実際デビューしていないせいかいまいち現実味が無くて。でも、妄想じゃないんだと思うと浮き足立っている自覚もあって。


「着きましたよ」


うん、夢の舞台に辿り着いたんだよね。そう、背筋を伸ばし胸を張る。


「おーい、先に入っちゃうぞ」


そうだよね。素敵な衣装を着ている私はマリエルに手を引いてもらいながら登場しスポットライトの下に入り、お辞儀をしてご挨拶。


「初めまして。『青雲の志』です。よろしくお願いします。『上弦の月』、お聞きください」


短い前奏に乗り遅れないように歌いだす。マリエルの指導の通りに。酔いしれすぎないように。歌い易いアクセントじゃなく曲がより魅力的になるように。フレーズの入りの音程だけは絶対外さない。ピシッと合わせる。

ああ、1番が無事終わった。間奏の間に意識を…拍手?盛大ではないけど、現実に聞こえている。


「えっ?」


あれ?ここ、商工会…だ。えっ?えっ?え~~~~~!!!

いつの間にか私が立っていた場所は、商工会のカウンターの前だった。

いつものお姉さん他数人が拍手をしてくれている。


「あ、えっと。……ご清聴ありがとうございました」


優雅さを取り繕ったまま一礼する。えっと、だから、誰でもいいからそろそろ説明して~!


「このような感じで行こうと思っているのです。それで、俺達のデビューイベントにふさわしい会場の手配をお願いしたいのですがどこがお勧めでしょうか?」

「いや~、凄いです!カミュさん、レイさん。私、あなた達が歌手だなんて、てっきりルックスだけで売るものだと思っていたので。

レイさんの言うとおりでしたね。カミュさんの歌を聞けばそこそこの広さの会場が必要だって納得できるって。いくら恋人でも持ち上げすぎ買い被り過ぎでしょって思っていたのですが。

いや~、参りました。これなら商工会からも後押しできます」

「あんた髪結いに拘っていた変わり者だろ?回覧板も回してやるし、ポスター貼る許可も出すよ。ちゃんと商工会のロゴ入りだ!」


見た目はお兄さんだけど、中身は気のいいおっちゃん?年齢不詳はこういうギャップがあって戸惑う。

あ、少し痛いんであまりバンバン叩かないで下さい。

喜んでくれて何よりですが。


「あ、そうそう。収容人数800人から1000人くらい入るところがいいですよね。ライヴイベントですよね…デビューということですが…10曲くらいは歌う予定ですか?トークも含めて90分くらいはもたせられますよね?曲球きょくじゅ…今はCDっていうんでしたね。は、幾つ位用意する予定ですか?レコーディングの場所は?スタジオに空のディスク運んでありますか?それからえっと」


お姉さんの勢いに押されながら話が急速に詰められていこうとしている。ぼやぼやしているとこの勢いに飲み込まれそうだ。マリエルまでがあっけにとられている。ここは私が物申すことに。


「あの、私達1・2曲しか用意してないのですが…」

「はぁ?何ですって!絶対売れるから10曲は用意しなさい」

「まぁ!でしたらわたし達も歌えるのですね!」

「ふ~ん、あなたも歌えるの?」


お姉さんの目つきが厳しい。


「俺達、これでも四人ともメインヴォーカルなんです」

「そうなの?私がOKを出した人だけ歌っていいわ。見極めてあげるから一人ずつ歌って御覧なさい」


何故かお姉さんの審査が入ることになった。

その結果、勿論四人とも合格である。


「お姉さん、何者なんですか?」


私の質問に、今日以前の少々ボケ気味?謎キャラだった雰囲気がすっと消え、眼鏡をクイッと上げる。


「今はただの商工会ギルド職員だけど、元は芸能プロダクションの社長だったのよ。なかなか逸材は居ないし飽きちゃったから部下に譲って辞めちゃったの」


おお。ここにも芸能プロダクションなんていう物があったとは。


「ねぇ、『青雲の志』さん。あなた達の為なら会社立ち上げて全面的に協力してもいいわよ?」


こういう交渉事はマリエルに任せよう。


『なんか怖いんだけど、あのオバサン』

『いやいやオネーサンでしょ』

『いーえ、あの女は間違いなく中身はオバサンですわ。女同士そういうことは何となく分かるものです』

『だよねー。絶対僕達より100年くらいは長く生きてるって』


もういや。何で年齢不詳だらけなのよ~!!


「せっかくですが、お断りいたします。商工会ギルドとしてだけの協力で十分です」

「そう?残念。気が変わったらいつでも声かけて。『青雲の志』のためならここなんていつでも辞めちゃうから」


何だかロックオンされているみたいだけど、食われないよね私達?



私達の考えが足りなくて不足していた部分をギルドのお姉さん、名前をエリカ・ヘイデンさんという。彼女のお蔭でさくさくと片付けて進めて行くことができた。

私達四人は、どんなに能力が高くともその道のプロには敵わないんだと反省させられた。

この国で活動を続けていく間はきっとたくさんエリカさんのお世話になるんだろう。

マリエルは密かに悔しかったようで、


『そのノウハウを手に入れてみせます。それまでは仕方ないので少しは女狐の掌の上でおどってあげましょう』


念話ですけど、いいんですか?マリエルの性格だとこれって心のうちに秘めた思いじゃないかとおもうんだけど?

どうやらジルとリコルにも念話が届いてしまったようで、多分私とジルとリコルの三人にしか聴こえないようにリコルが話しかけてくる。


『顔はしれっとしているのに、気持ち強すぎて念話使っちゃてるじゃん。あの顔、絶対気付いてないよ。超笑える。けど、気付かれたら後が恐ろしいから僕は耐えて見せるよ』

『ふっ。普段格好つけている男の声がこんなにしょぼいなんて笑えるわ。でも、わたしだって耐えてみせるわ』


二人とも頬がぴくぴくしている。

商工会にすっかり長居をしてしまった。もう、いいよね。


「皆、今日はもう帰ろう?」

「そうですね。細かいことはまた後日で」

「よし、帰ろう!」

「ええ、今日はここまででいいでしょう?」


四人で席を立つ。


「エリカさん、ありがとうございました。デビューに向けての準備、ご協力お願いします」


私が改めて頭を下げると、


「いいのよ。これも仕事だもの。全然気にする必要ないわ。応援しているわ。頑張りましょう」

「はい!よろしくお願いします」

「俺達からもお礼を申し上げます」

「「「ありがとうございました」」」


エリカさんはニコニコと手を振って見送ってくれた。



デビューは1ヵ月後。


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