27 徒歩
あれから午前中はそれぞれの作業に勤しみ、昼食はなるべく四人で摂り、その後時間が合う人だけでデビューに向けての練習をしてから各々の作業に戻る。そして、夕食後ににまた作業をしたり報告しあったりするという、そんな日々を送っている。
そんな中、私の歌唱練習中にそれは起こった。
「カミーユ、今のもう一度出来ますか?」
マリエルの問いにうんと頷く。言われたとおりにもう一度歌う。
「そうじゃなくて、先ほどと同じくです」
何がさっきと違うんだろう?少し離れた所で練習中の二人も何事かとこちらを見ている。私は同じ様に、いや、同じ様にしているつもりで歌う。
「違います。……偶然出来ただけでしょうか」
「えっと、同じつもりなんだけど駄目だったかな?」
向こうの二人もこちらにやってきた。
「何~、どうしたの?」
マリエルは私の顔を食い入る様にじっと見ている。きれいな顔で見つめられて照れくさい。落ち着かなくなりもじもじと動いてしまう。
「偶然、ですか」
今度は私から視線を外し、どこか宙を見ながら考え込んでいる。
「そろそろ説明していただけません?」
「僕達も暇じゃないんだよねぇ」
あまり調子に乗らないほうがいいと思うよ。心の中で先に手を合わせておく。
マリエルがスッと目を細め二人を見下ろす。そこだけ、気温が10度ほど下がった気が。
私は平気ですよ。余計なこと言っていませんから。
「カミーユ」
「はい」
ゴクリと唾を飲み込む。
「先ほどしたことですが、歌声に神気が乗りました。マスターして下さい。声に乗せること、それを自由自在に操れる様になって下さい」
「えっ?」
私そんなことしたの?そんなことを表でしちゃったら大変じゃないですか。
ええ!、ええ!!、必ずマスターしてみせます。自分のために…!
「ということで、緊急会議です。俺の中では方針変更を考えています。内容はカミーユが完全マスターすることが絶対条件になるといっておきましょう」
あの、私、今、どうすればいいのかしら?練習を続けるべきなのか、会議に参加するべきか。そんなことを考えながらおろおろしているとリコルから声が掛かる。
「ねぇ、カミーユ参加する気あるの?しっかりしてよね。『緊急会議』だって言ってるんだからシャキッとしなよ。ったくもう。マリエルってさぁ、なんだかんだでカミーユに甘いし強気に出れないよねぇ」
「そんなことないよ。マリエル怒ると怖いよ?確かに甘やかされて、ううん、甘えさせてくれるけどリコルが思っているよりハードだよ?」
「ええ。むしろ、甘さでいったら君達に対しての方が余程甘いですよ」
「もうっ、それはいいですわ。早く話を進めて」
そうそう。私だって邪魔したいわけじゃないんだから。
ぐるりと見渡し、各々が全員と目を合わせる。
皆の気が引き締まったのを感じる。
「さて」
マリエルの声で始まった。
◇◆◇
結果をいうと───結論は出なかった。
1番の理由は、私の出せる神気の強さが不明だったからだ。
マリエルが考えた案はこうだった。
聖地…旧王国に建て直されるかもしれない教会や礼拝堂、又はあの忍び込んだお屋敷、未だに見つけることが出来ない聖国にあってほしいまともな宗教施設のいずれかで、………もうこの時点で計画としては土台が崩れているような気がするのだが。
そして、私達がデビューしファンが付いてくれた後に聖地でコンサートを行い……いつの話になるんでしょうか。夢見る青年ですか。真面目に話すものだから笑えないんですけど。
多くが集まった中で、神聖視されるような場所で神気を放ち守護霊を目覚めさせ……そんなことしちゃったら下手すると私達が『神の御遣い』にさせられませんかねぇ?
で、その中に同業者が居たら、その人を上手く祀り上げる。教祖のように置く。その人が裏で使うほうがいいタイプなら、それっぽい人を別に教祖に仕立て上げて……。
もう、なんたって穴だらけ。
正直、マリエルが言う事とは思えないほど、マリエルの意見とは思えないほどであった。
◇◆◇
「マリエル、負担大きかったね。ごめん。急がずゆっくりいこうよ」
マリエル自身、自分が詰め込み過ぎていることに気が付いていなかったようだ。
リコルが心配そうに、座っているマリエルの肩に手を置く。
「なぁ、マリエル。僕達も忘れていたけど、いくら部屋に回復機能があったってやっぱり疲れは知らず知らずのうちに蓄積していくんだよ」
ジルもマリエルの傍らにしゃがんで手をとる。
「わたしもリコルもマリエルも久しぶりの肉体なのです。あの世と同じ感覚で動くことは出来ないのです」
私だけは25年という時間を地球で過ごしている為に、肉体を持つこの状態が当たり前で。むしろ、あの世に居た頃の能力が使えるようになり、部屋まで使えて。
四人の中で私だけが便利になっていた。
なのに、精神的にもマリエルに頼りきってしまって。
「ホント、ごめん。私、そういうことに全然気が付かなかった。頼りきりでごめん…」
寄り掛かるばっかりで、全然並べていない。
「そうじゃないですよ、カミーユ。俺だって今の今まで全く気付きませんでした。正直いって、今も自覚は無いんです」
そう、苦笑しながら言う。
「カミーユと二人きりで過ごしていられたこの時間を浮かれて楽しんでいたのですから。だから正直言って疲れが出たとしたらこの二人が来て、カミーユとの蜜月…いや失礼、愛の時間を邪魔されたから…でしょう」
言い直してもあまり変わってイマセンヨ?
マリエルの言葉に思わず吹き出した。沈んでいた雰囲気は一気に明るくなった。
「ブレないね」
「ええ、ブレませんわね」
二人のその返しに再び吹き出す。
「女性がその様にブホブホと豚さんのようにするものじゃありませんわ」
「ふふ、だって可笑しいんだもん、ふふっ」
私の笑いにつられる様に笑い声が重なっていった。
目尻に涙が滲む。
「ハハハ……、あ~おかしい。うん、別に急がなくてもきっと大丈夫だよ。今のところ悪い予感しないもん」
「えー、カミーユの勘て、そんな長期予報できないじゃん」
「ですが、いいでしょう。俺達が揃っていればどうにかなります。どうにかできます。ね、カミーユ?」
「うん、どうにかなるよ」
「んまぁ。さすがバカップルですわ」
「ま、いんじゃね?なるように成るってことで?」
四人揃ったことで、いきなり全力疾走だったんだもん。
もう一度ゆっくりから自分達のペースを掴んでいこうよ。
人生長いんですから、歩いていこう、ねっ?
夢も逃げていかないし、特務課の仕事だってまだまだ残っているんだから。
いつもお読み下さりありがとうございます。
来年もよろしくお願い致します。




