23 転機
私は正気にかえると右手と左手をぐっと握り、ガコッガコッと彼らの頭に拳を落とした。
「痛っ!」
「っつ~~。何すんだよっ!」
涙めでこちらを睨んでくるが無視だ。
二人を割ってマリエルのもとへ這っていく。マリエルの腰を擦りながら、
「大丈夫?ごめんね。自分で治癒かけてね」
「~~~」コクリ。
声も出せないほど痛いんだ…。私は優しくただただなでなでとする。
心の中で『痛いの痛いのとんでいけ~!…ジルとリコルに!!』と念じる。
「ジル、リコル。あなた達の部屋作るけど、二人で1つの部屋でいいわよね?」
なんだかもう疲れてしまったので、全部明日に送ってしまいたかったので、仲良し二人ならそれでいいだろうと手早く済ませようとすると。
「いいわけないじゃん」
「わたし達、あなた達と違って恋人同士でもなければ姉弟でもないのよ」
「一人1部屋にしてくれよ。ったく」
あーそうですか。そうでしたね。そりゃ悪うございました。
ですよね、ダメですよね。ええ、ええ、忘れていましたとも。ほんとすいませんでした!
でもね、疲れさせたの誰よ。ったくは私が言いたいわ。
目を離している間に、二人とも子供だった姿が大人に変わっていた。
瞳の色のせいなのだろう、大人になった姿はどこか神秘的にみえる。
「カミーユ、作ってくださるならベッドは広めでお願いしますね」
「僕も。せめてダブルサイズにして。今日は静かに眠れる場所だけあればいいよ」
「わたしも内装は明日にしてほしいです」
マリエルの部屋の隣に二人の部屋を作る。子供姿ならなんとなく大目に見ることができるが、大人の姿だと、どうしてこうも腹が立つのだろう。
「できたよ。また明日。二人ともおやすみなさい」
「おやすみ、カミーユ、マリエル。…ごめんね、ありがとう」
「おやすみなさいませ。ありがとうございます。明日からよろしくお願いします」
思わずクスリと笑みが出る。二人を見送りマリエルを向く。
「台風は去りましたか?」
「うん」
話せるくらいしっかりと回復しているようで良かった。
うなだれていたマリエルがガシッと抱きついてきた。
「今夜はもうムリです。…こうやってくっついたまま眠っていいですか?」
「うん、いいよ」
そのままごろんと横になり、マリエルを胸に抱き直して頭や背中を撫でながら眠りにつくことに。
『とんだ災難だったね、マリエル』
『カミーユの勘はやはりよく当たりますね』
『あの、壊れてない?ちゃんと使える?』
『…ご心配頂きありがとうございます。大丈夫ですよ。
カミーユ、女性がそのようなことを口に出すのはどうかと思いますよ』
『口には出してないもん』
念話だもん。
◇◆◇
翌日、ジルとリコルが起きるとまず先に二人の部屋を完成させた。
とはいっても、窓やシャワー室、トイレ、クローゼットの位置を決めてもらい配置しただけで、部屋の装飾や寝具のカバー類などは各々の趣味に任せた。何でもクローゼットから出せるようにしたので好きなように仕上げることだろう。…時間が掛かりそうなので放置だ。
二人を自由にさせるのも不安だったので、外と部屋の出入りを出来ないようにしておく。
マリエルはいつものようにバイトへ出かけた。
私は前回の二の舞にならないように今度こそしっかり下調べをするために出かけた。その時に廃業届けについて聞きたくて商工会に寄ったら、今日マリエルから出されたと聞かされた。
昨日の今日って…手際よすぎである。できたら一言欲しかったが、開業するときもマリエルに出してもらったのだからこれでいいのかな?
さて。異世界全体がここ…聖国ショイホーチが日本よりも科学の発展が遅れていると思っていたわけであるが、違った形でそれなりに進んでいたようである事を知った。思い込みって本当に目を曇らせる。
地球で使っていた電気と同じものではないが、それに変わるものが「電気」という名で生活に密着していた。私が異世界というところを勝手に文明が遅れているところだと思い込んでいただけだったらしい。むしろ発電所が無くても賄われていることを知ってしまった今は、何をもってして「進んでいる」と考えるか、その判断が難しいと思っている。
確かに神子達はさまざまな知識を授けたそうだ。
でも、「そのもの」を作り出すことはできず、聖国の職人達の研究の努力の賜物がこの街をつくった。
神子の多くが言ったそうだ。「パソコン」や「インターネット」に頼っていたからそれが無いとこれ以上出来ないと。「コンピュータ」に計算してもらわないとこれ以上出来ないと。「精密機械」の作り方なんて知らない、知っているのは使い方だけだと。
その言い分は私も理解できる。同じことが言えると思った。例えばパーマ液の成分を知っていても、それをどうやって作り出すか分からない。コスプレで使う生地が化学繊維で石油から作られることは知っていても、石油をどうしたら繊維にできるのか分からない。それ以前に、原油をどう精製したらガソリンや灯油にできるのかすら知識が無い。
一般人が持っている知識なんてそんなものなのだろう。
私があまりの酷さに驚いた地図だってそうだ。
自分で作ってみようとすら思わなかった私が、その苦労を知らない人間がバカにできることではなかったのだ。
瞬間移動で旧王国を跳んでみて回ったから大体分かる。だからといって、日本でありふれていた地図を自分で描けるかといったら、出来ない。
根っこのところでの価値観はどんなに時間が経とうとも変わらないかもしれない。けど、いやだからこそ変にこだわることを止めて知って受け入れていく努力をしよう。
全てを受け入れるなんて事も無理だとわかっているのだからお気楽にいこう。廃業したこともジルとリコルが来てくれたことも良い転機になったと感謝の気持ちがこみ上げる。
私は新しい一歩を踏み出すために忙しくあちこち見て回った。
『ちょっと、カミーユ!わたし達を置いて出掛けるってどういうことですの?』
『マリエル、僕も連れて行けよ。つまんないだろ』
二人から声が届く。聞こえなぁ~い。
『マリエルも二人に何も言わずに出てきたの?』
『うるさいし邪魔ですから。そういうカミーユも何も言ってないんでしょう?』
『だって、面倒くさいし?』
『どうせ出られないんです。放っておきましょう』
『帰るとき、声かけて。一緒に帰ろう?』
『早めに上がりましょう。少しデートしてから帰りませんか?』
『うん♪』




