22 守護
カミーユが髪結いをしていたときのマリエルです。
王国の始末を終えた俺はカミーユの手伝いをすることなく、旧王国を始め聖国内を転々としている。
ただぶらついているのわけではなく、「探し人」がいるからである。
絶対いるはずである。もしいなかったらボロクソに言ってやりたい。
「よっ、キレイな兄ちゃん。今日もよろしく頼むわ」
現場の責任者であるガタイのいいオッサンが気安く話しかけてくる。
「今日も頼んだぜ兄ちゃん。そんな女みたいな顔となりじゃ役立たずかと思ったら根性あるし百人力ときた」
俺の外見から、俺の力を最も見縊っていたここの兄貴分も言わなきゃ気が済まないのか、連日こうやって声をかけてくる。もはや挨拶代わりなので俺も流す。
「今日は向こうの地区を頼むわ。また一人でいいかい?」
「ええ、むしろその方がやり易いです。任せて下さい」
俺の肩をポンと軽く叩いて彼らは自分の持ち場へ行く。
初日、俺と組んだ現場のベテランを結局俺がフォローするという事になり、俺の足を引っ張るということがあった。カミーユがいたらいつもの様に「このチート男め」と言ったに違いない。
ここへは、印象が変わるように赤い髪のウィッグを被り、緑色のカラーコンタクトを装着し、瓦礫の撤去をしに来ている。『身体強化』をして、ばれない程度に巧く『空間収納』を使いながら行っている。だから俺の作業は驚くほど早い。
しかも、瓦礫の下から死体が出てきても嫌がらずに作業を進めるので、それも重宝される理由のひとつだろう。
住宅地に限らず、大水でいろいろ流してしまったので、何をするにもまずは瓦礫その他の撤去をしなければならないが、重労働のため、高額が提示されているが体力的に続けられる人間が少ないようで、連日、急募が消えることが無い。そんな中、もう2週間も続けている俺は、たった10日かそこらでここでは中堅扱いになった。幸いここには女性が居ないので騒がれることも無く大変遣りやすい環境である。
3日目の時に俺の活躍ぶりに「ある程度片付くまで来れないか?兄ちゃんだけ他の奴の3倍出すから!!昨日と一昨日の分の差額分も払う。頼む!!」と頭を下げて頼まれた。資金は必要だったし、俺にとってはここの労働環境も苦になるものではなかったので、「しばらくは来れますが、急な用事ができた時は休ませて下さい。俺も観光でこちらに立ち寄っただけなので…それでもいいですか?」と必要以上に長く引き止められるのを回避したうえで引き受けた。
俺はカミーユに関しては今は彼女のしたいようにさせている。
彼女が地球でしてきた仕事に対するこだわりも、心のうちをうかがい知ることも、遠くからずっと見てきた俺には自分の心の中を知るのと同じくらい簡単であった。
二人で共に仕事をしたい、するんだという気持ちは今も変わらない。
しかし残念なことに、別行動中に見て回った限り、その仕事を上手くやるには余程のアイディアを出して新しいやり方を探さなければ失敗するだろうと容易に予測できた。
でも俺はそれを分かっていて敢えて何も口出ししなかった。
最初から失敗するから止めろと言っても、現状、拠り所が俺だけの状態…それもまたイイのだが、でろっでろに甘やかしてしまいたいと思わないでもないが…それではあまりにもカミーユにゆとりが無く、逆に盲目的な程に「地球でしてきた仕事」や「地球での価値観」、「地球」に執着する可能性が高いと判断したためだ。「あの世」の価値観だけをもったままであれば、カミーユがあんなに揺れ戸惑うことはなかったであろう。
彼女の大きな支え「仕事」を通して、世界が違うということを肌で知ってもらういい機会だと捉えた。
見ていたからこそ分かる。
カミーユを縛っていたものはもう無いと気付いて欲しかった。
もう狭い鳥かごに閉じ込められてもいない、首輪もリードもついていない。
翼を広げることもできるし、大空で舞うこともできる。広い大地を力強く踏みしめ、早く強く駆けることもできるんだと気付いてほしい。
いくら任務があるとはいえ、俺達二人だけで今世の全てを懸けて浄化討伐と破壊をしなければならないなんてことは無いんだと思い出して欲しかった。
そして改めて、現実としてここで生きるということについて考え、もう少し世の中を見て学んで欲しいと願った。それができる人であると知っているし信じている。
これから先、任務を考えると、どこかに拠点を置くとしても旅をするのは必須である。
聖国ショイホーチの技術がこの世界に於いて本当に最高水準であるならば、これからの旅は生活水準が下がっていくばかりであることも心しておかなければならない。
◇◆◇
「探し人」は見つからない。仕事の合間や休日、休憩時間に視るが居ない。
もしかして考えているよりもずっと状況は悪いのだろうか。
「探し人」とはこの世界の同業者である。
いくら視ても、活動している『守護する者』をつけている人が見当たらない。
「ふざけるなと言いたいですね。『守護する者』が眠ったままって。
これじゃ、悪魔が増えるのは当然のことじゃないですか。
…異世界あの世は、情報を隠していましたね」
苦々しく思うが、あの世同士は本来は不干渉である。
地球でも未だにサタンが勢力を落とすことがないどころか、力をつけて地獄が深く広くなっていて頭を抱える大問題となっているというのに、異世界へ力を貸すという。地球あの世だって決して余力があるわけではない。
地球最上位の神様が何を考えて力を貸すことにしたのか自分達天使にはわからない。自分が考えても仕方ないことなので放置することにする。
「こうやって異世界をみると、なんだかんだで地球の人は神様を信じているんだってよくわかりますね。
さて、『守護する者』をどうやって起こしましょうか。要相談ですね」
『守護する者』─簡単に言ってしまえば守護霊である。
守護霊といっても、別に年がら年中、365日、四六時中張り付いているわけじゃない。
虫の知らせとして力を貸してくれたり、ふと魔が差しそうになったときに駄目だよと一生懸命止めようとしてくれたり、恋をしているときやプロポーズしようとしているときに頑張れと応援してくれたり、陰ながら支えてくれているのである。
そして、通常ならばこういう荒れているときには前を向くように寄り添って応援してくれるのである。
俺が探している「探し人」であるが、『格の高い守護する者』を連れている人である。こういう人は、今回の俺達同様に何かしらの任務や使命を持っていることが多い。だからそういう人を探しているのである。
こちらの担当者と力を合わせなければ、カミーユと俺の消耗が激しすぎる。協力はするが全てを請け負う責任はないのだ。そこまでしたら協力、応援の域を出ている。
「地球より長い人生です。焦らずゆっくりいきますか」
瞬間移動で跳びながら視て回る。
今のこの国の人々は、心身が弱った人を助けるのに心を砕いている。国を立て直すんだと気持ちが前を向いてバリバリ活動している。大きな目標を持ちまとまっている彼らの目はキラキラ輝いている。
こうやって生き生きと活動する人々を見て、この生き生きとしてキラキラと輝かせる瞳を持つ姿が永く続くといいと思った。




